日本人が、死ぬまでに見たい絶景!と鼻息を荒くするように、イスラーム教徒たちも、人生に一度はあの地へ訪れることを夢見る。
それが、聖地メッカである。
メッカはどんな場所?
イスラーム教の聖地はいくつかあるが、中でもメッカは最上級の聖地である。預言者ムハンマドが生まれた場所としても知られる。
年間を通して、世界中のイスラーム教徒たちが「ありがたや〜」と訪れる。特にハッジと呼ばれる巡礼の時期には、こぞって人が押し寄せ、その数は250万人にも及ぶ。
メッカはどこにある?
メッカは、サウジアラビア第2の都市ジェッダから車で1時間半ほどの場所にある。
メッカには毎年多くの巡礼客が訪れるが、メッカには空港はないので、ジェッダが巡礼の玄関口になる。
古くから世界中の巡礼客が訪れたメッカは、世界各地から商売のためにいろんなものが持ち込まれ、交易も盛んだった。
メッカの町。レンガ造りの家や新しい高層ビルが入り乱れる。
一昔前は、メッカ巡礼ついでに、メッカに居着いてやろうと言う人もいたようで、人々の顔もどこか国際色豊かである。
礼拝はメッカの方角へ
イスラーム教徒たちは、ほぼ毎日と言ってもよいほど、メッカを意識する。それが、1日5回の礼拝である。
イスラーム教徒たちが、礼拝をするのは、メッカにあるカアバ神殿の方角である。全世界のイスラーム教徒たちが、この方角に向かって礼拝を行う。
イスラム教の礼拝に関する疑問を解決!礼拝時間&方法を徹底解説
決して、自分の好きな方向に向かって礼拝したりしてはいけない。そのため、あらゆるところにメッカの方角を示す目印があるのだ。
モスクにある「ミフラーブ」と呼ばれるくぼみ。モスクの前方にあり、「こっちがお祈りの方角ですよ〜」と示している。
イスラーム圏のホテルでは、天井に矢印マークが貼られていることがある。これもまた、メッカの方角を示すのである。
ホテルの天井についている矢印。キブラはメッカの方向を意味する
礼拝は、清潔な場所であればどこでも行ってよいことになっている。なので、モスクや室内だけではなく、その辺の道路や駅の構内で、マイ絨毯をひき、礼拝をおっぱじめる人もいる。
現代では、メッカの方角や礼拝の時間を知らせるアプリがあるので、そうしたものを使って彼らもまた、メッカの方角に祈るのである。
メッカ巡礼は抽選!?
メッカへの巡礼はイスラーム教徒としてやるべきことの1つでもある。
メッカへ行くのは、時間もかかるし、お金もかかる。義務ではないが、余裕があるならやった方がええよ、というものである。
とはいえ、イスラーム教徒であれば、誰もが行けるわけではない。
メッカ巡礼には、巡礼用のビザが必要で、ビザの発行数も国に応じて決まっている。国によって当選者の決め方は異なるが、応募者が殺到すれば、抽選制という国もある。
昨今では観光ビザが解禁されたが、観光ビザで聖地メッカやマディナに入ることはできない。また逆に、巡礼ビザだとメッカ、マディナ、ジェッダ以外の都市に入ることはできない。
巡礼客の大半は、ツアーに参加する。だいたい20日ほどで、60万円近くはする。よほど、時間とお金のある人ではないと参加できないので、ハードルが高い。
そんなこともあろうかと、オイルマネーで潤う国のお金持ちが気まぐれに、行きたいけどお金がない!という人に、寄付をしたりすることもある。
さらに、政治的に対立している国のイスラーム教徒や一派には、巡礼出禁にしているケースもある。イスラーム教では、「人間はみんな平等やで☆」と説いているが、現実はそうでもない。
巡礼をオーガナイズしているのは、サウジ政府である。イスラーム教徒の中には、「サウジは巡礼で金儲けすぎ!聖地はイスラーム教徒みんなのものなのに」だとか「国で差別するとは不平等だ!」という人もいる。
メッカには何がある?
メッカは聖地と言われるが、どちらかというと聖都と言った方がしっくりくる、と個人的には思う。
メッカの街全体が、聖域とみなされており、異教徒はその聖域に足を踏み入れることはできない。メッカへ続く幹線道路には、「異教徒は入れません」と何カ国かで書かれた標識や検問所もある。
異教徒禁制の結界。異教徒は線の中には入ることはできない。
異教徒だけではない。イスラーム教徒にも、聖域ならではのルールが課せられる。
メッカ内では、殺生や流血、伐採なども禁じられている。つまりは、道端を歩いているアリンコや蚊ですら殺してはならず、ケガをして流血するのもアウトである。
メッカの訪問者が目指すのが、町の中心部にある「マスジド・ハラーム」と呼ばれる「聖モスク」である。
メッカの聖モスク
モスクと言っても、単なるモスクではない。聖地のモスクは、何から何まで桁違いなのだ。
モスクは巨大な上に、人も多いので、迷子になること必須である。自分がどこにいるのかすら分からなくなることもある。コミケ時の東京ビッグサイトのような感じである。
モスクの中庭には、黒い箱のような形をしたカアバ神殿がどんと構えている。「信仰の父」として知られるアブラハムの足跡がついたもの(信徒は本物だと信じている)もそばに展示されている。
黒い箱のような形をしたカアバ神殿。通常は神殿の中には入れない
聖地とつながっていたい人のためにか、ラマダンや巡礼の時期には、カアバ神殿やモスクの周りの中継映像をひたすら流し続ける番組などもある。
メッカ巡礼の生中継。実況などはない。ひたすら映像が流れるだけ。
カアバ神殿で、儀式を行った人々がのどを潤すのが、水飲み場。一見すると、学校の水飲み場のようだが、出てくる水は、イスラーム教徒たちが、「聖水」とあがめるザムザムの水である。
聖水ザムザムの水飲み場。水は無料。ザムザムの水は巡礼の定番土産になっている。
モスク内の休憩所。聖モスクは広い上に、人も多いので、体力も使う。祈ったり、寝たり、瞑想にふけったり、思い思いに過ごす。
マルワとサファとそれぞれ呼ばれる、聖なる岩山もある。岩山の距離は100メートルほど。巡礼者は、この山の間を7回行き来する。
岩山をひたすら往復する人々。男性は巡礼用のイフラームと呼ばれる白い服をきている。女性は巡礼において決まった服装はない。
拡張する聖地
聖モスクは、神聖な祈りの場と思いきや、聖地アトラクション満載のテーマパークのような場所である。
いや、もともとはひっそりとした聖なる場所だったのだろう。
けれども、空路の発達や人々の生活が向上することで、巡礼も昔から比べるとずいぶん簡単になった。それにより、より多くの信者が押し寄せているのである。
大勢の信者が快適に巡礼を行うためには、ある程度のシステム化や整備は必要だ。サウジ政府は、聖モスクの拡張や巡礼客を受け入れるため周辺地域の開発を進めている。
拡張工事が行われている聖モスクの周り
聖モスクの目の前には、高層ビルが立ち並び、世界で3番目に高いと言われる奇妙な時計塔がそびえたつ。高くつく巡礼費用は、巡礼ビジネスと皮肉を込めてささやかれることもある。
さらなる巡礼客を呼び込むために、聖地は拡張を続ける。巨大なクレーン車や高層ビルが乱立する聖地メッカは、どこか不思議な場所である。