マレーシアでも炎上とかあるのか、と思ったのがこの一件。しかもそれが日本人インフルエンサーが標的になってしまったと聞けば、余計に気になってしまう。
一体何が起こったのか。
きっかけは、とある日本人インフルエンサーがTikTokであげた動画であった。チェンドルと呼ばれる食材を調理してみよう、という微笑ましい動画であったのだが、その調理法が波紋を呼ぶことになった。
「これは何でしょう?」とチェンドルを購入するところから動画は始まり、チェンドルを鍋で茹で、マレーシアのラーメン☆と称した一品を完成。茹ですぎたのか”麺”は柔らかく、「どうやって食べるのが正解?」とコメントを残し、動画は終了。
チェンドルは本来はデザートに使用するものなので、コメント欄には、「それはラーメンじゃない。甘いスイーツに使うもの!」という、ジモティーからの訂正コメントが殺到した。中には、「チェンドルが可哀想」と誤ってラーメンとして調理されたチェンドルに同情する声も。
たった41秒の動画は、公開から10日で380万回以上再生され、2万以上のコメントがつき、国内メディアでも大きく取り上げられる事態となった。この騒動に対し、インフルエンサーは「マレーシアのことをもっと勉強します」と前向きに回答。
そう。内容的には、本来スイーツに使う食材をラーメンとして調理してしまったというものである。食への寛容性が異常に高い日本人なら、そうした変化球料理も”アリ”だと、受け入れてしまうだろう。むしろ、常に新しいものを出していかなければ生き残れない日本の市場においては、こうした斬新さこそが評価されるのである。
しかしマレーシアはそうでなかった。我々が誇りに思う料理を、”間違って”調理されたということで、一部のジモティーから反感を買ったのである。
たられば論であるが、事前に「本来はスイーツに使うものだけど、今日はラーメンとしてアレンジ調理してみます」と一言添えれば、まだあそこまでの騒ぎにはならなかったのかもしれない。
とはいえ、そこまでの配慮など入れ込む余地がないのが、昨今のSNS動画でもある。たった41秒の切り取った文脈だけで物事が発信され、人々は判断し、感情的に揺さぶられる。
ちなみにチェンドルが引き起こした事件は今回だけに限らない。CNNが発表した「世界のベストデザートランキング50」で、チェンドルはシンガポール発祥の食べ物と紹介したことで、「シンガポールだけのチェンドルじゃないかんな!」とマレーシアジモティーの反感を買った。
チェンドル自身は、シンガポールやマレーシアだけでなく、東南アジア全体で食されているものである。ただ、シンガポール特有のと表現されたことが、マレーシアにとっては気に食わなかったのだろう。
他にも両国で食べられている豚肉の煮込みスープ、「バクテー」は、マレーシアの方がいいだの、シンガポールの方がいいだの、その優劣を巡る論争が交わされている。
あまり食に関心がない私からすれば、うまければどっちでもいいじゃないかと思ってしまう。カルフォルニアロールや海外のネオ寿司だって、寿司だと私は思っている。
自由すぎ!常識をくつがえす海外の寿司。寿司バーガーから寿司タワーまで
一方で、料理に愛国心を委ねて、自国料理を誇りに思っている人もいる。食べ物の恨みは恐ろしいというが、本当に恐ろしいのは料理自身ではなく、料理に誇りを持つ人々を敵に回すと大変だということだろう。