独身女一人でもサウジアラビアの観光ビザゲット&入国するまでの道のり

注)これは2019年1月の話。現在とは事情がだいぶ違うのは承知だが、当時の記録として残している。

あまり知られていないかもしれないが、サウジアラビアほど入国が難しい国はない。ソマリアやイラク、リビアといった国と比べてもはるかに困難なのだ。

なぜ入国が困難か。

それは単純にサウジが観光ビザを発給していないからである。ゆえに仕事もしくはメッカへの巡礼といった特別な理由がない限り、パンピーが出入りすることはできない。

30歳未満、独身女性の単独入国はご遠慮ください

サウジへのグループツアーに参加することは可能。しかし、女性が一人で参加する場合、年齢制限がある。30歳以上ではないとダメなのだ。30歳未満の女性が単独で旅行する場合には、必ず父親か男兄弟を同伴しなければならない。

この事実を知った私はひどく憤慨した。なんで30歳未満の女は一人参加ダメなんだYo!
Booh!という野次を飛ばしてやりたいところである。


クラブツーリズムのサウジ基本情報

しかし、入れないとなると、余計に行きたくなるのが人間である。そんなわけで、私はドバイに3年ほど潜伏しつつ、サウジに行く方法を探っていた。

サウジに住んでいる外国人や、ドバイにいるサウジ人、ドバイからサウジへ巡礼へ行った人、サウジのオフィスで働く同僚など。

サウジに関係がある人と会うたびに「どうやったらサウジに入れるんでしょうねえ」と聞いてみるものの、返ってくる答えは「え?そんなん簡単だよ」というものだった。

んなわけないだろ。

考えてみれば、彼らはみな男である。しかし、30歳未満の外国人女性がサウジに単独で入ったというケースは、いまだ聞いたことがなかった。

はは。そうか。

これはきっと幻なのだ。

30歳未満の独身女にとって、サウジアラビアというのは、幻の国なのだ。

存在しないということにしよう。

などと現実逃避で脳内地図からサウジを消し去ってみたり、いっそのこと偽装結婚でもして、サウジに入ろうかとも考えたことがあった。

厳格なイスラームの国、サウジの心変わり

しかし運命の出会いは突然やってくる。

とあるスペイン人バックパッカーが、サウジへ観光ビザで入国した、というブログ記事を発見したのだ。

その事実を受けて、私は真に衝撃を受けた。「なななな、なんと。サウジに観光ビザで入れるのか?」。ワナワナと震えた。そしてその日を境に、今日に至るまでアドレナリンが出続け、おかげさまで短時間睡眠の生活となった。

彼の記事いわく、Sharekというサウジのスポーツ協会が主催するスポーツイベントに参加する人には、観光のe-VISAが発行されるとのことだった。(のちに調べてみたところ2018年12月時点で試験的な観光ビザの発給はニュースになっていた)。

しかも、特定の国だけにである。しかも、その特定の国に日本が入っているではないか。

イケる!

しかし、よく見てみればそのイベント・・・2日後じゃね?

観光ビザはイベントのために発行されるので、ビザ自体は30日間有効なのだが、イベント前に入国しなければならない、という制限がついていた。

突然会社を休むわけにもいかないし、次回に見送るか、と思えるほど、もう待てはしなかった。

ドバイで3年も待ったのだ。

もう十分だ。

翌日。

「いいですか。観光ビザで女性が一人でサウジに旅行に行く・・・これは歴史的瞬間といっても間違いないでしょう。明日の仕事は、歴史を作ること。そのために私は何が何でも休みます。この会社での明日の仕事よりも、人類の歴史を作る方が大事なのです!」

といった選挙演説のようなセリフを頭に入れつつ、上司には「突然ですみませんが、明日から2日ばかり休みください」とヘコヘコし、休みをとった。

秒速でサウジの観光ビザをゲット

休みを確保したところで、ビザを取得。Sharekのサイトで販売されているイタリア・スーパーカップのチケットを買う。お値段50リヤル(約1,500円)。


イタリアン・スーパーカップのチケット

同じサイトから、e-VISAの申請が可能。観光ビザ代は、なんと679リヤル(約180ドル)

なんだこの強気の価格設定は?

申請後すぐにe-VISAが発給され、メールで送られてきた。30歳未満でもお咎めなし。
イスラームの国なので、申請写真はヒジャーブをかぶっていた方がよいのだろうか、とおも思ったが、普通の写真で問題なかった。

なんだこのあっけなさは?あんなに観光ビザを出すのを渋っていたのに。

もうよい。サウジも改心したのだ。なにせサウジに行けるのだから。今までの独身女への無礼もこれで帳消しとしよう。

その後、ホテル、航空券を予約。翌日にはサウジへと旅立った。

反イスラーム的なものはお断り。荷物検査に震える

ビザをゲットしたとはいえ、不安はつきなかった。本当に30歳未満の女が、一人で入国できるのか?

なにせ前例を聞いたことがない。情報もない。下手したら、強制送還になるんじゃないか、と入国寸前まで考えていた。

それに入国時の荷物検査も厳しいと聞く。酒やポルノ、豚肉製品類、反イスラーム的なもの、他の宗教に関するもの(ロザリオやダビデの星がついたものなど)が見つかれば、即刻お仕置き決定である。

2年前にドバイでストップオーバー、最終目的地がサウジというフライトに乗った時のことだ。私はドバイで降りたのだが、機内のアナウンスで「これからサウジに行くお客様は、以下のようなものを持ち込まないでください。豚、酒、ポルノうんぬんかんぬん」とぬかしていた。

ゆえに、荷物は念入りにチェックした。

何がひっかかるかわからないので、とりあえずカメラのメモリーは空に。化粧品もアルコール分がないかチェック。

財布から、ダビデの星がついたイスラエルの紙幣と十字架がついたエチオピア紙幣を丁寧に抜き取る。空港のキオスクで買った雑誌に、過度な露出の女性がいないかチェック。

そして、いざ、ゆかん。

本当に独身女1人で入国できるのか?

なにせ30未満の独身女が一人で乗り込むのだ。

独身女でも観光ビザが取れるようになったことを知らない誰かが、「ちょっとお!」と牽制してくるに違いない。私はそれを密かに待ち構えていた。


サウジへのフライトは、格安航空会社の「フライナス」もしくは「サウジ航空」を利用するのが一般的。エミレーツ航空やフライ・ドバイもある。

しかし、チェックイン時も飛行機に乗り込む時も、誰もが当たり前のものを見るかのようにスルーである。

「あのー、お客さん」

ようやくきたか!と思って声のする方に振り返ると、「そこは緊急非常口なので荷物を置かないでください。もし、緊急時にはですね、こうやってドアを開けて・・・うんぬんかんぬん」と、おしゃれメガネの客室乗務員に説明された。

機内で特筆すべきことといえば、白いタオルをまとったおっさんたちがドヤドヤと乗り込んでいたことぐらいだろうか。申し遅れたが、私がこれから乗り込むのはサウジアラビアの第2の都市、ジェッダである。

ジェッダは、イスラム教の聖地メッカの玄関口でもある。メッカには空港はないので、巡礼者たちは一度ジェッダに入り、それからメッカを目指すのだ。

メッカへ巡礼する男性は、「イフラーム」と呼ばれる白いタオル2枚を上下に身につける。メッカ巡礼者の目印である。ちなみに女性の巡礼者は必須ではない。

ちなみにタオルの下は素肌である。タオルがまくれるたびに、おっさんたちの素肌を見せられる羽目になった。

そんなタオル巻きのおっさんたちとともに、ジェッダ空港へ到着。しかし、ここでもまるで私は空気だった。女が一人でうろうろしているのに、誰もとがめてくれない。もちろん、一人の女性は周りにはいない。

入国審査を待つ人もまばらで、とりあえず空いたレーンに案内するデキる係員のおかげで、客たちは早々に審査を切り抜けていった。

いよいよ、私の番である。

とりあえず「アッサラーム・アレイコム」と挨拶し、下手くそな愛想笑いを浮かべる。若い係員は、「ほう、日本からきたのか」とコメントしただけで、目の前の個体になんら違和感を覚えた様子はなかった。そして、写真撮影、指紋採取を終えて、ダンッ!と入国スタンプが刻印された。

パスポートをみたら、なんと断交中のイラン入国スタンプの横に、サウジのスタンプが押されていた。他にも押すところがあっただろうに。

ニュースだと両者の関係は、やいのやいの言われるが、民間レベルではこんなもんなのかもしれない。

そして、お待ちかねの荷物検査タイムへ。

しかし!

ただむなしく荷物を検査の機械に乗せただけで、終了した。

そして入国完了。

その間、たったの5分。


ジェッダ空港

えええええええ!?

芸人だったら絶対雛壇から転げ落ちている。

こんなに準備したのに、なんとむくわれないことか。ねえ、もっとちゃんと検査してよおお。豚も酒も入っていないか、ちゃんと見てくれよおお・・・

努力はいつもむくわれないものなのだ。

けれども、もうよい。サウジに入れたのだから。

3年以上待ってようやくかなったサウジ単独入国は、あっけないものだった。

サウジ旅行前に役立つ本

サウジに関する旅行本は、これというものがない。治安に問題があるわけではなく、観光客を大々的に受け入れてこなかったためだ。紹介したところで、観光客はこれないしねえ・・・という時代だったのだ。

そんな中、現時点である程度まとまった情報が得られるのが「地球の歩き方」。国土が広いサウジの主な観光スポットを網羅している。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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