本当にヨーロッパ?ベルリンが最も狂乱する日。地獄のメーデー

またあの日がやってきたか・・・

5月1日。つまり地獄のメーデーである。日本でも同様だが、日本では単なるラッキーな祝日として、扱われるのがオチである。ここぞとばかりに、労働者の権利を訴えよう!という人は多くない。

しかし、ベルリンは違う。

その日は、何万人もの民衆が町へと繰り出し、町の至るところで大規模なデモ、野外DJパーティーを敢行するのである。それだけを聞けば、一部の物好きがやっているのねと思うだろうが、ベルリンの恐ろしいところは、ほぼ全市民?と思うぐらい、大勢の人々がそれに参加するのである。つまりメーデーガチ勢だ。

ドイツの祝日は、デパートなどの商業施設やスーパーも空いていない。つまり、ショッピングや映画など日本における定番娯楽が封じられる上、道を歩けばデモ&パーティーなので、強制的にそのノリに巻き込まれるのである。

そう、ベルリンにおけるメーデーの過ごし方は、デモ&パーティーの一択。そして、この日はベルリンの街全体が最も狂乱する日と言っても過言ではない。

本当にここはドイツの首都なのか?とさえ考えてしまう。

そんなベルリンの狂乱をご覧あれ。

ベルリン、本気のメーデー開幕

ベルリン市民には、天気の良い日はとりあえず公園に集うという習性があるため、朝から大勢の人々が公園にやってくる。

メーデーが特に盛り上がるのは、ベルリンの東側にあるクロイツベルクと呼ばれる地区。中でもゲルリッツァーパーク周辺はデモやDJイベントで大勢の人が集まる。


公園の鳩もびっくりな人間の密集度。何をするわけでもなく、ただくつろいでいる

憎たらしいのは、メーデーの日に限って、めちゃくちゃ天気がいいのである。いつもは4月後半に入っても気温は15度前後で肌寒かったりする。しかしここ2年連続で、メーデーの日だけはいきなり25度近くにもなる。メーデー以降も、そうした天気が続くわけでなく、メーデーが終わると、また肌寒い気候になるため、天気ですらこの狂乱に加担していると言えよう。

政治も楽しいアクティビティに

そしてメーデーにおいて、政治は必要不可欠。ここぞとばかりに、左翼系の政党(ベルリンでは左翼政党が強い)たちがブースを出展し、人民は陽気な政治的アクティビティを楽しむのである。

政治家の演説を聞くのではなく、舞台ではバラエティ番組のようなコントが繰り広げられている。徴兵制がテーマ。それをまるでテレビを見るかのように、リラックスして見ている聴衆


トランプ大統領や金正恩など軍国主義の顔ぶれが描かれた缶を倒す、というゲーム。ドイツで徴兵制が再導入されることを受けて、反軍国を訴えるアクティビティとなっている。大人も子供もゲームに興じている

メーデーにテクノは欠かせない

ベルリンはテクノの聖地であり、この街で音楽といえばテクノなのである。踊るのに年齢は関係ない。老いも若いも一体となって踊る。そこにベルリンテクノの楽しさはある。


至る所に野外DJブースがあり、それを人々が囲み、爆音テクノに合わせて踊る。すぐ横は住宅街。ベルリンなので爆音が響いても気にしない

彼らは何も考えずに爆音ミュージックで、踊っているだけではない。必ずそこには、政治的なスローガンが存在する。ベルリンには、私が普段考えないようにしている社会や制度への違和感を、声を大にして訴える人々が大勢いる。

本当は、そんな小難しいこと考えたくない。そんなこと言ったって社会は変わらない。けれどもベルリンの人々は、人々は小さな違和感を見逃さず、声に出し、連帯して、社会を変えようとする。


DJブースのスピーカーに”Spotifyクソくらえ”というスローガン。アーティストに不当な報酬しか払わない一方で、企業が肥やしを得ているのが気に食わない模様

この”クソくらえシリーズ”は、ベルリンでは定番のスローガンで、アマゾン、Googleといったグローバル企業だけでなく、ナチスやメルツ首相なども標的になっている。ベルリン市民は、巨大なものが嫌いらしい。

とにかく人が多すぎる

ベルリンで大勢の人民が外に繰り出すとどうなるのか。ドイツ人にとってはビール=水なので、街の至る所で、ビール瓶や缶など大量のゴミが発生する。


街のあらゆるところにビール瓶や割れた破片が転がっている

これらは、回収所に持っていくとお金になる。そのため、街中では、よくビン集めを生業としている人がいる。そうした人々も、この日ばかりは、大きな袋を抱え大忙しである。ベルリン市民は、社会的弱者に優しいため、ゴミ箱に持っていかず、こうした人に直接飲み終わったビンを提供している人もいる。


ビン回収に携わる人々。大きな袋を持っているのが目印


普段狂っているベルリンがさらに狂乱するので、よくわからない光景も。バスローブを着たワニのぬいぐるみがツボ。ベルリン版パペットマペット


人民が大量に行き交うため、メーデーの中心となるベルリンの東側はどこもホコ天状態

この日は人民の大群から逃れるのは不可能

人の多さは、渋谷スクランブル交差点、サウジアラビアのメッカをも凌駕していた。その中心が若者で、いったいこれだけの若者はどこから来たのだろう・・・?少子高齢化と言われるドイツとは思えない光景だ。


酒と音楽がある場所は、だいたいこうなる


あらゆる事態に備えて、ポリスも大勢出動。こんなに多くのポリスを一度に見たことはない


ベルリン人民が大騒ぎする中で、マイウェイを貫く人々も。中国人アーティストによるオープニングイベント。この日見た唯一の資本主義的な光景。ここだけ空間が表参道。

深夜12時まで若者たちがデモで訴える

その日予定されていた数々のデモの中で、最も大規模なものが「革命的メーデー」デモ。おおよそ1万人が参加したというデモ隊の横には、警察が列をなしており、時々赤い煙幕が立ち上り、あたりは異様な空気が漂っていた。

主張に耳を傾けると、「パレスチナに自由を!」といったポップなものから、「ナチスは出ていけ!」、「ベルリンは警察が嫌いだ!(警察が近くにいる)」、「メルツは自分のキンタマなめとけ!」といった単なる悪口にしか聞こえないものもある。

やっぱりベルリンなので、先のシュプレヒコールにしても、車の荷台に乗ったDJが爆音のテクノを流し、ラッパーが「フリー!フリー!パレスチナ!」などと左翼風にアレンジした歌詞をメロディに載せていく。いかにもベルリンらしい。

反資本主義・反国家主義もこのデモを支えるテーマとなっていた。一部の富裕層だけがますます富める社会と欺瞞だらけの大きな政府が許せないらしい。ともすれば社会・共産主義を掲げている。共産党のシンボルを掲げる若者たちもちらほら。まさかこのご時世に、あのシンボルを見るとは・・・

そう。ここベルリンは、ヨーロッパの中でも資本主義らしからぬ都市とも言われている。とにかく先のような左翼勢力が多いからである。実際に、道端で真っ赤な旗を掲げる男性に話を聞くと、「この旗は労働者のシンボルだよ。両親が生まれたのが旧東ドイツで、その当時のものなんだ。労働者はとにかく戦っていかなければならない・・・」うんぬんなどと、真面目に語るのである。

意外だったのは、若者の参加者が圧倒的に多かったということ。祝日だというのに、わざわざこの長尺デモ(夜6時から深夜12時まで)にやってきて政治的な主張をする若者がひどく不思議に思えた。

通常の都会の祝日だったら、皆思い思いに過ごしていただろう。飲み会するとか、ゲームするとか、寝るとか。しかしここでは、社会を変えるため、ラウンドワンにいそうな若者たちが、「メルツ、クソくらえ!」などと叫んでいるのである。

ひたすらベルリンの町を練り歩くこと10時間以上。気づけば帰る時にはすでに5月2日になっていた。

メーデーはベルリンらしさが最も凝縮された日と言えよう。町中が熱狂する日。個人主義のヨーロッパにありながら、ここには都会には見慣れない連帯がある。それは、ヨーロッパらしくないベルリンの個性とも言える。