アイドルショー&北朝鮮料理を堪能!ドバイの北朝鮮レストラン訪問記【後編】

「レストラン」というからには、料理をそこそこ堪能する気でいた。しかし、どうやらこの店には別のコンセプトがあることに気づいた。

それが、「アイドルカフェ」である。

北朝鮮スタイルのアイドルカフェ

店内の客は、どうみても一見客ばかりである。当日いた客のほとんどは、ヨーロッパ系の男性客グループだった。北朝鮮旅行ツアーに参加していそうな顔ぶれである。

やはり北朝鮮の人が珍しいのだろう。客は、北朝鮮美女に質問攻めである。

「ドバイにはどれぐらい住んでいるの?」

「へえ、そうなんだ。ドバイの暮らしはどう?ドバイの生活は好き?」

側から聞いていれば、アイドルとファンのやりとりである。

テーブルには、「担当アイドル」がつく。近くにいた店員が給仕するというシステムではない。担当アイドルはとにかく面倒見がいい。私のテーブルについた担当は、「ミヒョン」である。

ユッケと生卵をわざわざかき混ぜてくれたり、焼肉ですらも一つずつ丁寧に焼いてくれる。さらには、「焼肉はこうやって食べると美味しいわよ★」と言いながら、箸につけた焼肉タレをサンチュにつけ、焼いたお肉を巻いて食べろ、というレクチャーまで受けてしまった。

さらにアイドルなので、質問がよく分からない(中級レベル以上の英会話は難しいよう)、もしくはダメだと言いたい時は、しきりに笑顔を倍増させて、「NO」としている。

奇妙なアイドルたち

アイドルカフェとはいえ、やはり奇妙な雰囲気は残る。カラオケマシーンから静かに流れる北朝鮮の歌。これが店内に存在する唯一の音である。

そんなわけで、各テーブルの担当アイドルと客の会話がだだ漏れなのである。アイドルとファンの会話が丸聞こえだなんて・・・アイドルカフェで一番恥ずかしいことだろう。

「ハハッ」

ミヒョンが突如、奇声を発した。アメリカのホラー映画に出てくる、不気味な人形の笑い声に似ている。その奇妙な笑い方に、少々戦慄してしまった。やはり、北のアイドル。一筋縄ではない。

それに店内にも違和感を感じる。

とにかく店員アイドルたちが皆クローン状態なのである。アイドルといえば、個性を出してなんぼだと思うのだが、店内にいるのは、服装はもちろんのこと一様に同じような体型、身長、年齢、髪型の人々なのである。完全に個性が死んじゃっているアイドルたちなのだ。

さらなる衝撃は、店内にそうしたアイドルしかいないという事実である。普通であれば、取り仕切り役のおばさんなり、お兄さんなりがいてもいいと思うのだが、レジからサービスにつけてすべて没個性アイドルたちが担当している。なんだか、高校の文化祭で見かける素人カフェ感すらも漂う。

北朝鮮料理のお味は?

料理はそこそこイケる。国としては全く身に覚えがないが、料理の顔ぶれは結構身に覚えがあるものが多い。

北朝鮮の代表料理としてあげるのであれば、「平壌冷麺」だろう。しかしまだそんなに暑くもないので、冷麺という気分ではない。


お湯がかかる前の「平壌温飯」(50ディラハム)

そこで私が選んだのは、「平壌温飯」である。韓国のクッパのようなもので、これまた担当アイドルがヤカンからお湯をそそいで、ご飯とスープをまぜる。その場で調理してくれるのである。

生ユッケ
とろろ芋と生卵を混ぜ合わせたユッケ(55ディラハム)

北朝鮮キムチ
平壌キムチ(40ディラハム)せっかくの機会だからということで、とにかく名前に平壌がつくものを食べまくった

松茸も有名。人生のはじめての松茸である。松茸の下にはなぜか黒石がひかれていた。担当のミヒョンが、「あの山から取れた松茸よ」と壁に描かれた風景画を指差して教えてくれた。真偽のほどは定かではない。あの山というのは、北朝鮮の名山の一つ、金剛山である。

北朝鮮の金剛山
「この山から取れた松茸よ!」

ちなみに韓国料理と大きな違いとしては、前菜に乏しいことである。韓国料理であれば、前菜だけでお腹いっぱいになりそうなほどの量をよこしてくる。しかし、北朝鮮はどうしたことか。前菜として出されたのは、もち米を固めたものだった。

ちなみにこちらの店舗ではお酒は提供されていない。バール・ドバイのアスコットホテル内の店舗であれば、ホテル内なのでお酒が提供されているかもしれない。

これだけは見逃すな!北朝鮮アイドルショー

玉流館に来たらば、絶対に見逃してはいけないものがある。それが”アイドル”ショーである。アイドルというのは、私が勝手に命名しただけである。

事前に仕入れた情報によると、午後8時きっかりに開始するという。そんなわけで、ドキドキしながら待っていたのだが8時を過ぎても一向に始まる気配がない。これは一体どういうことか・・・?

担当のミヒョンに聞いてみる。「ああ、ショーね。もう少ししたら始まるから」といいつつ、20分ほどが経過。ここまで来たのにショーを見逃すのは悲しすぎる。

どうにもやる気が低そうなアイドルたちに、「頼むからショーお願いしやす!」と、私がせっつく。結局ショーは、午後9時前に始まった。

北朝鮮レストランの美女ショー
ショー前のやる気が低そうな顔とは打って変わり、やる気満々のアイドルの顔になっている

北朝鮮美女ショー
京都の舞妓さんを思わせる芸達者ぶり

せっついただけの価値は十分にあった。ドラえもんのしずかちゃんが着てそうな給仕服から、民族衣装のチマチョゴリや全身ラメつきのドレスに着替えたアイドルたちは、やはりアイドルそのものだった。

アイドルといっても、日本の可愛らしいアイドルではない。どちらかといえば、中森明菜や山口百恵のような正統派アイドルである。


ショーのフィナーレとともに、北朝鮮アイドルから渡された造花の花束。ずいぶんと使い古されているよう。花束はショーの後に回収された。

「芸」を披露する、アイドルたちはやっぱり美しい。もはや尊敬の念すら抱いてしまうほどだ。たった10分程度のショーだが、見る価値はある。

北朝鮮直輸入!お土産コーナーも充実

ドバイで買える北朝鮮土産ものぞいておこう。

タバコ1箱で50ディラハム(約1,500円)、カートンで500ディラハム(約1万5,000円)。「これ、健康にいいわよ〜」といってすすめられた朝鮮人参のお茶ボックスは700ディラハム。価格に顔を引きつらせる私をよそ目に、北のアイドルたちは、にこやかに淡々と答えた。

北朝鮮土産
朝鮮人参のお茶とタバコ。健康に良さげなものと、体に悪影響を及ぼすものを並列させるセンス★

北朝鮮ハンドメイド作品
北朝鮮のハンドメイド作品

やはりアイドルなのだ。どうやらドバイの日常生活において、500ディラハムのタバコカートンが何を意味するのか、よく分かっていないようだ。

ビニールカーテンをくぐり店を後にする。

そこは「ドバイ」だった。

道を行くインド人を見て、「ああ、ここはドバイだったんだ」ということを改めて認識したのだ。それほどまでに、先ほどまでいた空間と今いる空間が乖離している。やはり、あのカーテンの向こうは北朝鮮だったのだ。

北朝鮮レストラン「Okryu-Gwan」 デイラ本店
定休日:なし
営業時間:10時~24時。ラマダン期間中は営業時間が変更になる可能性あり。
場所:ドバイのデイラ地区。ユニオン駅から徒歩5分。
地図:https://goo.gl/maps/Bh1K9YdBerj
料金:ディナーは2~3人の場合一人当たり、100~150ディラハム程度。ショーの実施は事前に確認したほうがよい。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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