ドバイの過去を見て初めてわかるドバイのすごさ

普段はドバイをディスっている私だが、時々「本当にドバイってスゴいよな・・・」と思うことがある。

いや、本当にスゴいのだ。スゴすぎるぞ、ドバイ。スゴいスゴいと連発していると、何がスゴいのかもわからないし、単なるアホみたいなので本題に入ろう。

ドバイがスゴいなと思う時、それは私がドバイにいる時ではない。ドバイの過去を見た時なのである。

タイムトリップはドラえもんなしでも可能

いかにもドラえもんのタイムマシーンを使ってきたような言い方であるが、ドラえもんに頼らずとも自力でタイムマシーンを使うことはできるのだ。私はそれを「自発タイムマシーン」と呼んでいる。

ついに発狂でもしたのか、と思われるかもしれないが、まあ聞いていただきたい。

私はこれまでにホルムズ海峡に浮かぶ島、ホルムズ島やゲシュム島、イエメンのソコトラ島を訪れた。島独自の人々の暮らしや風景を期待して行くのだが、どうにもドバイの影がちらつくのだ。

なぜなら目の前で展開されている光景に、ドバイにある博物館でよく見かけるドバイが「己の歴史」だとのたまうものが、飛び込んでくるからである。

現役で使われているゲシュム島の採風塔。ドバイでは、歴史の再現として観光スポットや国民のナショナリズムを高める国内イベントに登場する。

謎の仮面女、奇景スポット満載。ホルムズ海峡、魅惑の「ゲシュム島」

イエメンのソコトラ島の空港で、島民が保安検査場に持ち込んだ羊の皮でできた袋。異様な袋にあっけにとられていると、別の島民が「あの中にはデーツがぎっしりつまっているんだ。今でも、俺の家では、ああやってデーツを保存している」と解説する。

ドバイの過去を見る、生きた博物館

一方で、それはドバイ博物館で、見向きもされない半ば薄汚れた展示物として、ぶら下がっているだけである。訪問者たちも、もはやないものとしてスルーするレベル。現在、ドバイ市民が手からぶら下げているのは、高級ブランドのバッグである。

さらにはドバイではすでに博物館級扱いの伝統的な家。ドバイ以外の北の首長国に行けば、まだギリ見つけることはできるが、そのほとんどはすでに廃屋となっている。しかし博物館級の家に、現役で住んでいる人々をソコトラでもゲシュムでも見かけた。

こうした単発アイテムのみならず、ソコトラやゲシュム、ドバイに共通しているのは、いずれも漁業が盛んである(だった)ということ。これは、バーレーンやクウェートといったアラビア半島の他の湾岸地域でも言える。

だから、いまだ現役でほそぼそと漁業で生計を立てている人々やその暮らしを見ると、過去のドバイに想いを馳せずにはいられない。今、ここで繰り広げられているのはドバイの過去じゃないか、と。

信じる信じないは圧倒的に視覚的根拠に依存する

ちなみにこの光景だけを見れば、ソコトラやゲシュムが現在のドバイになることなどは到底考えられないし、信じられない。

地球は平面だと信じている人間に対して、「地球は丸いのだぞ!」と訴えかけるぐらいハードルが高い。ドバイというケーススタディなくして、そのようなことを語れば「あんたバカあ?」と罵られるのがオチである。

そう、今のドバイが誕生する前は、きっと誰もがそんな風に思った。砂漠しかない土地でしけた漁村しかない街が、世界中のセレブや富裕層がわんさかやってくる場所になる。それもたった50年ほどで。

今でこそ、ドバイというビジュアルを目の前にすれば人は納得する。けれども、そんなビジュアルなしに、ドバイの未来を語れば、ほとんどの人は共感すらできないだろう。人は視覚的根拠がなければ、かんたんに信用することはできない。逆に言えば、視覚的根拠がないものは、空想だの妄想だのと捉えられる。

いくらドラえもんの道具を持ってしても、こればかりはドラえもんの範疇を超えるにちがいない。そう、ドバイは、ドラえもんでさえも起こせない事象とも言えよう。

笑われてもいい。でかい野望を持ち続けろ

けれども、ドバイの為政者はあの砂漠の状態から、現在のドバイの姿を描いていたのだ。繰り返し「ドバイは世界一の観光地になる」とつぶやき、淡々と実行をした。

「完成品」を見るまでには、多くの人が懐疑的だった。ナショナル・ジオグラフィックは、工事中のパーム・ジュメイラを紹介する記事で、こんな風にかいている。

「人工島で高級リゾートへ。発展狙うドバイ」という副題がつけられた2004年の記事。何もないまっさらなパーム・ジュメイラの写真と、「中東や欧州のお金持ちのなかには、眺望の素晴らしさを期待して、すでに島に家を買った人もいる」という紹介文が、皮肉を醸し出しているようだった。

「何もない場所が、本当に高級リゾートになるのかしらねえ」と、ナショジオでも言いたげである。

しかし、その15年後には、この島に世界的にも有名な高級レストランが軒をつらね、さらにはニューイヤー花火を見るためのディナーパッケージが次々と売れまくることとなる。1人あたり約10万円もするというのに。

ひたすら野望とビジョンを語り続け、実行したドバイの勝ちである。今のドバイの街並みを見ての感想である。しかし、これだけではドバイのスゴさを語りつくした気になれない。それはまた別の機会に、ということにしよう。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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