知られざる美しきイラン。バラの香りに誘われ対岸へ【前編】

きっかけは1本の水だった。

といっても単なる水ではない。ローズ・ウォーターである。ドバイのスーパーやスークでは、ちょくちょくローズ・ウォーターを見かける。

ローズ・ウォーターというのは、バラを蒸留させて作ったバラの蒸留水である。日本ではあまり馴染みがないが、お菓子やアラブコーヒーといったものから、化粧水としても使われている。

イランとドバイの意外な関係

産地をみるとそのほとんどが「イラン」だ。ドバイのスパイス・スークで売られている世界一高いスパイスと呼ばれるサフランもほとんどがイラン産。

UAEとイランはペルシャ湾を隔てて、約150kmほどしか離れていない。福岡と韓国よりもその距離は近いのだ。街にはいたるところにイランの影響を受けたものが見られる。

ドバイの街中には、少ないながらもシーア派のイラン式モスクがある。

今では「ドバイの伝統地区」として、ドバイの観光スポットになっているバスタキヤ地区も、イランのバスタックからやってきた商人が移り住んだことに由来している。


ドバイのサトワ地区にあるイラン式モスク。ドバイでよく見かける単色モスクとは違い、青を基調とした細かい柄が特徴


ドバイの「伝統建築」でよく見かける風採塔(左奥)。イランのヤズドやエスファハン州のカシャーンでも見られる。イランから渡ってきたのだろうか・・・

このようにドバイがドヤ顔で「俺らの歴史だかんね!」といっているものも、結局は現在のイランだったり、バーレーンやクウェートといった湾岸諸国で見られる砂漠の遊牧民の文化だったりする。決して、ドバイやUAEだけのものではないのだ。

興ってまもない都市や新興国は、ともすると歴史や文化の難民になりがちだ。

しかし、国民の愛国精神なりを形成する上では、国の文化や歴史がマストアイテムとなるので、何が何でも歴史や文化を作りたいのである。

バール・ドバイのバスタキヤ地区近辺では、新たに伝統的な建造物が増設されている。伝統の新設。京都で古寺を今さらながら建設するようなものである。ドバイも己の文化や歴史作りに必死なのだ。

イランに行ったらもうドバイには戻れない?

イランの面影はそこかしこにあるものの、今や両者の関係は別居中の夫婦のごとく冷え切っている。

アラビア半島とイランの間にある「湾」をイラン側は「ペルシャ湾」と呼び、アラビア半島の国々は「アラビア湾」と呼ぶ。

日本でいうならば、「日本海」とよぶのか、「東海」と呼ぶのかといった名称を巡る争論だ。ちなみに両者と仲がいい日本は、「湾岸」と呼ぶことで中庸の精神を見せている。


アメリカの会社、グーグルが運営するグーグルマップではアラビア湾になっている

UAEやバーレーンで聞く限り、対岸のイランは結構やべえ場所だという雰囲気があることに気づかされる。イスラエルについで「名前を言ってはいけないあの国」みたいな扱いだ。

たまたま飛行機で隣に座ったUAEに嫁いだというバーレーン人は、イランと言うと、ぎょっとした顔をして、「うちの会社ではね、イランに行く場合は会社に申請しなきゃいけないのよ」という。つまりは、会社で申請しなければいけないほどやばい国ということである。

2016年にサウジアラビアとイランは断交している。少数派のスンニ派が政権をにぎるバーレーンやサウジと仲がいいUAEも、シーア派が多数派を占めるイランに対しては、かなり警戒心を持っているようだ。

冷え切った政治的な関係や緊張により、人々の間にも精神的な壁が立ちはだかっているらしい。イランとは、ちょっとやばい場所なのだと。

アラビア半島の住人だけでなく、他のアラブ諸国の人々にも影響があるようで。

ドバイに住むシリアパスポートを持つ同僚は、「俺なんか、シリアパスポートだからイランにいったらもうUAEに戻ってこれなくなるわ。イランに行った時点でテロリスト扱いだかんね〜。日本パスポートはどこにでも行けてええな。神からの贈り物だな」などと言っていた。

このようにアラビア半島でイランといえば、意外にも「え?あんな場所へ行くの?」という意見が多数派だった。イギリス人の上司でさえも、「人質にならないように気をつけてね」という始末である。

そんなボロクソに言われているイランであるが、ローズ・ウォーターの産地を見て見たい。かつては「悪の枢軸」と呼ばれたイランで美しいバラが咲き誇るのをみたい。そんな単純な理由で湾岸を超えて、対岸へ行くことにした。

 

イラン旅行のおともに

イラン出身の吉本芸人が書いた本。イランについてこれほど面白く、軽やかにかいた本を他に知らない。イラン人が面白すぎるというより、この本が面白すぎる。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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