世界一巨大なイラクの墓地、ワディサラームを訪ねて

日本では、お墓なんか持たなくてもいい、と墓に執着しない人も出てきている。

一方で、「なんとしてもあそこに、お墓を作って欲しい!」と熱心な人々もいる。

そうした人々は、わざわざ飛行機で遺体を空輸してまで、そこに眠ることを切に願う。

世界一巨大な墓地

世界各地から、墓に入りたいと仏さまがやってくる場所、それがイラクのナジャフにある「ワディ・アル・サラーム」と呼ばれる墓地だ。

イラク平和の谷_ワディ・アル・サラーム
どこまでも続く墓地。

ワディ・アル・サラームは、「平和の谷」とも呼ばれる。平和の谷には、500万以上のお墓があり、もはや、その具体的な人数は定かではない。

わかっているのは、1,000年以上も前から延々と墓地が、拡張し続けているということだ。毎年、5万人近くの死者がこの地で眠りにつく。

戦争やテロがあるたびに、1日の埋葬者数は、激増する。イスラム国がイラクでテロを繰り返していた2014年には、その数は150人から200人にものぼったという。

災厄をのみ込んで、肥大化していく墓地。災厄が大きければ大きいほど、その拡張のスピードも早くなる。

もはや死者が眠る墓地というよりも、災いを飲み込む生きた何か、である。そう思わせるほど、延々と続く墓地のスケールは圧倒的だ。

平和の谷のお墓
墓はほとんどがレンガで作られた簡素なものだ。大きさはさまざま。

シーア派のはか
故人とシーア派関連の人々がプリントされたポスターが飾られている。緑はイスラーム教では、天国を連想させる色。

看板
故人の写真。真ん中にいるのは、シーア派のアイドル「殉教王子」。いかついオネエではない。


この方のお墓はこちら。墓地があまりにも巨大すぎるためか、故人の写真入り案内板も。

この地で眠りたい。人々が殺到する理由

そもそもなぜ、この地に人々は集まるのだろう。

この地にやってくるのは、イスラーム教のシーア派の人々である。ナジャフは、カルバラーと並んで、シーア派の聖地となっている。

有名人が眠る青山墓地で眠りたい・・・そう思わせるような、シーア派の絶大なる有名人もこのナジャフで眠る。

世界一巨大な墓地
遠くの方に、アリーが眠るイマーム・アリ・モスクが小さく見える。

それが、4代目イマーム・アリーである。イマームというのは、ナルトでいう火影みたいなものである。つまりは、皆の衆を取り仕切る、お偉い人である。

シーア派の人々というのは、アリーだけが火影だと信じている人々である。逆に言えば、1~3代目の火影を火影として、認めていない。

シーア派の人々が、アリーに寄せる思いは、並々ならぬものである。それは、多数派のスンニ派が知るところではない。

シーア派の人々は、この地で眠ると、天国へ行けると信じている。だから、わざわざこの地を選んでやってくる。

日本人からすると、天国も地獄もないだろ、と思うかもしれないが、シーア派に限らずイスラーム教の人々にとって、天国行きは、重要なポイントなのである。

大事なのは、現世よりも死後。そうした考え方を持っている。

彼ら曰く、人間は死ぬと、生前の行いをチェックする審判の日を迎える。そこで善行ポイントが、悪行ポイントを上回れば、天国に行けるというシステムである。

現世では、人間の肩に、善行ポイントと悪行ポイントを計測するミニ天使が乗っかっており、人間が行動するたびに、どちらかのポイントがたまっていく制度である。

はっ?

と言いたくなるのは、わかる。けれども、真面目にそうした世界観を持って、生きている人々もいるのだ。

他のイスラーム教徒に、「その天使は見えるのか?」と聞いたが、「見えるもんじゃない。気持ちの問題や」とのことらしい。

そんなわけで、世界中にいる天国に行きたいシーアの人々が、死後この場所に集結する。

イラク国内だけでなく、シーア派人口が多いイラン、アゼルバイジャン、レバノン、パキスタン、インドからも、続々と遺体が空路や陸路で運ばれてくる。これは、時に”遺体交通”とも呼ばれ、一大ビジネスにもなっている。

平和の谷で眠る死者は、500万人以上。130万人ほどと言われる、ナジャフの人口よりも多い。もはや死者が、生者を上回っている。

聖と死が共存する街、ナジャフ。どこまで拡張し続けるのだろうか。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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