何かにハマると徹底的に動かねばならない。嫌な性格である。というわけで、西洋美術にハマった私は、「TEFAF」へ行くことにした。
TEFAFは、中世から近現代までの美術品を集めた国際アートフェアで、オランダのマーストリヒトで毎年開かれている。
美術館に出回っていない作品も見れる!買える!ということで、世界中のコレクターに加え、富豪がプライベートジェットを飛ばしてやってくるという触れ込みである。
プライベートジェット!?
富豪だけでなく、クリスティーズやNYのメトロポリタン美術館など世界中の美術関係者も集まるという。ここで買われたアートが、今後美術館でも並ぶというわけだ。会場内にはオイスター・バーやミシュランシェフによるレストランなども併設。とにかく富豪っぽいワードが飛び交っている。
しかし、こちとら平民百姓である。プライベートジェットもカクテルドレスもないが、ベルリンから電車で7時間かけて、ちんたら行ってやろうじゃないの。富豪パーティとまだ見ぬアートを求めて。
会場内の様子
週末はホテルもチケットも高いので、平日の月曜日にずらしたわけだが、それでもオープン直後はこの人だかり。

入り口前の行列。皆チケットは事前に購入しているが、セキュリティチェックに時間がかかっている模様

銀座のような会場内の様子
美術館にはない出会い
美術館だと、有名な目玉作品というのがあり、大体みんなそこへ一直線に向かう。一応、TEFAFでもカタログはネットで事前に確認できるが、毎年出品作品も変わるため、情報は少ない。とにかく行ってみるしかないのだ。
また美術館のように地域や年代で大きく分かれていない。ギャラリーたちが小さなブースの中で展開しているので、ブースやギャラリーによって、雰囲気がガラリと変わる。

ド・ガネー版「サルバドール・ムンディ」。サウジ皇太子が競り落とした史上最高額の作品と酷似していることで知られる
私が個人的に気になったのは、「Swedish Lights(スウェーデンの光)」と題された作品群。雄大な自然を見ていると、寂しくもあるが、なぜか穏やかになる。

このほかにもオーロラをテーマにした作品も印象的

ルネ・マグリットの「原始的な事実」とディエゴ・ジャコメッティのバトラーキャット。謎の組み合わせが醸し出すシュールな空間に引き込まれる

額装もアクセントが効いている。マックスウェル・アームフィールドの「真実」。ギャラリーによっては、細かい説明が書いてあるので嬉しい。

新宿のLOVEがここにも
ダリもピカソも買える!?
アートフェアの特徴は、実際に絵を買うことができるということ。
買うつもりはないので、ブースに入りづらいと思っていたが、その辺は心配なかった。なぜならほとんどの人が見ているだけだからである。ギャラリーの人もそれをわかっているので、パソコンでカタカタ自分の仕事をやっている。時々、値段の会話が耳に入るが、「120」という桁がわからない数字だけのやり取りに、震えた。
アートはとんでもなく高いんでしょう、と思っていた。アートの所有=富豪と思い込んでいたので、数千万〜数億円というイメージだったが、中には100万円を切っているものもちらほら。
有名なダリでも版画やスケッチであれば、庶民が買えるぐらいの値段なので、思わず買おうか迷ってしまうぐらいである。意外と手が届くという感覚が芽生えると、アート巡りも断然楽しくなってくる。
陶器や紙作品も含めると、ピカソの作品はやたら多かった。大体どこの美術館に行ってもあるので、もうピカソはいいよ・・・という状態である。

ピカソはモフ系の絵も描くらしい

ピカソはイケメンも描くらしい

ダリの金ピカ像。お値段5万ユーロ(約1,000万円)

不気味の2大巨頭。ムンクとシャガール

なぜこれが4,000ユーロ(約73万円)もするのか。それが疑問だ
ギャラリーという空間を楽しむ
通常の美術館とは違い、ギャラリーのブースはアートを売る”ショップ”なので、より”商品”をよく見せようとする展示が印象的。

オランダのチューリップはあちこちに飾られていた。ルノワールもちらほら

ここにもチューリップ。会場の誰も見ていなかったが、会場にあるフラワーアレンジメントも美しかった
日本の浮世絵も出品
ヨーロッパ美術作品が多い中、葛飾北斎や喜多川歌麿など、浮世絵も展示されていた。なぜかここで無駄に愛国心を感じてしまい、海外に買われるぐらいなら買い取ったる・・・と思ったのだが、すでにほとんどが成約済みになっていた。恐るべし、浮世絵の人気。

パリの「ギャラリータナカヤ」ブース
富豪のパーティは?
さて問題の富豪パーティだが、残念ながらすでに終わっていた。そう、約1週間にわたって開催されたTEFAFだが、招待制のVIP達が集まるのは一般公開前の2日だけ。平民はもちろんそんな招待状は持っていない。
というわけで、一般客として参加したのだが、それでも会場には富豪感が漂っていた。会場を歩いていると、ディズニーランドのチュロス売りのごとく、ワインを乗せたワゴンが徘徊していた。ここに来ている人々は、マイボトルで水なんか飲まない。ワインで水分補給をするのである。
富豪かどうかの真偽は定かではないが、この上なく優雅なおじさま、おばさまがワイン片手にソファでくつろぐ姿は、一種の絵画のようであった。

食事やワインが楽しめるエリア
まるでアートのディズニーランド
絵画だけでなく、宝石やアンティーク、陶器、家具などあらゆるアート作品が展示されるTEFAF。洗練された空間で、人々はワインを口に含みつつ、社交に興じる。アートに興味がある人にとっては、まるで夢のような空間である。
買わない人にとってはそれはまるでディズニーランドであり、買う人にとっては巨大なアートショッピングモールである。
会場自体は、こじんまりとしているので、1日で回れると思っていた。しかし、200以上のギャラリーが集結しており、数時間で回れたのは、絵画セクションギャラリーのみとなった。全セクションをしっかりと回るなら、2日間は必要だろう。
マーストリヒトという街
最後にマーストリヒトという場所について。人口12万人という小さな町であり、オランダの首都アムステルダムから電車で2時間と、こうした国際的なイベントを開くには、少々アクセスしづらい場所にある。
なんでこんな場所で?と思ったが、実際に行ってみるとその理由が見えてくる。オランダの大都市からは離れているが、、ベルギー、ドイツの国境に近く、隣国からは行きやすい。日本人が多く住むドイツのデュッセルドルフからは電車で2時間ほどだ。
ホテルのオーナーに話を聞くと、「買い物するためにドイツから来る人も多いんだよ〜」という。確かに、おしゃれな個人ショップや美味しそうなレストランがあり、日曜日でも町は人で賑わっていた。ドイツでは、閉店法により日曜日はショッピングセンターやレストランが閉まってしまうので、ショッピングは楽しめない。

世界一美しい本屋?と言われる教会を改造した本屋がある
またEU発祥の地でもあり、「マーストリヒト条約」が締結された場所でもある。オランダ最古の街ということで、国内でも観光地として注目が集まっているとのこと。確かに、見た目はザ・ヨーロッパである。私が住むベルリンが、いかにエセヨーロッパかが分かる。
町を行く人も、洗練されている印象。富裕層が来る町なのか?と思いきや、先のオーナーの話だと「昔は、お金を持っている人が多かったね。週末で2,000ユーロぐらい使うとか。でも最近ではそうじゃない人たちも多くなっているんだよねー」と、オーバーツーリズム気味で失われつつある、昔の雰囲気を懐かしんでいた。
