女性のサッカー観戦解禁から1年。サウジでサッカー観戦に行ってみた

観光ビザをゲットするために、サッカーイベントのチケットを購入したものの、本当のところは、そんなに興味がなかった。

「イタリア・スーパーカップ」というイベントで、試合をするのはACミランとユベントスという欧州のチームである。サッカーの知識はめっぽうなので、どういうチームなのかもよくわからない。

イタリア・スーパーカップ観戦へ

ジェッダについた当日にイベントが開催される予定だったが、スタジアムは市内から離れているので、若干面倒な気もした。

このままジェッダ市内をうろつくか、と思ったところ道端で出会った暇そうなおっさん軍団が「今日はホラ、サッカーのイベントがあるだろ。これからみんなでテレビで見るんだよ」という。

こんなに楽しみにしている人を目の間にすると、せっかくチケットがあるのに行かないのはもったいない・・・ということで、スタジアムに向かうことにした。


ジェッダ市内からタクシーでスタジアムへ


ダイアモンドのような光を放つ試合会場のスタジアム

会場に着くと、すでに熱気にあふれていた。早足でスタジアムに向かうサウジの若者達。老若男女がそろいもそろって、スタジアムに殺到している。


入り口ゲートに押し寄せるサウジ男子たち。半ば野生化していた。

とりあえず人の流れについていくと、「女性の入り口はここじゃない。あっちだ」といって、別のゲートを案内させられる。男女の入り口は別らしい。

いくら女性もサッカー観戦ができるようになったとはいえ、こういうところが、まだ面倒である。

女性のサッカー観戦は1年前に解禁

女性セクションに到着し、チケットチェックを行う。周りのサウジ人達は、モバイルチケットでチェックインしているのに対し、私のように紙のチケットを持つものは少数派だった。

荷物検査では、なぜかカバンに入っていたペットボトルを取り上げられ、ペットボトルのフタだけをもぎ取られる。

ひえっ!?

一体、この世の中のどこに、ペットボトルのフタだけをもぎとる荷物検査があろうか。水が半分以上入ったペットボトルは、口をあけたまま再び私のカバンに舞い戻った。


指定の席まで、ボランティアの若いサウジ女性達が丁寧に席に案内してくれた。

サウジアラビアで女性が競技場でサッカー観戦ができるようになったのは、2018年の1月。たった1年前のことだ。それまで女性は競技場に入ることすらも許されなかった。

しかし、いまだ制限はある。女性一人の場合、観戦できるのは「ファミリーセクション」と呼ばれるスタジアムの後方席のみ。男性の同伴がなくても観戦できることにはなっている。


若いサウジ女子たちは、髪をさらしたい年頃


どこにでもいそうな夫婦

見る限りは、日本と同じ風景である。女性に関しても、アバヤは来ているものの、長い髪の毛をむき出しにした若い女子や、一人で鑑賞する女性。みなアバヤはきているのだが、髪をさらしている人は意外にも多かった。

奇妙なサウジスタイル?の応援

風景はごくありふれたものだが、試合が始まるとそこかしこにサウジスタイルが出現する。

試合開始直後には、謎の男がピッチに乱入。乱入ついでに選手と握手して、係員と鬼ごっこしながら退場していった。観客席からは笑いがもれた。この辺はまあよい。


乱入男つかまる

はじめはみな興奮しているのか、会場は歓喜に沸いていた。選手がゴール近くまでくると、ひな壇芸人のように一斉に席から立ち、シュートをはずすと、「あ〜!」と、さも残念そうにため息をついて席についた。

しかし、しばらくすると観客のサウジ人達は、手持ち無沙汰になったのかこっくりと黙り始める。あまりにもシーンとし始めたので、今度は会場全体に手拍子が起こる。

サッカーの試合で手拍子?

コンサートか。

サッカーの生の試合は、人生で2回ぐらいしか見たことがないが、それにしてももうちょっと応援方法みたいなものがあるんじゃないか。掛け声とか、応援歌とか。

それにしても手拍子て。なんだか、あまり応援なれしていない様子である。歌や踊りは反イスラーム的という考え方があるので、そうしたことも関係しているのかもしれない。

ちなみに隣に座っていたのは、サウジファミリー。スタジアム内は禁煙だというのに、堂々と席でタバコを吸い始める父さん。

タバコの臭いがあたりに立ち込める。一体、サウジの人々はどういう反応をするのか?と見守っていると、やはり前の席にいたインド人風らしき男性組が気づいた。後ろを振り返り、文句をいう。

「ちょっとお、ここタバコ禁止ですよ」

しかし、スタジアムでタバコを吸う父さんの肝は座っていた。

「問題ない」

この一言で片付けた。もしかしたらサウジのヤクザなんじゃないかと思うほど、毅然としていた。

サッカー好きというよりも娯楽の1つとして

その上、ファミリー席にいる人々は、サッカーを見に来たというよりも、とりあえず楽しそうなイベントだから来たというノリの人々のようであった。

とあるサウジ人の運ちゃんの「この国は娯楽が少ないんだよな〜」という言葉を思い出した。ようやく女性がサッカーを会場で観戦できることになって、サッカーを見に行く、ということ自体が新鮮な娯楽なのだろう。


ファミリー席の人々

応援しているチームもあいまいだった。はじめは、みなユベントスを応援していていたのだが、対するACミランの応援旗が無料で配布され始めると、みなこぞって無料旗を奪い合うのである。

しまいには、さきほどまでACミランに対しBoooh!とかましていた人々が、ACミランの旗を思いっきりフリフリするという、奇妙な光景が繰り広げられた。

まあ、サウジにゆかりがない外国チームなので、仕方がないのかもしれない。

しかし、サウジ人達が試合に一挙一動する様は、改めてこの人たちも同じ人間なんだよなあ、と感じてしまった。当たり前のことなのだが、それほどまでに、サウジアラビア人というのは、この瞬間まで想像さえつかない、人々だったのだ。

ニュースなんかではなんやかんや言われているが、民衆は、ごく一般の市民だ。けれども、ニュースで流れる断片的で偏見に満ちた情報が渦巻き、ようやく世界に扉を開こうとしている国では、それすらも埋もれてしまっていたのである。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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