ドバイ経済を回すのは石油にあらず!知られざるドバイ急成長の秘密

ドバイといえば石油。あのギンギラギンなゴージャス都市は、オイルマネーで作られているんでしょう。そう、思っている人は多い。

ドバイのゴージャスな都市感とオイルマネーは、確かに結びつきやすい。けれども、ドバイがここまで急成長を遂げたのは実は石油ゆえではないのだ。

石油があるのはドバイではなくアブダビ

ドバイはUAE(アラブ首長国連邦)という国を形成する7つの首長国のうちの1つにすぎない。

UAE自体は確かに産油国である。米E.I.Aが発表した2018年の1日あたりの原油の生産量が多い国ランキングを見ると、1日393.5万バレルで世界で第7位にランクインしている。ちなみに1位はアメリカ、2位はサウジアラビアとなっている。

ちなみに外務省の発表によると、日本の原油輸入先の25%を占めるのがUAEで、サウジアラビアについで第2位の原油輸入先となっている。

これを見る限りでは、ドバイにもかなり石油がありそうだ。しかし、そのうちわけを見てみると、UAE石油埋蔵量の94%はアブダビ、そしてドバイはたったの4%しかない。

この時点で、ドバイに石油はほとんどないことがわかるだろう。オイルマネーで潤っているのは、隠れたUAEの首都、アブダビなのである。

UAEといえばアブダビなくしてはありえない。ドバイも含め、他の6つの首長国はアブダビに頭が上がらない。UAEは連邦制でそれぞれの首長国がお金を出しあって国の財務を運用している。けれども、その財源の8割はアブダビが出している。

ドバイをのぞく、その他でまとめられている首長国は、40年ほど前は、切手コレクター向けにせっせと切手を製造し、外貨を稼ぐというせこい商売をしていたほど、土地も資源もない。

ドバイのシンボル的存在でもある「バージュ・カリファ」の、「カリファ」はアブダビの首長の名前をとったものである。

本来は「バージュ・ドバイ(ドバイの塔)」となる予定だったが、完成間近の2008年にドバイショックが起こり、資金繰りが難しくなったドバイに対し、アブダビが財政的な救援をしたという話はよく知られている。その恩を受けて、「バージュ・カリファ」は、アブダビ首長の名前を入れ込んだのである。

ドバイ=石油というイメージはどこから?

そこで、次に思うのは、石油じゃなかったら、あのドバイのあのキンキラキンなイメージは一体どこからやってきたのか、ということだろう。

ドバイ経済の根幹に触れる前に、知っておきたいのはドバイのゴージャス感は、半ば演出も入っているということだ。「ドバイは世界一の観光都市になる!」という、ドバイのムハンマド首長のもとドバイ都市は形成された。

とりたてて観光客に見せる歴史的な遺跡も文化もない。いかにして観光客を集めるか。そこで考えられたのは、「世界一を作る」ということだった。当時のドバイを知る人間であれば、「は?」といいそうになるが、ドバイは本気だった。

ここからドバイの「プロジェクトX」はスタートする。ドバイの信念は、昔も今も変わらず「世界一のものを作れば観光客が集まる」というもの。その信念のもと、世界一高い高層ビル、世界一巨大な人工島、世界一高いホテル、レストランなどなどを生み出したのである。

さらには、ドバイブランド戦略部なるものを設置し、ひたすら観光プロモーション。政府主導で、日々ドバイのイメージアップにつとめあげた。こうして「ドバイはゴージャス都市である」というイメージを世界中の人々にたたきつけたのである。

ドバイの成長の秘訣は、貿易と金融

すでに「石油じゃドバイは食っていけないよねえ」という認識は、当時の為政者の間にはあったため、石油に頼らずしていかに成長するか、がドバイ成長の鍵であった。

もともとドバイは中継貿易で栄えた土地であった。そこへ、ジャベル・アリ港を建設。さらに、経済特区であるフリーゾーンを開発し、外国企業の誘致につとめたのである。

フリーゾーンでは、外資100%、50年間は法人税なしといった優遇政策をもうけ、海外から企業を呼び込んだ。結果として、現在では7,000以上の企業がドバイに拠点を置いている。

BBCやCNNといった報道機関が集う「メディア・シティ」や、IT・テクノロジー関連会社が集まる「インターネット・シティ」などといった業種別のフリーゾーンもあり、現在ドバイでは45以上のフリーゾーンがあると言われている。

ちなみに私が働いているのも、この界隈である。ドバイで働いてきたといえども、そのほとんどの会社はフランスやスイスといった外資系。ドバイに住む外国人にとっては、ドバイの現地企業で働く、という方が珍しいのかもしれない。

とりわけ金融分野に特化したフリーゾーン、ドバイ・インターナショナル・ファイナンシャル・センター(DIFC)は、公用語は英語、公式貨幣は米ドル、独自の法システムを採用するなど、ドバイにある他のフリーゾーンとは少し異なる。

かつて中東の金融のハブといえば、レバノンのベイルートだった。しかし、1975年から15年に渡る内戦、そして新興国バーレーンでの石油発見にともない、その座をバーレーンに譲ることになった。その後、ドバイが成長するにつれ、バーレーンもその座を退くことになった。

空の覇者、エミレーツ航空

海だけでなく空の中継地としても、ドバイはぬかりない。ドバイ国際空港は、国際利用客数でここ数年は世界1位にランクインしている。その1番の貢献者であるのが、ドバイのフラッグ・キャリア、エミレーツ航空だろう。

エミレーツ航空は、現在85カ国161都市間を運行している。あまりにも利用客数が多いためか、ドバイ国際空港ターミナル3は、エミレーツ航空専用となっている。1つの航空会社で、巨大なターミナル1つを占領するのは、ドバイぐらいじゃないだろうか。

エミレーツがすごいのは、機内サービスもそうだがその財力にある。エミレーツ航空は、エアバスA380、ボーイング777の世界最大の保有数会社でもあるのだ。

それはすごいのか?これだけだと、一部のマニアにしか伝わりそうにないので補足すると、2階建てで、バーやシャワーが付いている史上最大の機体とも言われるエアバスA380の価格は、一機あたり4億ドル。ボーイング777は、3億ドル。

A380に限っては、エミレーツ航空は100機以上も保有しており、その他の航空会社がだいたい10~20機なので、いかにスケールが大きいかがわかる。

ちなみに真のオイルマネー覇者、アブダビも当然ナショナル・フラッグ「エティハド航空」を持っている。サービスはエミレーツ航空と比べても遜色なし、とい声も高いのだが、最近では経営不振によりエミレーツ航空に買収されるのでは、という噂もちらほらでている。

歴史上類似モデルが存在しないドバイ経済

陸で会社や人、モノがドバイに集まりつつある一方で、エミレーツ航空によって繋がれた空により、世界中の観光客があれよあれよとドバイに手繰り寄せられることになったのである。

こうしてトランジットやビジネス利用客が増えた結果、マスターカードが2018年に発表した世界の観光客数都市ランキングで、ドバイは東京やニューヨークを軽々おさえ第4位にランクインしている。

こうして爆速の勢いで成長し、石油に頼らず中東における貿易や金融のハブとなったドバイ。経済学者の竹中平蔵も、「歴史上どこにも類似モデルが存在しない」というほどである。

勢いづいたドバイに追いつき追い越せと、クウェートやバーレーン、サウジアラビアといった他の産油国も、ドバイをモデルにしようとしているほどだ。