イラクの深夜食堂。イラクの路上でケバブを食らう

イラクの夜は、にぎやかだ。屋台が点在し、行き交う人々の胃袋を満たす。

屋台でローカルフードめぐり

首都バグダッドであれば、それなりのレストランやカフェなどもあるが、どうも人々の流れは、安くて美味い屋台にながれついているようであった。

観光客向けのレストランは、きちっとしているが、1食あたり500〜1000円ぐらいする。一方で、屋台だと300円もあれば、食後のチャイもつけてお腹は満足である。

屋台の種類もいろいろである。チャイ(紅茶)一品だけで勝負する屋台や、蒸したひよこ豆やソラマメを売る豆専門屋台、野菜や惣菜を自由に選べるサンドゥイッチ屋台など、とにかくさまざまだ。


ザクロ屋台


店のメインはザクロ。レタスを添えて、フレッシュ・レモンジュースをかけていただく


ショーウィンドウスタイルのケバブ屋。食欲をそそる肉を見せることで、客寄せにもなる


サンドウィッチ屋。好きな野菜や惣菜をピタと呼ばれるパンにはさんで食べる。ソースやピクルスをお好みで入れて完成

じゃがいもとひき肉にレタスを入れたサンド

屋台は路上を行き交う人だけでなく、ドライブスルー対応もしている。なかなかよくできたシステムである。

店舗を構えているところもあるが、イラク市民のお財布状況を考えると、店舗を持つには、お金がかかりすぎるといったところだろうか。電気や水といった基本的なインフラ不足もあるだろう。

イラク人口の6割は、24歳以下の若者であり、彼らの失業率は20%を超える。湾岸戦争やイラク戦争など、歴史上ではすでに終わった戦争だが、人々の生活にはいまだ影を落としている。

国連の制裁、クウェートへの賠償金支払い、イスラム国などにより、治安は安定化せず、インフラの整備は遅れるばかりである。

その点でいえば、路上の屋台は、安上がりだ。カセットコンロや調理器具を設置し、その辺にテーブルとイスをおけば、店がひらける。

屋台だけではない。イラクでは、路上で商売をする人が結構いる。イラクの国民的料理で使われるチグリス川の鯉を売っていたり、ナタネ油を販売したり。

みなそれぞれ工夫して、生きるためのゼニを稼いでいるのである。

路上でケバブを食らう

そのせいか屋台グセが抜けきれない人もいる。立派な店舗を持っているというのに、どうも外へ行きたがるのである。

広い店があるのにも関わらず、テーブルやイスだけでなく、調理器具や調理中の食べ物までも外に出しているのである。

よって、店の前の通り全体がお店の一部になっているのである。

これじゃあ、店舗の意味がない。

店の中をのぞいても、店内で食べる客は少ない。欧米人のように、テラス席で食事をする方が好きらしい。


店内があるにも関わらず、丸焼きチキンと調理台を外に出して、路上で営業する店。


屋台前の椅子に座ってまったりする人々。暇を持て余しているのか、異国の人間が通りがかると、とにかく何か言葉をかけずにはいられないらしい。


広い店舗があるのに、ピザも外で焼くスタイル。


ベーカリーショップ前の路上でパンをうる人々。とりわけできたてのパンは、外で売らずにはいられないらしい。

中でも最強の路上メシがこちら。文字通り、路上に座ってどうぞ、というスタイルのケバブ屋である。


ゴザスペースが用意されたケバブ屋。一応靴を脱いで上がる。すぐ横は車道がありドライブスルー対応している。


へいらっしゃい。店主と取り巻きの息子たち。

この手の屋台で感心するのが、ディスプレイである。彼らは単に料理を作って売っているだけではない。ちゃんと、商売の工夫をしているのである。

イラクのケバブ屋

ディスプレイは、食欲をそそる肉塊をぶら下げ、レモンやトマト、香菜を並べて彩りを加え一工夫。おまけに食材を電球で、これでもか!と照らす始末である。このディスプレイ方法が、看板や呼び込みの役割を担っているのである。


先客のちびっ子グループ。ちびっ子だけで外食するとは、ませている。


ひき肉を固めて焼いたケバブと、焼トマト。フレッシュレモンをかければ、さわやかな味付けに。


食後、ケバブ店主により、すぐ近くのお茶屋へ誘導される。ケバブと食後のお茶屋。相乗効果によりお客を獲得している。


食後のチャイでしめる。イラクでは、コーヒーよりチャイを飲む

石油の国で働くちびっ子

イラクの屋台は見ていても、食べても美味しいのだが、気になることもある。それが、働くちびっ子である。

バグダッドやバスラといった大都市ではあまり見かけなかったが、ナジャフといった小さめの都市へ行くと児童就労が甚だしいのである。

ユニセフが発表したところによると、イラクで働く児童は57万人にも及ぶという。

夜の飲食店で、ちびっ子が店番をしていたり、仕込みをしていたり。なんだか複雑である。当人たちは、親の手伝い程度にしか思っていないだろうが・・・


肉の仕込みをするちびっ子

中には、「体重計サービス」を提供するちびっ子もいる。どこからか体重計を仕入れてきて、モスクなど人が多い場所で待機する。客が体重を計れば、使用料として、代金をもらう仕組みである。

体重計サービスのちびっ子
クーファのモスクにいた「体重計サービス」のちびっ子。1回1,000ディナール(約90円)。

裕福な国民が多いドバイや湾岸諸国を見ていると、余計にそれを感じる。石油や国の恩恵を受けて、あくせく働かずとも裕福な暮らしができる湾岸(お台場ではなく、アラビア半島の石油産油国)の人々。

一方で、かつては石油の埋蔵量が世界2位とも言われたイラク。有り余る資源はあったが、度重なる戦争で、今では国民に十分な水や電気すらも供給することすら難しい。

ヨルダンで出会った、シリア難民を支援するシリア人女性の言葉を思い出した。彼女は、自分のポケットマネーで洋服や食べ物などの物資を買い、難民たちに配っていた。

なぜ彼らを支え続けるのか。

その問いに彼女はこう答えた。

「今はねえ、100万人以上のシリア人の子どもが、難民だといわれているの。100万人よ。もし、彼らを見捨ててしまえば、失われた世代になってしまう。彼らを支援することは、私自身と、そしてシリア人の未来のためでもあるの」

屋台が並ぶイラクの夜道は、電飾に照らされてまぶしいぐらいに明るい。一方で、イラクの未来を思うと、暗澹たる気持ちになった。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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