ラマダン24時。断食中の人々の1日の過ごし方

ラマダンといっても、我々が普段目にするのは断食をしているムスリムたちである。けれども、ラマダン中の過ごし方は平時と随分と違うし、人によってもずいぶん異なる。

そんなわけで、断食中のムスリムたちがどんな風に生活しているのかを紹介。

1日の始まりは日没から

イスラームの暦は太陰暦である。月の満ち欠けによって月が決まるので、1日の始まりは日没からなのだ。日没後から1時間後が、サーア・アフダ(1つの時)、サーア・イトゥニーン(2つの時)とよばれる。

ドバイの今年のラマダンは5月6日から始まったが、実際にラマダン の月が始まったのは、5月5日の日没からである。けれども、実際に断食という状態に入るのは、6日の明け方からなので、ラマダンの開始日は太陽歴でいうと5月6日になるわけである。

楽しい断食明けの時間

というわけで、日没後を1日の始まりとして見ていこう。日没は、断食明けの合図であもる。いかにして、ムスリムたちはその合図を知るのか。それが、日没前のお祈りのアザーンだ。

決して、みんなで夕日が沈むのを眺めて・・なんてロマンチックなものではない。このアザーンが流れれば、断食が解除されるので、みな自由に飲み食いしてよい。

お祈りが始まる30分前ごろになると、ムスリムたちはモスクにわらわらと集まり出す。モスクでは無料で水やイフタールと呼ばれる簡単な食事がふるまわれる。アザーンが流れた後に、水などを飲んでひと息つく。

その10分後には、お祈りが始まる。10分ほどのお祈りが済むと、みな散り散りになって家へと帰宅。自宅で本格的な食事を食べるのだ。ラマダン中の食事は、だいたい友人や家族ととる。家族と離れて暮らしている人は、友人宅を練り歩いてイフタールを囲む。

これで、各々好きに過ごすのかといえば、そうでもない。なにせラマダンなのだ。

その1時間後には、就寝前のお祈りと、その後に「タラーウィーフ」と呼ばれるラマダン時期限定のお祈りがある。後者は、義務ではないので、必ずしもやる必要はない。けれども、やるとご利益ポイントがたまるので、積極的に参加する人は多い。

ラマダン中は夜型にシフト

一方で、夕食を食べたら、街へ繰り出す人々もいる。昼間は、みな断食中でどこへ行く気もおきない。しかし、食べ物をたらふく食べて、やる気がみなぎる夜。人々は勇んで街へと繰り出すのだ。

ラマダン中のイベントは、たいてい夜の8時や9時ぐらいから始まる。中には、開始が夜の10時というカルチャーイベントもあった。営業時間を拡大して深夜まで営業というレストランも増える。

深夜近くに始まるイベントといえば、飲み会や新宿のショーぐらいしか思いつかないのだが、ここでは、こどもが参加するカルチャーイベントなどが、そういった時間に始まるのである。

深夜近くにBMWのショールームを通りかかったのだが、真夜中だというのに、地元のアラブ人客で賑わっていた。昼間のような賑わいである。深夜にBMWを見に行こうという意気込みの出どころがよくわからない。

このようにムスリムたちは、ラマダン中だけはとりわけ夜の住人と化す。日本では、ホストやキャバクラ嬢が活動する時間帯、イスラーム諸国では、子どもや酒を飲まないアラブ人たちが、街を跋扈するのである。

睡眠をとるか、楽しいひとときをとるか

ここでムスリムたちは決断を迫られる。”睡眠”をとるか、”楽しいひととき”をとるか。ムスリムたちが、飲み食いできるのは、太陽が隠れている時だけ。

夜明けがやってくる前に、ムスリムたちはスフールと呼ばれる朝食をとる。朝食といっても深夜3時や4時頃なので、日本風に言えば深夜まで残業しているリーマンの夜食に値する。

最近エジプトからドバイへやってきた、ヤスミンは楽しい一時をとった。「エジプトではね、ラマダン中は深夜でも人が外に出てるんだよ」という。そんなわけで、ヤスミンは夜中の4時頃まで起きて、その後出勤の時間になるまで就寝するというスタイルをとった。睡眠時間は、4時間ほどである。

同じくエジプト出身のアフィーフィもこちらをとった。「今日はたまたま寝すごしちゃって、スフールが食べられなかったんだけれども。いつもはその時間帯まで起きてるよ」。

一方、モロッコ人のムハンマドやパレスチナ人のヒシャーム、ソマリ人のアハマドは、規則正しい生活を選んだ。「スフールのために夜明け前に起きてもいいんだけど、ちょっとつらいんだよな」という。

つまり、飲み食いできる最後のチャンスを逃してまで、長時間睡眠をとることを選んだ。だいたい夜の12時頃に寝て、8時頃に起きる。これなら長時間睡眠がとれるのだが、夜明け前の食事をとっていないので、断食時間が20時間ぐらいになる。少々きつい。

夜の過ごし方で日中が決まる

夜の過ごし方で、日中に差が出てくる。短時間睡眠のヤスミンは、どこか眠そうである。目をひたすら、瞬きさせている。パキスタン出身のファイザンは、夜遅くまで礼拝に参加していたのか、あくびがとまらない。

一方で、長時間睡眠でツヤツヤしている、ヒシャームやアハマドはあくびをするでもなく、いつも通り仕事をこなしていく。テンションも変わらない。

ただ一つ違うのは、ヒシャームは食に目がないので、ラマダン中はめっきり食に関する話題が減ったことである。

いつもなら「今日のランチ何頼む?KFC?エジプトのコシャリはどう?イエメンのマンディは?」などと、カロリーの高そうな単語を並べながら、ランチをシェアする仲間を募っているのである。

ちなみにドバイでランチといえば、弁当かデリバリーが中心である。 私が見る限り、だいたい3割が弁当で、残りの7割はデリバリーといった感じである。

外に食べに行くというオプションは、ごくまれにしか発生しない。なにせ外は暑いし、手近な飲食店がオフィスビルの周りに集まっているわけではないからだ。

断食明けまでのラスト・スパート

ラマダン中は、就業時間が短縮される。よって6時間勤務を済ませたら、人々はさっさと帰宅する。日没までのこの数時間が、断食のピークでもある。

気力という気力が湧いてこないので、ただしなびているしかない。人によってはラストスパートと言わんばかりに、ジムや外でジョギングをする人もいる。

先ほどのヤスミンの場合、4時間睡眠でへとへとなので、帰宅すると断食明けまで数時間の睡眠をとってやり過ごす。一方で、長時間睡眠組は、ここで寝たら夜に眠れないので、耐えている。

断食明け1時間前ほどになると、街が少しずつ活気づき始める。イフタールの買い出しにに行く者。モスクへと出かけるもの。家でイフタールの準備をする者など。

そしてアザーンが流れる。ようやく断食が明けた。

同時に、長かった1日が終わり、また新しい1日が始まるのだ。

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サイゾー

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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