朝からクラブ。全裸男子に絡まれる

ドイツの日曜日は、基本すべての店が閉まっているので、やることと言えば公園でぼーっとするぐらいである。ドイツ人にしてみれば、公園でぼーっとするのも、立派なアクティビティらしい。

しかし私は、公園でぼーっとするのにも飽きたので、他にやることはないか・・・と探して行き着いたのが、例のキットカットクラブである。

朝8時からオープン!

朝からクラブて・・・

もはやナイトクラブではなくモーニングクラブである。

というわけで、前回同様に裸という狂った衣装を装着し、クラブへ向かった。日曜の朝なので、電車で行く。もちろん衣装の上には、普通の格好をしている。

クラブに到着したのは朝の10時。行列も悪名高きバウンサーも見当たらない。てっきりバウンサーがいると思って意気込んで来たのに。想定外の出来事に動揺し、入り口に立っていた毛皮を着た人に「あれ、今日ってバウンサーは、いないんですか?」などと、見たら分かるだろうという当たり前のことを聞いてしまう始末である。

意気揚々とクラブへ入ると、「へえ、日本人なのう?」、「このクラブに来たことあるう?ここではセクシーな格好をしないといけないよ〜」などと、言われる。ふむ、2回目なのだが、まだクラブ素人感は拭いきれていないらしい。入り口近くの窓からは、明るい日差しが差し込んでおり、朝なのにクラブか・・・という違和感がある。

しかしダンスフロアへ入り込めば、そこは全くのナイトクラブ。深夜に来た前回と何ら違わない。無邪気な日曜の朝からいきなりアングラな世界。流石にシラフでは入り込めないので、ビールを一杯グッとやり、とりあえず爆音で流れるテクノとアルコールを体に徐々に流し込んでいく。

バウンサーがいないかつ、日曜の朝のクラブは、客層も微妙に違った。

セクシーなドレスコードだというのに、太極拳でもやるのかというセクシーでもなんでもない格好で、テクノに合わせステッキをくるくると回しているおばさん。

こんなセックスクラブで、わざわざ棒を回す意味がわからないが、個人がいろんな形でクラブを楽しめるのもベルリンのいいところである。

基本的に若者が多いが、家庭を持ってそうな妙齢の女性たちも自由に踊っている。彼らが子持ちかどうか想像でしかないが、日曜の昼なら子供がいてもクラブで踊れるよなあ・・・と思ったり。

ベルリンでは基本的に子持ちだから、母親だから、何歳だから、というスペックに関係なく皆好きなことをやっている空気がある。そしてやっぱり今日もおじいちゃんは踊っている。

とまあセックスクラブなのに、こんなほっこりする光景もあれば、やっぱりやべえ光景もある。朝からコトに興じる人がいるかと思えば、

すぐ目の前で踊っていた男子。

遠くの方を見ていた10秒後、再び同じ男子を見やると

ひえっ

全身裸やないか・・・!

ええと。これはどう処理すれば良いのか。さっきは、パンツ履いていたよね・・・?セクシーはセクシーだが、何も衣装を着けていないのは違反じゃないのか?しかし、これも自己表現?だとすれば、許されるのか・・・?

しかも全裸男子は、なぜかズンズンと私の方へ近づき、

「ハロー」

ひい

さすがに全裸男子はやばいと察知し、私は踊りながら方向転換をし、やべえやつと距離を取るというエレガントなスキルを体得した。自己表現とやべえ行為は紙一重である。

バウンサーがいないと、こうしたやべえやつも紛れ込むんだな。ここでようやくバウンサーのありがたみを感じた。

ふとお立ち台を見やると、またしてもそこにはお初の光景があった。

女性が踊っていると思い、視線は無意識に上から下へ。

胸をさらけ出してるわねえ・・・

その10秒後・・・

ひえっ

ええと。男性の生殖器ですよね。

視線をまた上に戻す。これを素早く3往復ぐらい繰り返す。どちらが後付けなのか。混乱しそうになる脳に、キットカットの声が聞こえる。

──ここではあらゆる人による、あらゆる自己表現が許される。ただし他人に危害を加えない限りで。

そういうことにしておこう。お初なのでビビったが、これもまた多様性の洗礼である。世の中、男と女の体だけではないのだ。こうした未知の光景を見る度に、なぜだかベルリンのことを好きになっていく自分がいる。

クラブというと過激なイメージしかないかもしれない。私もそうだった。しかし不思議なことに、狂った環境でも、意外と人の温かさにあふれ、礼儀正しい人も多い。

「その髪型いいね!」

「そのサングラスいいね!」

そうした言葉をとっかかりに誘いをかけてくる人も時々いるが、大半は単なる褒め言葉のギフトである。

真っ暗なクラブから出ると外はまだ明るかった。日曜の朝クラブもいいもんだな・・・

キットカットクラブ
クラブから出たのに、明るいと不思議な気持ちになる

そして私は、クラブをハシゴするため、キットカットよりもさらに入るのが困難な世界的クラブ、ベルグハインへと向かうのだった。