イスラム教の国を旅した人なら一度は、耳にしたことがあるかもしれない。
モスクから流れてくるボワ〜っとしたアラビア語。歌のように聞こえるかもしれない。その正体はアザーンである。
アザーンとは?
アザーンとは、イスラム教徒への礼拝を呼びかける合図である。イスラーム教の礼拝所であるモスクから1日5回(シーア派は3回)流れてくる。
アザーンは、人力で行われており、その内容は世界のどこであっても同じ。
簡単にいえば、「お〜い、礼拝の時間でっせ〜、みんなモスクに集まれ〜」というものである。
イスラム教徒になる前までは、なんかおっさんがアカペラで歌ってるなというぐらいにしか思っていなかったのだが、今では礼拝の時間を知る重要な合図となっている。
一方でこのアザーンの「音色」の美しさに魅了されてイスラム教に興味を持ったという人もいるほどだ。
休暇中のモロッコで、アザーン(礼拝への呼びかけ)が耳に入ってきた。その”サウンド”に魅了され、何の音楽なのかと地元民に質問したところ、かえってきた答えは「神のための音楽」だった。この答えは「お金のための音楽」「名声のための音楽」「自己顕示のための音楽」にどっぷりと浸かっていた彼に深い衝撃を与え、改宗に至った
BLOGOS なぜ増える?イスラム教への改宗より引用
説明するより、実際に聞いて見たほうがいい。以下はロンドンの教会で披露されたアザーン。まるでオペラのようである。
アザーンのアラビア語はどういう意味?
アザーンは礼拝の呼びかけであるので、アザーンの内容もそれに沿ったものになっている。アザーンは定型文化されており、諸地域や宗派によって微妙な差はあるが、基本形は以下のようなものである。
1.アッラーフ アクバル
2.アシュド アン イラーハ イッラッラー
3.アシュハド アンナ モハンマドッラスルッラー
4.ハッヤ アラッサラー
5.ハッヤ アラルファラー
6.アッラーフ アクバル
7.ラー イラーハ イッラッラー
(日本語訳)
1.アッラーは偉大なり(2回)
2.アッラー以外に神は無しと証言する(2回)
3.ムハンマドはアッラーの使者だと証言する(2回)
4.いざ、礼拝のために来れ(2回)
5.いざ、成功のために来れ(2回)
6.アッラーは偉大なり(1回)
7.アッラー以外に神は無し(1回)
特に2、3は重要で、イスラム教徒に改宗するものはこれを2人の男性の前で唱えて(信仰告白)、改宗したとみなされる。サウジアラビアの国旗に書かれているアラビア語もこの文言である。
サウジアラビアの国旗
夜明け前の礼拝、「ファジュル」では5の後に、「礼拝は眠りに勝る」といった文句が入り、シーア派では「アリーはアッラーの友であると私は証言する」、「善行のために来れ」といった文言が入る。
ちなみにドバイでは、5の「成功のために来たれい!」という部分はカットされているようだ。UAEは君主制の国なので、政治活動は厳しく制限されている。「成功のため」というのも、こうした活動を助長するという文言になりかねないとして、カットされているのではないかと個人的には思う。
誰がどこからアザーンを発しているの?
「ムアッズィン」と呼ばれる人が、礼拝の呼びかけを行う。特にムアッズィンになるために必須の資格などはないが、イスラム教徒であること、信頼がおけ、声がよく通る者といった諸々の条件はある。
昔は「ミナレット」と呼ばれるモスクに併設する塔から、肉声でアザーンを行っていたが、いまではモスク内のマイクを使い、ミナレットのスピーカーからアザーンが流れるのが一般的になっている。
塔のようになっているのがミナレット。スピーカーがついているのが目印
アザーンが始まる時間は?
礼拝の呼びかけなので、アザーンが始まるのはたいてい礼拝前である。イスラム教の多数派を占めるスンニ派であれば、1日5回。シーア派は1日3回である。ちなみにペルシャ語が公用語のイランでも、アザーンはアラビア語で行われている。
礼拝時間は決まった時間に毎日行われるものではない。太陽の位置によって決まる。だから毎日礼拝の時間は微妙に異なるのだ。
礼拝のタイミング(スンニ派の場合)
1. ファジュル:夜が白み始めてから日の出前までに行う
2. ズフル: 太陽が頭の上にきてからアスルの礼拝まで行う
3. アスル:物の影が本体と同じ長さになった時から日没までに行う
4. マグリブ:日没直後からイシャーまでに行う
5. イシャー:日没後の残照が完全に消えてからファジュルの礼拝までに行う
おおよその時間帯でいえば、1.夜明け前、2.正午、3.午後、4.日没後、5.就寝前といった具合である。
ちなみにアザーンから礼拝が始まるまでの時間は国や地域によって異なる。ドバイの場合だと、マグリブ以外はアザーンから20分後、マグリブは5分後に礼拝が始まる。東京の代々木上原にあるモスク、東京ジャーミイで聞いてみたところ礼拝はアザーンから大体10分後に始まるという。
イスラーム教徒必須。アザーン時計&アプリ
毎日5回の祈りの時間。果たしてイスラーム教徒たちは、どのようにお祈りの時間を知るのだろうか。
ひと昔前であれば、礼拝時間が書かれたカレンダーなどで把握していた。それにアザーンの時間になると、時計からアザーンが流れる「アザーン時計」なるものも存在した。
イスラーム圏の定番土産としても有名なアザーン時計
しかし今やデジタル時代。礼拝時間になるとアザーンが流れるアプリも数多くある。
私が近所のイマームにすすめられたアプリが、「Salatuk」。礼拝時間は太陽の位置によって変わるので、日替わりでこのように礼拝の時間を示してくれる。礼拝時間前になると、アプリからアザーンが流れてくるので、モスクなり礼拝所なりに向かう。
1日の礼拝時間を場所に合わせて示してくれる(左)。メッカの方向を示している(右)
メッカの方向も示してくれるので、モスクが近くにない時や屋外で礼拝する時は、助かる。また場所を設定できるので、その国や場所に正確な礼拝時間を知ることができるのだ。
異教徒には騒音並みにうるさいアザーンだが・・・
イスラーム教徒にとっては、お祈りの合図であるアザーン。しかし、異教徒からすれば迷惑だという声もある。
ちなみに私は現在モスク近くに住んでいるので、365日毎日あのアザーンが聞こえてくるわけである。正月休みやお盆休みなどはない。毎日5回必ず流れるのである。自宅で電話をしている時に、アザーンが始まると「また始まった・・・・」と思うこともあった。
特にアザーンへの苦情が多いのはファジュルではないだろうか。明け方というのに、スピーカーでガンガンとアザーンを流すわけである。非イスラム教徒にとっては、騒音以外の何物でもないだろう。夜中の暴走族並に迷惑である。
実際に「アザーンがうっせえ!」と文句を言った人が逮捕された事例もある。アザーンにいちゃもんをつけることは、イスラーム教の人からすれば「神への冒涜」となるわけである。
イスラーム教の国にいる限り、大声で「騒音迷惑です!」ということはできないのだ。
美しいアザーンにはスキルが必要
イスラームとしてはがんとしてアザーンを音楽だと認めないが、どうしても音楽っぽく聞こえてしまうのである。個人的には音楽の中でも演歌に近いと思っている。
そんなアザーンだが、毎日聞いていると微妙な違いがあることに気づく。
豪華アーティストが名曲をカバーして思い思いに歌うように、アザーンもムアッズィンの個性によって、少々違ったテイストに聞こえるのである。
たとえそれが同じムアッズィンによるものでも、今日は氷川きよし風、昨日は都はるみ風といった具合にこぶしのつけ方が微妙に違うのだ。同じトーンだとムアッズィンも飽きるからなのだろうか。
前述したようにムアッズィンは、それほど厳しい資格や年齢制限があるわけではない。ゆえに通常のムアッズィンが不在の場合は代行でその辺にいる人が行うこともある。
1度だけその辺にいる人が代行したアザーンを聞いたことがあるのだが、まあそれがひどいのである。もうリアルなジャイアンのリサイタル状態である。
それ以後、当たり前だと思っていたアザーンがいかに美しく、熟練した経験とスキルの上に成り立っているのかを思い知ったのである。
マンガでゆるく読めるイスラーム
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