しつこい客引きも影を潜め ラマダン中のドバイ、町の様子は激変

ラマダン中のドバイの風物詩といえば、「ラマダンテント」がある。

ラマダン仕様に美しくデコレーションされた、レストランのことである。そんなおゴージャスなラマダンテントでいただくのは、お手頃な価格でいただけるブッフェスタイルのイフタール。

イフタールとは断食明けの食事だ。特定の食べ物というよりも、とりあえず断食明けに食べるものを総じてイフタールと呼ぶ。

やっぱりドバイはおゴージャスなのね。そう人々は思うだろう。一方でドバイには、おゴージャスじゃない、ラマダンならではの光景もある。

ドバイの中心街から車で約30ほどの場所にある、デイラ地区。おゴージャスドバイからは想像もつかないような光景が繰り広げられる舞台だ。

祭りの雰囲気が漂う断食明け前

断食明けの1時間前ほどになると、今までゴーストタウンのようにひっそりとしていた街が忙しくなる。日没とともに訪れる、断食解除と同時に水や食べ物を食べられるよう、イフタールの準備が始まるのだ。

普段はこうしたスタイルの出店は見かけることがない。ラマダンだけの風物詩。メニューはサモサ各種、バナナ揚げなどインドのストリート・フードが並ぶ。

価格は安いもので1つ、1ディラハム(約30円)から。ドバイで食べられる最安値フードの1つだ。

ちょうど100ディラハム札しか持ち合わせていなかったのだが、おっちゃんは嫌な顔をせず、受け取ってくれた。中心街にあるレストランでは、100ディラハムでメイン料理がギリ食べられるか否かのラインだ。

しかし、ここでは腹を十分に満たせるだけの量を買っても、まだ大量のお釣りがくる。

たった車で30分しか離れていない場所なのに、この物価の違い。それだけ、所得や生活が異なる人間たちが一同に集うのがドバイと言えよう。

あちこちから、「よってらっしゃい、みてらっしゃい」と声がかかる。まるで、文化祭のような雰囲気。

断食明け前に人々はこうしたストリート・フードを買い求め、イフタールに備える。ストリートフードなのでついその場で買って食べてみたくなるが、「待て」がかかる。

食べられるのは断食が明けてから。断食明けが近いということもあってか、心なしか人々の顔は嬉しそうである。

一方でモスクの近くには、こうしたお手軽イフタールが各所に並べられる。もちろんこれらは無料。席順などあるわけもなく、やってきた連中から座っていく。

ラマダンといえば、おすそわけスピリットが高まる時期でもある。善行が励行される時期なので、小金をもった人や組織がこうした無料の食事をふるまうのだ。

なにせ日中は飲まず食わず。胃をびくつかさせないためにも、フルーツやデーツといったおしとやかな品々が並ぶ。そのほかにも、塩味の飲むヨーグルトや水、ジュースなどがこうした無料イフタールの定番メニューである。

レストランでも、断食明けとともにお客がイフタールを食べられるようフルーツの盛り合わせが並べられていた。こうした光景は、チェーン店や高級料理店が立ち並ぶ中心街ではまず見ることはない。

ちなみにこの偶然立ち寄った店。オーナーはソマリ人で、店員たちも皆ソマリランド、もしくはソマリアの首都モガディシュの出身だった。

まさかの懐かしいソマリアトークに花が咲く。「ソマリランドの連中は前歯がかけてんだ。ガハハ」とソマリランド出身の同僚店員をイジるモガディシュ出身の店員。さすがソマリアギャグは健在だ。

今回1番のラマダンスピリットをみせてくれのが、こちら。


袋を持った野郎が次々とやってくるので、「おめえら!おれが袋に入れてやっから、ちゃんと並べえ!」と、ビリヤニ配給の指揮を率先してつとめるおじいちゃんが現れた。

まさかの大鍋に入ったビリヤニを、袋に直入れである。ジップロックやタッパーを持ってつつましく食料をもらいにくる、といった世界ではない。

その辺のスーパーやら衣料品店の袋に、作りたてのホカホカのビリヤニをつめこむのである。ビリヤニとは、インドやパキスタンでよく食べられているお米料理。通常や炒めた肉や魚が入っているが、今回は無料なので米オンリーバージョン。

「お前もビリヤニいるか?」と聞かれたが、ちょうどよい袋を持っていなかったので丁重にお断りした。

断食明け前の人々は・・・・

日中はムスリムたちは飲まず食わず。6月に入ると日中の気温も40度を越え始める。そんな事情を知ってか、普段は観光客で溢れかえるスーク(市場)もひっそりとしている。

みな椅子にこしかけ、話すでもなくうつむいている。それはまるで、『あしたのジョー』で、燃え尽きて真っ白になった矢吹丈の姿のようにも見えた。


いつもはしつこいぐらいに、「ジャパン!オハヨ!カワイイヨ!」と押し売りしてくる野郎たちもこの消沈ぶり


断食明け前にすでに燃え尽きている人


食べ物がないので、猫たちも断食明けまでは寝てやり過ごす

一方で、おそらく断食中にも関わらず、せっせと仕事をするやる気に満ち溢れた人もいた。


働く男の顔はいつだって輝いている


断食明け15分前でも、穏やかな表情で仕事をする仕立て屋職人たち

飲み食いしてないので、イライラしている人が多いのかと思いきや。意外にもおしゃべりに興じたり、「何やってんのさ〜」と絡んでくる人も。

ひとえに飲まず食わずといえども、人によってコンディションは様々らしい。こんなに親切な人がいたっけ?というぐらいみな優しかった。これもやはりラマダンの効果なのだろうか。

同じ町でも、ラマダンというだけでずいぶんと違っていた。人の流れが違うから、ふらふら歩いて流れつく場所も違う。目に入る光景も違う。

日中は飲食店が閉まり、公共の場で飲み食いができない状況は、ドバイを訪れる観光客にとっては厳しいだろう。

けれども、それは「オフシーズン」といってしまうには早急で、ラマダンならではの人々の流れや光景を見るチャンスでもあるのだ。

マンガでゆるく読めるイスラーム

普通の日本人がムスリム女性と暮らしてみたらどうなる?「次にくるマンガ大賞」や「このマンガがすごい!」などでも取り上げられた話題のフィクション漫画「サトコとナダ」。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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