謎の仮面女、奇景スポット満載。ホルムズ海峡、魅惑の「ゲシュム島」

ゲシュム島の魅力を一言でまとめるのは難しい。

観光客向けの売り文句を用いれば、世界のジオパークとして、自然が作り出した不思議な奇景を楽しむことができる、といったところだろうか。

いや、それ以上に見過ごされている魅力がこの島にはあるのだ。不思議な仮面をかぶった妙齢の女達、住人の大半はイランでは少数派のスンニ派だということ、かつては交易の拠点としてインドやアラブの文化がまじりあいユニークなカルチャーが形成されているなど。

個人的には、ドバイに行くぐらいならゲシュム島をおすすめしたいのだが、どうやらほとんどの人には分かってもらえない。金で作った大人のためのテーマパークなんかを見るよりも、断然面白いものがある。

自然が作り出した摩訶不思議なスポット

とはいえ、まずは定番の観光スポットも紹介しておこう。ゲシュム島の一番名物ともいえるのが、「スターズ・バレー(星の谷)」だ。巷では、トルコのカッパドキアじゃん?などとも言われている。


世にも奇妙な地形の「スターズ・バレー」

残念ながら写真ではどうしてもその迫力が伝わらない(これも自然の思し召しである)のだが、まるで火星にやってきたような不思議な地形をしている。

当時の人々は不思議がって、隕石が落ちたんじゃないかだとか、ジン(イスラーム教でいうところの精霊)の仕業じゃないかと噂するほどであった。石灰岩が雨によって削られてできた、というのが現代人にとって受け入れられている説である。

続いて人気なのが、「チャークフ渓谷」。切り裂かれた谷ともいうべきだろうか。巨大な刀か何かで切ったように頑丈な岩山がスパッと切れている。実際には、地震によって断層がずれたためにできた、ということらしい。


チャークフ渓谷


ゾロアスター教の礼拝所としても使われていたホルベスの洞窟

ちなみにアラビア半島ではほとんど地震がないが、イランではよく発生している。ホルムズ海峡の下には、アラビアプレートとユーラシアプレートが重なっている。オマーンあたりでは、地上に露出した巨大な海洋地殻や地球の内部にあるマントルの岩石を見ることができる。

この他にも湾岸で最大のマングローブや世界最長の塩の洞窟と、とにかく自然の観光スポットが満載。イランには何気にすごいスポットがあるのだが、ゲシュム島のようにほとんど世間には知られていないのが、悲しい点である。

謎のマスクが目を引く。カラフルな女たち

ゲシュム島だけに限らず、イラン南部の町バンダーレ・アッバスや近隣のホルムズ島、ヘネガン島では、顔にマスクをした女性たちを見かける。

UAEでも高齢の女性が、金の顔マスクをしているのを時々見かけるが、カラフルなマスクはこの地域ならでなだろう。そんなエキゾチックな姿は、訪れた者の目を引く。


若者の間ではマスクは不評のようで、年配の女性たちが主につけている


金のマスクをつけた女性。色が変色して少々銅色になっている

そしてこの地域の女性たちは何気にオシャレ度が高い。イスラム教の女性といえば、黒いアバヤとヒジャーブをかぶった姿を思い浮かべるだろう。

しかし、この地域は昔からインドとの交易が盛んだったせいか、インドのカラフルなサリーとイスラームファッションが融合した服装が見られる。ちなみにオマーンでも同様の服装が見られるのは面白い。


ホームステイ先の若奥さん(左)。裾に細いビーズをあしらったズボン(右上)はすべて手製。現地の女たちが、パーツごとに役割分担で仕上げていく。ズボンの生地(右下)にもトレンドがある。

どう見ても特別な場所へ出かけていくオシャレ着にしか見えないが、彼女たちにとってはその辺のスーパーに出かける時にはく普段着。日本でいうならば、こんなキラキラのズボンを履いて、イオンにでかけるようなもんだろう。

動物園できゃっきゃするイラン人たちに癒される

ゲシュム島の箸休め的な観光スポットが「ヌーパック・クロコダイル・ファーム」である。動物園にさほど興味がなくても、サメやワニがいるとなるとつい立ち寄ってしまう。

小さなワニ園だが、ワニを年齢順に展示して、ワニの成長過程を楽しめるというこだわりの展示方法を取り入れている。しかし、昼間にいくと肝心のワニは微動だにしないので、生きているのかよくわからない。


クジャクがペルシャ語を理解するのか定かではないが、おばさんたちはしきりに「サラーム!」と呼びかけていた。クジャクは「シャー」といいながら餌をつついている別の鳥を威嚇している。

ワニの他にもダチョウやサル、鳥、うさぎなども展示されている。てっきり子ども向けかと思いきや、大人も楽しめるスポットらしい。イラン人のおばさんグループが、サルに餌をやってきゃっきゃと喜んだり、「サラーム!(こんにちは)」とクジャクにガチで声をかける様はほほえましい。

動物たちと愉快なイラン人たちに癒される隠れスポットである。

ドバイで高騰するアクティビティが安く楽しめる

同じ酒でも、銀座のバーで飲むと銀座というブランドと土地代ゆえに、酒の値段は高くなる。ドバイも同じような手法を用いて荒稼ぎをしている。

一体何をどうしたらそんなに高くなるのか、というぐらい何をするにもいちいち高い。スカイダイビングは、セレブ(ドバイに来たジャスティン・ビーバーもやった)のアクティビティと化しているし、ダイビングや魚釣りでも、ドバイをかませただけで、沖縄でやるよりも1.5〜2倍ほどの値段になる。


干潮時には近くのナアズ島へも歩いていけるビーチ。ラクダ乗り体験やヘナ体験などもできる。

しかし、ペルシャ湾(アラビア湾)を渡っただけで、その価格は半額以上に下落する。ゲシュム島でもスカイダイビング、ダイビングといったアクティビティができる。内容は同じなのだが、イランでやるかアラビア半島でやるかの違いで大きな差が出るのだ。

ホルムズ海峡のアイドルに出会う

ホルムズ海峡といえば、何かと物騒なイメージがある。しかし、そんなイメージを払拭するのが、ホルムズ海峡のアイドルこと、イルカである。一般国民に愛されるアイドルのごとく、愛くるしい姿ゆえ、イルカは海洋動物の中でもダントツ人気が高い。

ゲシュム島から2キロほど離れた場所にあるヘンガン島行きのボートに乗ると、イルカ・ウォッチングを楽しむことができる。ツアーは1時間ほどで、ヘンガン島のビーチにも立ち寄る。


映画の中だと海で尾ひれを見たら逃げるが、ここでは人間たちが積極的に近寄っていく。


ビーチ沿いにあるヘンガン島のお土産売り場。貝殻を使った土産物が並ぶ

オマーンでも同様のイルカ・ウォッチング・ツアーに参加したが、やはりヘンガン島の方がツアー代金が安いうえに、イルカの出現度がハンパなく高い。小型ボートなのでイルカにもかなり接近できる。イルカに興奮するイラン人たちを見るのも楽しい。

アラビア半島の過去が息づく、リアル博物館

いまや石油収入で大いに潤っているアラビア半島の国々だが、それ以前は真珠採取業などでほそぼそと生計を立てていた。各国の博物館にいくと、石油以前の暮らしの質素な生活が展示されている。


UAEでもよく見られる採風塔だが、そのほとんどは修復されたもの。昔のままの採風塔が見られるのは、ゲシュム島でもこのラフト村だけだ。

ゲシュム島にあるラフト村を訪れた時のこと。その辺にいる漁師たちと話し込んでいると、知り合いのばあさんの家に案内してやろう、という人が現れた。言われるがままについていくと、そこにあったのはUAEの博物館で展示されている生活が現代によみがえったものだった。


ヤシの葉が天井をおおい、泥と日干しレンガで作られたひと昔前の家。UAEだとこの手の家は、博物館になっている。

今では石油収入でウハウハいっている人々も、かつてはこんな暮らしをしていたのだなあ、と思いを馳せずにはいられない。

ホルムズ海峡の海鮮グルメに舌鼓

海に囲まれる島とあってか食事は、海鮮類を使ったものが多い。インドの影響を強く受けた湾岸料理ともよく似ている。国は違えど、どの国も豊かな海が食卓に彩りを添えている点では同じだ。

サメを使った料理は、UAEやオマーンでもあるが、ここゲシュム島でも食べられるのはサメの肉を細切れにして玉ねぎ、ハーブ、スパイスで炒めたもの(写真左上)。レストランではエビやイカを使った料理なんかも提供されている。

漁業が盛んな町ならではなのか、お邪魔した家の台所には、魚を塩漬けしたビンが置いてあった。そんな塩漬け魚をご飯で炊き込んで作ったのが魚の炊き込みご飯(写真左下)。

意外なのは、デーツの食べ方。いろんな国でデーツを食べてきたが、ここゲシュム島にはゴマソースにデーツをつけて食べる方法(写真右上)があるらしい。あまいデーツとゴマの相性は抜群。病みつきになる味である。

イスラーム教の島なのに、ワンコが多い

人口が少ない島ゆえか、島にはゆる〜い空気が漂っている。ゆえに都市であれば、いるはずのない動物たちがその辺を闊歩している。ラクダはもちろん、キツネなんかも見かけた。


道のど真ん中で心地好さそうに寝るワンコ

それにイスラーム教の人々が住む島だというのに、とりわけ犬が多いのだ。イスラーム教では、犬は不浄とされているが、島民たちはお構いなしである。さらに、その辺を歩く猫も犬の存在に構わず、まるで空気のごとくやり過ごしている。

なんなんだ。このゆるい雰囲気は。そんな雰囲気に癒される。

巨大な地下プールの正体は・・・

ゲシュム島を車でまわっていると、必ず目にするものがある。まるで巨大な土管が地中に埋もれたような長いものから、ドーム型まで形はそれぞれ微妙に違う。


細長い建物は何なのか・・・

新興宗教の建物のようなうさんくささが漂っているのだが、実はこれすべて井戸なのである。海に囲まれ、雨がほとんど降らないゲシュム島。おまけに夏の気温は50度近くまで上がる。

そんな状況下において、島民たちが作り出したのが、大事な雨水を貯蓄するための井戸だった。井戸といっても我々が想像するのは、せいぜい直径1メートルほどの井戸である。


落ちたらまず自力で抜け出せない恐怖がよぎる

しかしゲシュムの井戸は、スケールが違う。まるで地下プールのごとく、地下に巨大な穴がぽっかりと空いているのだ。水道水が各家庭で使える今では、用無しとなったが、それでもそのスケールに圧倒されずにはいられない。

大人のホームステイ

イラン旅行者の間では、定番となっているホームステイ。むやみやたらと人を招くほど、人がいいイラン。いまでは民泊やAirbnbに取って代わられているが、素朴なホームステイを体験できるのも、このゲシュム島の魅力だ。

ホームステイといっても、大量の観光客が押し寄せるホテル型ホームステイなんかもあるが、やはり私がおすすめなのは、フツーの一般家庭に泊まるタイプ。


ステイ先のアレフファミリー。奥さんが16歳で結婚したという話にはビビった。

私が泊まったのは、クヴェイ村に住むアレフの家。正直、大人になってホームステイなんかどうよ?と思っていたのだが、これが結構すんなりと溶け込めてしまうのである。

いまやどこへ行くにもホテル泊まりが当たり前になってしまったが、やはり一般家庭に入り込まないと見えないものが多くある。

ゲシュム島とその周辺の島の観光情報

場所

ビザ

ゲシュム島と周辺の島、ホルムズ島、ヘンガン島、キッシュ島へいくにあたってビザは必要ない。
空港があるのはゲシュム島とキッシュ島のみ。

観光シーズン

5月から10月にかけてが夏。特に7、8月は気温50度ほどにもなる。この時期の旅行はおすすめしない。11月から3月にかけてが、気温20度前後と比較的過ごしやすい。

行き方

ドバイからはゲシュム航空の直行便がある。ドバイから約30分。チケットは往復で約770ディラハム(約2万3千円)。ネットでは買えないので、ドバイ国際空港ターミナル2にあるオフィスで購入する。支払いは現金のみ。キッシュ島への航空券も同様の場所で買える。

ネットに存在しない伝説の航空会社!?ゲシュム島行きの幻チケットをゲット

イラン国内からであれば、バンダーレ・アッバスへ行き、そこからフェリーで向かう。ホルムズ島への船も出ている。

空港から市内への移動

公共の交通機関はない。タクシーのみ。
私の時はホームステイ先のホストが迎えに来てくれた。

市内の移動

島は広く、公共交通機関もないので車が必須。

服装

ビザフリーとはいえ、イランなのでイランの空港に一歩踏み入れたら女性は髪を隠すスカーフをかぶる必要がある。また露出は控えて、体の線があまり出ない服装が好ましい。
ただ、ゲシュム島やホルムズ島は、人が少ないためか規律はゆるい。イラン人でも、髪の毛を丸出しにしたままの人もいた。

滞在先と観光ガイド

中心地のケシェム・シティにはいくつかホテルがある。5つ星ホテルはない。
ホームステイも可能。1日15ユーロから25ユーロあたりが相場。私がとまったのはアレフの家で1泊15ユーロだった。アレフに頼めば周辺観光のガイドや航空券の手配も行ってくれる。
下記のメールアドレスか番号(Whatsapp)に連絡すればOK。
va.hossseini@gmail.com
+989179394959

なぜ私がアレフの家をおすすめするのか。それは単に個人的に世話になっただけではない。ゲシュム島で生まれ育った彼だからこそ知っていることがたくさんあるからである。ゲシュム島の暮らしや歴史を知るには、最適な案内人である。

イラン旅行のおともに

イラン出身の吉本芸人が書いた本。イランについてこれほど面白く、軽やかにかいた本を他に知らない。イラン人が面白すぎるというより、この本が面白すぎる。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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