世界の多くの場所は、男と女で構成されている。女もしくは男しかいない場所など、漫画や映画の世界くらいの話だと、多くの人は思うだろう。
しかし、そんな場所が本当に実在するのだ。そこは、行けども行けども男しかいない。メンズタウンである。
これはそんな男だらけの町に、紛れ込んでしまった人間の体験である。
男女比率がおかしなことに
メンズタウンが存在するのは、サウジアラビアの首都リヤドの一角にある。そこに住むのは、外国人労働者と呼ばれる人々だ。
決して治安が悪いというわけではない。近くには観光スポットもあるし、訪れたのもたまたま滞在するホテルがその場所にあったという理由である。
大半のメンズはインド、そしてパキスタン、イエメンなどで構成されている。ここサウジアラビアの人口は3,400万人だが、うち外国人は1,100万人。つまりおおよそ3人に1人が、外国人ということになる。
これは何も珍しいことではない。オイルマネーで潤う、湾岸の産油国ではよくあることだ。
オイルマネーで国が急発展することになったものの、自国民の数は少ないし、働き手もノウハウも経験もない。そこで、大量の外国人たちを招くことで、その成長を可能にさせた、というのがこうした国の成り立ちである。
しかも、労働者としてやってくる外国人の大半は、男である。ゆえに、サウジアラビアの人口構成はこんな風になっている。
サウジアラビアの男女別人口比率。青が男性、ピンクが女性。働き盛りの30~44歳が圧倒的に多い。
こちらは同じくオイルマネーの国UAEの人口構成。もはや魔法のランプ形である。UAEは元々の人口が少ないので、こうなってしまう。
婚活しようと思ったら、もはや絶望的と言えるぐらい、圧倒的な男性比率が高いのである。
ただしこうした出稼ぎの人々は、本国に家族を持っていたりするケースも多い。婚活どころではなく、むしろ家族を養い、自分が生きていくのにも必死なのである。
世界最大のメンズタウン?
メンズタウンに到着して数時間は、特に違和感を感じることはなかった。けれども、半日、1日、数日と過ごすうちに、これは何かがおかしいと気づき始めたのである。
女がいない。
男だらけなのである。
大晦日のアメ横バリの賑わいを見せるメンズタウンのマーケット。客も売り手も男。
見渡す限りメンズしかいない。
メンズの行列
この町の住人も、もはやこの町で女が生活するということは、想定していないらしい。一応、施設として女性トイレや女性用の礼拝スペースもあるのだが、そのほとんどが閉まっていて使えない状態だった。
女がいないとはいえ、メンズタウンの住人たちは、女に対して攻撃的でもなく、排除をしようという様子も見られない。可もなく不可もなく、そっとしておいてくれるし、そこそこフレンドリーである。
先も見た通り、比率で言えばドバイがあるUAEの方が、圧倒的に男が多い。けれども、あちらは元々の人口が少ない。サウジ人口と比べると、その数は3分の1である。
ドバイやクウェートにも同じような雰囲気の場所もあるが、ここリヤドにあるメンズタウンは、人の数といい、規模といい、もしかしたら世界最大のメンズタウンと言えるかもしれない。
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女性を発見したと思いきや
さすがに、ちょっとぐらいは、女性もいるっしょと思っていたら、ようやく女性を発見!
しかし、何か様子がおかしい。近づいてみると、それは物乞いだった。
単なる物乞いではない。
この国で異常なほど安賃金で働く外国人労働者に、金をせびるサウジ人の物乞いである。正直いうと、彼女らは目以外は黒い布で隠しているので、現地人かは判断がつきかねる。男という可能性もある。目元と仕草で、おそらく女性としたまでである。
モスクの前を通った時。礼拝が終わった直後のようで、多くの人がモスクから出てきていた。その入り口には、6人ほどの物乞いと思われる女性が、空き箱を持って並んでいた。
赤い羽根募金よろしくお願いします!と言わんばかりである。
オイルマネーの国だとか石油王というイメージに隠れてしまっているが、サウジアラビア人でも貧しい人はいる。自国民の200~400万人が1日17ドルほどで暮らす貧困層だと言われている。
メンズタウンにあった仕事の求人票。時給は330円から420円と書いてある。この場所で暮らす労働者の多くが、月給5~10万円で暮らしている。
石油収入を国民にばらまくことで、政治には口を出さんでね、という姿勢を貫いてきたサウジであったが、もはや国民の数が多すぎて、そのお金すら行き渡っていないようにも見えた。
これは国としては、恥である。なにせ他のオイルマネー国を見渡せば、道端で物乞いをする国民(ビジネスで物乞いをする奴はいる)など皆無だからである。
クウェートやUAE、バーレーンは、そもそも人口が少ない。だから、オイルマネーで自国民をバックアップし、賄っていけるのである。
サウジが外国人観光客を長年拒んでいた理由は、これだったのかもしれない。
特定の国民が貧困状態にあり、王族や国王が豪遊していたら、一揆の一つでも起こすだろう。けれども、それをこの国でやったら投獄や死刑である。
お国の政策や国王に文句を言おうものなら、さいならである。これは、外国人であっても例外ではない。
観光ビザが解禁になったのは、石油以外の収入を増やすためである。なにせ原油価格で、収入が上がり下がりするので、経済は安定しない。もしも、サウジに十分なお金があれば、引き続き鎖国を続けていたかもしれない。
赤ちゃんを抱いて物乞い
日が暮れたメンズタウンを歩いていた時。昼間にはいなかった女の物乞いたちが、道端に座り込んでいた。冬とは言え、昼は物乞いをするのには暑すぎるのだろう。なかなか戦略的である。
中には、赤ちゃんを抱いて物乞いをする女性もいた。
いや、騙されてはいけない。物乞いというのは、金を得るために己の体さえ傷つけるやつもいるのだ。この赤ちゃんだって、同情を引くための演出道具である可能性もあるのだ。
そんな疑い深い私をよそ目に、低賃金で働く外国人労働者たちが、気まぐれに彼女たちに、お金を渡していく。
どこかで見た光景だと思ったら、それはイラクのバスラだった。幾度の戦争でインフラがやられ、復興の目処が立つどころか、悪化するばかりのバスラ。疲弊したかつてのオイルマネー国家と、同じ光景がここにあったとは。
その後、何度か別の場所でも、物乞いに遭遇した。
道を歩いていたら、「5リヤル(150円)でいいからくれ〜!」と見知らぬ男に追いかけられたり。怖すぎたので、必死に逃げたが。
オイルマネーよ、どこへ行った?
メンズタウンといえども、女が完全にいないわけではなかった。
けれども、4日ぐらい歩き回って、見かけた男が5,000人近くぐらいなのに対し、女性は数えることができる程度。その数は、50人ほど。比率で見たら0.8%である。
しかも、そのうちの3分の1の女性は、物乞い女性という結果。
もはや、女性はほぼいない。そう結論づけてもいいだろう。男だらけの町には、いろんなリアルが渦巻いていた。