はたから見れば、サウジの挙動はおかしかった。やれ女性が運転できなかったり、公の場で映画上映ができなかったり。
あまりにも度が行き過ぎていて、厳格なイスラーム教の国と言われることも、珍しくない。
サウジアラビアは、イスラーム教の国であるが、その宗教ゆえにこんな狂気に走ったのだろうか。こんな疑問を抱かずにはいられない。そんなわけで、サウジアラビアと宗教の実際のところについて、ご紹介。
イスラム教徒が多数を占める国
サウジアラビア人口のほぼ100%近くが、イスラーム教だと言われている。しかし、注意したいのが、サウジでは宗教的な自由が認められていないということ。
入国するにも、仏教を含めた他の宗教グッズの持ち込みは禁じられている。仮にイスラーム教徒以外がいても、国はそれを認めないし、そうした宗教の行事を行うのもNGである。
イスラーム教の宗派で言えば、サウジのムスリム人口の85~90%がスンニ派。シーア派は対立するイランの国教ということもあり、同じイスラーム教とは言えシーア派への風当たりは強いものである。人によっては、シーア派は同じイスラーム教じゃねえ!という人もいる。
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サウジと他の国と違う点
かつてのサウジはイスラーム教の国としては、かなりイキっていた。なにせ、イスラーム教の2大聖地メッカとマディナがあるのだ。
イスラーム教徒はメッカの方角に毎日祈っているし、メッカは多くのイスラーム教徒あこがれの地である。世界中のイスラーム教徒を抱えるサウジとしては、イキりたくなる気持ちも分からなくない。
ゆえに、イスラーム教に関してもついつい厳しくなってしまう。国民の意見はさておき、国としては非常にイスラーム教的でありたいのだ。
そんなサウジでは、他のイスラーム教の国と違う点がかなりある。いわゆる保守的なイスラームが全面に出ていた形だ。思いつくままにあげてみると、こんな感じだ。
・宗教警察が非イスラーム的な服装や行動をする市民を取り締まる
・フードコートやカフェの注文窓口が男女別。パーテーションで区切られている
・女性のスポーツ観戦や運転の禁止
・公の場での映画上映が禁止
・女性が海外旅行やパスポートを申請する場合には、夫や父親の許可が必要
・博物館やショッピングモールは、女性専用の日(もしくは時間帯)が設けられている
・礼拝時間は、店の営業を一時停止しなければならない
イスラーム教徒が多数派を占める国は他にも多くあるが、ここまで徹底していたサウジは珍しかった。ゆえに、人権団体からしょっちゅう非難されたり、他の国に住むイスラーム教徒からも、「いやあねえ、あの国」と後ろ指差されるほどであった。
しかし、先に挙げたほとんどは、ここ数年で消滅している。アラサーであるムハンマド皇太子(通称MBS)による、積極的な国内改革に伴ってのことだ。
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厳格なイスラーム教の背景
サウジアラビアは厳格なイスラーム教の国と言われてきた。先のような、他の人間がかなりドン引くようなことをやっているからである。
世界で抜群に好感度が高いポケモンに対しても、反イスラームじゃ!などといって、ポケモンを禁止した国である。
サウジの厳格さを説明する上で、よく登場するのが「ワッハーブ派」という言葉である。ワッハーブ派というのは、イスラーム教の宗派ではない。それは、現代のサウジアラビアが登場するきっかけとなった、ワッハーブ運動に由来している。
ワッハーブ運動とは、簡単にいえば世直しである。
運動が起こった18世紀の当時、サウジアラビアはイスラーム教発祥の地でありながら、人々の姿は目も当てられないような堕落した状態だった(あくまでもイスラーム教徒としてである)。
こんなん、イスラーム教やない!そう考えた発起人が、「イスラームとはこうあるべきや!」として、真っ当なイスラーム教徒になれや!運動を始めたのである。
発起人は、かなり意識高い系だったのか、彼が理想とするイスラーム教徒像は、マイルドというより厳しめであった。
サウジアラビアの建国とこのワッハーブ運動が結びついたゆえに、サウジはこの”厳しめ”路線をたどることになったのである。
ちなみに、サウジ人に聞いても、「俺、ワッハーブ派だから」という人はいない。むしろ本人たちは、スンニ派だという認識だろう。
ワッハーブ派というのは、本人ではなく他人が使うものである。パリピ自身が「俺、パリピだし」などと言わず、他人が「あいつ、パリピやけん」というのと同じである。
サウジ女性と宗教
サウジアラビアの女性といえば、目だけを出した服装や、とにかく色んなことができないということで諸外国では知られている。
それはイスラーム教という宗教ゆえなのか。いや、むしろサウジ政府の方針や、この地域の伝統によるところが多いだろう。
基本的にイスラームの女性には「美しい部分を隠しなはれ」という通達しかなされていない。
美しい部分って言われても・・・である。
よく見かけるムスリム女性のスタイルは、頭にスカーフ、そして体の線が出ないゆったりとした服である。
黒いワンピースのような伝統衣装アバヤを着ることは、イスラーム教徒の義務ではない。あくまで、伝統衣装の一つである。けれども、かつてのサウジアラビアではこのアバヤとスカーフであるヒジャーブの着用が必須だった。
また、中には「女性の顔も美しい部分やん!隠さな!」という人もいる。そういう人間の意見が採用された結果が、これまでのサウジであった。
目だけを出す顔マスクは、二カーブと呼ばれるものだが、この二カーブをつけるのは、サウジだけではない。イエメンやソマリアなど保守的なイスラーム地域に多い。
サウジアラビア女性の基本スタイル
このように、イスラーム教徒の行動規範となるコーランは、かなりざっくりしたものが多い。ゆえに、その解釈や信仰度合いなどによって、同じイスラーム教の国であっても、人々のあり方がだいぶ異なるのである。
特に保守的なイスラーム教の国だと、一方的なイスラームのあり方を社会や国によって、押し付けられる傾向がある、と私は思う。
同じイスラーム教徒でも、女性はスカーフで髪を隠すべきと考える人もいるし、スカーフをかぶらず普通の格好をしてもいいじゃん、という人もいる。
そこそこ社会が成熟すると、個人にその自由が与えられる。けれども、保守的な社会では、個人の考えよりも、国や社会の方針が優先される。これは、イスラーム教の国だけには限らない話だろう。
いずれにしろ、サウジはここ数年で大きく変わっている。外国人に観光ビザを発行し始めるなど、国外に対してもオープンになってきている。
これは単なる優しさではなく、単に原油価格が落ちている上に、石油以外で収入を増やさな!というあくまでも国内経済のためである。
国として生き残るためには、かつてのイキっていたサウジスタイルを捨てる必要も出てきた。今時、女性が運転できないとか、外国人が旅行できないなんてナンセンスである。
今後も、こうした脱サウジスタイルは加速していくだろう。