異国へやってくると、どうも巡りたくなるのが地元の市場なのである。
そこには、観光スポットにはない、地元民の素顔であふれている。そして、その土地の人々が何を食べ、どんな暮らしをしているのか、ということも教えてくれる。
サウジアラビアの首都リヤドは、690万人が暮らす都市。そんな、サウジでもっとも多くの人が暮らすリヤドで見つけたスークをご紹介。
リヤドに行ったら必訪!アル・ザル・スーク

リヤドの中でも特に古いアド・ディラと呼ばれるエリアにあり、スークの歴史は100年以上にも及ぶという。現代サウジアラビアの始まりの場所となった、マスマク城から歩いて5分もかからない場所にある。
スーク内には、骨董品、民族衣装、絨毯、香料などジモティーの生活に欠かせないものが売られている。
サウジアラビアを含めたこの地域の伝統的な食器類。もともとこの地域に暮らす人の多くは、砂漠の遊牧民だったということもあり、食器類も非常にシンプル。
アラビア半島に住むアラブ人の暮らしに欠かせない沈香。木のランク、産地によって香りが異なる。
沈香は、一見すると小汚い木片であるが、お香台にのせて焚くと、それはそれは良い香りがするのである。沈香の多くは、インドやカンボジア産。高いものだと10グラムで3万円というのもザラだ。もはや香りの金である。
沈香は、サウジアラビアを含むアラビア半島だけでなく、日本でも推古天皇の時代から楽しまれている。聖徳太子が「なんやコレ。バリええ香りやん!」ということで、その香りのポテンシャルに気づき、平安時代の貴族の間でも親しまれた。室町時代には茶道や華道と並ぶ「香道」として大成した。
日本にも沈香は売っているのだが、そのほとんどがグラム売り。値段も高い。一方でこちらは、キロ売りが基本な上に、安いものから高いものまである。
この手のスークといえば、店員がグイグイと客引きするのだが、観光客がまだ少ないせいか、みな大人しい。
客引きしてきたかと思えば、一言目で「ディスカウント!」である。いろんなスークを歩いてきたが、買うそぶりすら見せないうちに、値引きを約束してくれるとは。このスークは、基本的に善人が多そうである。
ショップ巡りをするだけでも楽しいが、スークに行くなら金、土曜の午後の礼拝以降(だいたい午後4時〜)を狙いたい。この時間帯は、スーク横の広場で骨董市が開かれる。その片隅では、骨董品の競りが行われる。
アル・ザル・スークで開かれる骨董市。砂漠の遊牧民時代を暮らしを思わせるアイテムが並ぶ。
骨董市で売られていたもの。コーヒーを作るための道具などが多かった。コーヒーを入れるポットは「ダッラ」と呼ばれる。アラビア半島のコーヒーは、遊牧民たちの寛容なるおもてなしの心として、世界無形文化遺産にも登録されている。
イチオシ商品として紹介された、キツネのはく製。なぜかロシア産。
ジモティーたちが、一生懸命に競りをしているので、さぞかし高そうなものかと思いきや、商品を見てみると、どうでもよさそうなヤカンや、壊れているだけの古時計だったりするのである。
どう見てもガラクタのようにしか見えないのだが、ブランド物のカードケースが買えるような値段をふっかけている。
競りにかけられる商品(左)。競りの様子(右)
スークには、ジモティー男性が着ているトーブや、女性が着ているアバヤといった民族衣装も売られている。その中でも目を引いたのが、分厚いコートである。
サウジアラビアの国土は広く、場所によっても気候がだいぶ異なる。紅海に面しているジェッダは、11月から2月の冬季であっても、1日中あたたかい。一方で、リヤドは内陸部にあるので、昼は暑く、夜はめちゃくちゃ寒くなる。
寒さをしのぐために、ジモティーたちが着るのが「ビシュト」と呼ばれるコートである。なかなかカラフルな模様をしており、男女、そしてキッズ用もある。
ビシュトの生地は分厚く、毛布をかぶっているような心地になる
遊牧民的生活を送っていた昔から現代に至るまで、この地域に住む人々の暮らしがぎゅっと詰まったスークである。そして、人々はお茶目で懐っこい。なんだかホッとする場所だ。
スークの場所はこちらのマップを参照。
ファーマーズ・マーケット

毎週の土曜日限定で開かれる市場。地元の農家の人々が、自慢の野菜や果物を持ち寄り、販売している。メインは野菜、果物だが、地元の手芸品、はちみつ、オリーブオイル、デーツといったものも売られている。
サウジアラビアといえば、デーツの産地としても有名。8月末から11月末にかけては、デーツの収穫シーズンとなり、リヤドでは期間限定のデーツスークが開かれる。
デーツ自体は200種類以上あるのだが、サウジで取れるデーツだけでも50種類近くはある。中でも人気なのが「アジュワ・デーツ」。
通常デーツは、茶色なのだが、アジュワ・デーツは黒真珠のように漆黒の色をしている。他のデーツと比べても、ちょっと値段が高めだが、ほど良い甘さで食べやすい。
規格外の大きさのかぼちゃ。しかも値段は300円ほどと激安!
訪れるジモティーは、みな台車や巨大カートを転がしながら、爆買いをしていく。市場では、キロ売りが基本だ。
地元の女性がサウジ料理を販売しているコーナーもある。スークによったついでに、サウジコーヒーとサウジスイーツで休憩するのもよし。
市場は土曜の朝早くから日没までやっている。ただ、活気があるのは午前から正午にかけて。リヤドの中心地からは、車で15分ほど。マーケットの場所はこちらのマップを参照。リヤド市内の北部にあり、中心地からはやや離れている。
リトルインドの世界。アル・バトゥハ・スーク
インドやパキスタン、イエメンからの労働者たちが多く住むエリアにある。日用品や電化製品、衣服、食料など、生活に必要なものはなんでもそろっている。安く食べられるイエメンやインド料理屋などもあるので、食事にも便利。
金曜日の朝は多くの場所がしまっているが、ここだけはにぎわいを見せていた
「パーン」と呼ばれるインドの嗜好品。「キンマ」と呼ばれる葉っぱに細かく砕いたビンロウジを包んで丸ごと口に入れる。お味は、ものすごいメントス・・・
サウジアラビアにいながらにして、ちょっとしたインド感を味わえる場所である。スークは、毎日朝の8時から10時までやっている。スークの場所はこちらのマップを参照。
民族楽器がいっぱいアル・ヒッラ・スーク
「ウード」と呼ばれる民族楽器をはじめ、バイオリン、太鼓など楽器を扱うショップが連なるエリア。先に紹介したアド・ディラ地区から歩いて20分ぐらいの場所にある。
スークといっても、見晴らしの良いひらけた場所にあるわけではない。新宿にあるタバコ専門店のように、古いビルの中にひっそりと店がたたずんでいる。
ウードはサウジアラビアだけでなく、アラブ諸国で広く演奏されている楽器。琵琶にしろ、ウードにしろ、その起源は古代ペルシャの「バルバット」という楽器だと言われている。
ウードで一曲を披露してくれたジモティー。ウードのほとんどは、サウジ国外で作られたもの。
民族楽器とは関係のない、EDMをガンガン流しながら店番していたおじいちゃん。人の好みはよくわからない。左側にあるのは、ラババ(Rababah)と呼ばれるサウジ産のバイオリン。
中東や北アフリカで見られるタール(Tar)と呼ばれる太鼓。
仲間とともにしっぽりとウードを弾く会
イスラーム教では、音楽はあまり好まれないという。なぜなら、音楽の音色が心地よすぎて、人々の心を惑わしてしまうからや!という理由らしい。
これはイスラーム教に限ったことではない。ユダヤ教の超正統派たちなんかは、「特に女性の歌声は人々の心を惑わすので、けしからん!」などと本気で考えており、CDショップに行ってもおっさんシンガーのCDしかない状態である。
モスクから流れてくるアザーンも音楽っぽいが、イスラーム教徒たちは、「あれは、音楽やない!」と頑なに否定するぐらいだ。はたから聞けば、どう聞いても音楽である。
保守的なイスラーム教の国と言われたサウジであれば、音楽を徹底排除していてもおかしくないと思ったのだが。実際にはこれである。楽器を売るスークがあり、人々は楽器で音楽を奏でていた。
スークの場所はこちらのマップを参照。
ファーマーズ・スークをのぞけば、多くのスークは日没後から活気が出る。夏のサウジアラビアは、日中の気温が40度近くになることも珍しくない。冬季であっても、その日差しは強い。
多くの人々は歌舞伎町の住人のごとく日没から深夜にかけて活動し始める。けれども、彼らは酒を飲んだりするわけではないし、家族づれでスークやモールへと繰り出すのである。よって、健全な歌舞伎町の住人と言えよう。
スークは昼間に行ったら、ほぼゴーストタウンのごとく人気がない。サウジアラビアでスークに訪れる際は、タイミングも重要なのである。