7割が男?高齢者がいない?ドバイの不思議な人口構成

たまに町で高齢者を見かけるとはっとする時がある。

まるで近所のスーパーに四角いスイカが売っていた時のように、物珍しいものでもみたような感覚に陥るのだ。そうして初めて、この国には老人が極端に少ないのではないかと思うようになる。

ドバイの人口の8割以上が外国人で構成されているのは、よく言われていることである。しかし注目したいのは、人口を形成するとんでもなくアンバランスな年齢構成なのだ。

ドバイの人口を年齢別見ていくと、違和感がある。不気味な人口構成とでも言おうか。

国連で定義されている60歳以上を高齢者とすれば、ドバイにおいて高齢者は全人口のたった2.5%しかいない。人口の25%が高齢者(この場合の高齢者は65歳以上)だといわれている日本とは大きな違いである。

UAEの年齢別人口構成比(2016年)

もはやある年齢層の男が多すぎて図形に収まりきらなくなっている。

日本の年齢別人口構成比 (2016年)

一方でUAE全人口の58%を占めるのが25歳から44歳までの年齢だ。

さらに男女比で見ていくと男性が7割とこちらも日本とは違い、男性の人口が多い構成になっている。外国人の多さも目を引くが、このアンバランスな人口構成を紐解くことが実はドバイを理解する一つの手がかりでもある。

いくら外国人が多いと言っても、老若男女が等しくドバイにやってきているわけではない。

ドバイの生活を支えるのはほとんど働き盛りの男たちといっても過言ではないだろう。タクシー運転手、マンションやモールに必ずいる警備員、そしてなんといってもドバイの町であちこち見られるインフラや建築業に従事する労働者たちはみな男だ。


ドバイの人口の大半を占める働き盛りの労働者たち

そのほとんどは、みな自国で十分に稼げる仕事がないため、ドバイへ流れ込んでやってくる。家族を自国に残し、単身でドバイへ出稼ぎにやってきて、ドバイで稼いだ金を母国の家族へ送金しつづける人も珍しくはない。

ドバイの7割は男だということを証明するのにぴったりなのが、ドバイのビーチで年に数回見られる「野郎ビーチ現象」である。これは私が勝手に命名したものである。

関連記事:男しかいない!?野郎ビーチに行ってみた

ラマダン(断食月)明けの祭日には、労働者たちもたまにの休みを利用してこうしたビーチに羽を伸ばしに来る。労働者の大半は、パキスタンやバングラディシュなどイスラム教が多数派を占める国からだ。

そんな祭日を喜ぶ労働者でビーチはあふれ、98%は野郎が占拠するという状態になるのだ。これこそがドバイの人口のアンバランスさを物語っている。


見渡す限り野郎しかいない野郎ビーチと化した海辺


普段のビーチの様子。信じがたいが先ほどの野郎ビーチと同じビーチである。

一方でなぜドバイには高齢者が少ないのか。ドバイが建国したのは1971年である。それ以後都市の整備が進み、ドバイが今のような世界中の外国人が住みやすい町になったのはここ数10年の話である。

それ以前は、砂漠や灼熱の夏といった厳しい環境にあったため、乳児の死亡率が高かったと言われている。そんな状況であるから長生きも期待できない。

世界銀行が発表したUAEの平均寿命を年代ごとにみていくと建国前の1960年では、平均寿命が52歳だったのに対し、2015年には約78歳までに上がっている。それでもまだ建国してから1世代ともたっていない。高齢者が増えるのは、もう少し先の話になるだろう。

さらにドバイの人口8割以上を占める外国人についていえば、ドバイは外国人の高齢者が住む場所としては向いていない。

なにせ家賃、物価が高いので、年金暮らしでやっていくのは相当きつい。

それにドバイは働く人間、消費する人間のための都市であるから、金を使わずに人生の余暇を悠々と楽しむといった場所やアクティビティがほとんど存在しない。

建国直後に両親がドバイへ移住し、ドバイで生まれたというアラビア語が堪能なイギリス人に聞くと、両親は退職後にイギリスへ戻り生活をしているという。

ちなみに数十年前のドバイは英語のみで生活できる環境ではなかったため、アラビア語は必須だったのである。

長らくドバイに暮らしている外国人たちも引退すれば、母国へ戻っていく。これが出稼ぎ都市ドバイと、そこに住むドバイ市民の関係である。

中東研究者の中には、こうした自国民が圧倒的に少ないことからアラブ主張国連邦を含めたほとんどの中東の国は「国もどき」だという指摘する声もある。

国際政治の専門家である高橋和夫氏の著書「中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 」では、中東で「国」と呼べるのはイラン、エジプト、トルコのみであり、自国民の人口が他の湾岸諸国よりも圧倒的に多いサウジアラビアですらも国もどきだと指摘している。

その大きな理由として、自国民の少なさゆえに国を組織するのに必要な、強い民族意識や国家意識の欠如が挙げている。

確かに高橋氏の説は一理あるかもしれない。

世界を仰天させるドバイの大胆なプロジェクトや華やかさの裏で、側から見る限り手厚い福利厚生や高い年収が保証されているUAE人の教育や技術水準を見ていると、この国の将来は本当にに大丈夫なのだろうかと考えざるを得ない。

UAEは外国人におんぶにだっこ状態で、外国人なしではなりたたない。そこにUAEの国としての脆弱さが見え隠れする。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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