人生観が少々変わる。イラク旅行へ行く人はどんな人なのか?

さて、今回は単独ではなく、グループツアーである。

しかも、クラブツーリズムよろしくの、平均年齢55歳のメンバーから構成される集団である。

しかし、本ツアーを率いるガイドは、はとバスガイドのような純粋無垢そうなお姉さんではない。むしろ、その対極にある北斗の拳に登場してそうな男である。

それが、アンテイムド・ボーダーズ創設者のジェームスである。毎年、アフガニスタンで行われるマラソンだのスキーツアーに参加し、イラク、リビア、レバノン南部、ソマリアなど特殊な地域へのツアー発掘に勤しんでいる男だ。

一方で、騒乱中のイラクにわざわざ旅行しにくる人々とは、一体どのような人なのか。

参加メンバー10名の出身国は、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリア、スイス、カナダとOECD加盟国の面々が連なっていた。

それに、年齢も高いので、比較的お金と時間に余裕がありそうな人々である。

当初、イラクに旅行する人は、クレイジーな物好き野郎と踏んでいたが、そうでもなかった。むしろそれすら超越している人々であった。

まずはアメリカから来たというランジャ。60歳手前だが、肌がツヤツヤしていて、大前研一のようなオーラと振る舞いである。

水色が相当好きなようで、ツアー中は常に水色のものをまとっていた。

本国では、ドクターをしているそうで、ただそこにいるだけで、常にお医者様がそばにいる、という安心感をメンバーに与えた。

実際に私はイラク旅行中に風邪をひいたので、風邪薬を分けてもらうという恩恵にあずかった。

医者というと忙しそうなイメージがあるが、ランジャは違った。「国連に加盟している国は、ほぼ全部行ったんだよね〜今年の3月にはリビアにいってきたし」

医者をしながら、全国制覇するとは・・・もはやリーマン生活を送っていて、やりたいことができない、とはいえない。

さらには、カナダからやってきたリンジー。一番歳が近かったのが、この方。

バグダッド空港で合流したときは、「こないだまでシリア国内を旅行してて、レバノン経由でバグダッドにきたんだよねん♪」と言われた時は、シンプルにおののいた。

ああ、イラクに行くということは、そういう世界なのか。

彼女は、バンクーバーにあるガン研究所で働いているらしく、毎年3ヶ月の休みをとっては、集中的に世界各地をまわっているんだという。

3ヶ月の休みをとりながら、働ける環境があるとは・・・

今年は、中近東の年ということで、シリアの前には、パキスタン、イエメンなどをまわっていたらしい。来年は、アフリカの年だそうで、アフリカ各地を旅行する計画をたてている。

そしてメンバー最年長だった、御歳76歳のウィリアム伯爵。オーストリアからやってきた。最強のシニアメンバーである。

体をどこか痛めているのか、我々が遺跡を見ている間、車で待機していることもしばしばあった。暇さえあればいつも、数独をしていた。

イラクで数独・・・

家でもできるじゃん?

個人の楽しみ方はそれぞれだが、いや伯爵にとっては、イラクという場にいるということ自体が、大事なのかもしれない。

伯爵、ドクター、リンジーは同じアフガニスタンツアーに参加したメンバーだという。なるほど。次の旅行先がイラクであっても、これなら自然だ。

そして、スイスから来たおしゃれ紳士、ハンズ。

もはやイラクなんぞで、都会的なおしゃれをしようというメンバーが皆無の中、ただ一人革靴を履き、おしゃれなシャツとスラックスで終始過ごしていた。

70歳近くになるが、過去の武勇伝を聞かされた時は、たまげた。

スイスからインドへ車の旅をしたり、1979年のイラン革命が起こる前のイランを訪れたり、エジプトのナイル川を下って、スーダンへ行ったり。

今でさえ、こうしたことをするのは結構なことだが、それが40年以上前のことだというのだ。

確かにその先にイラクはある。だからおしゃれ紳士はここにいるのだ。

とまあ、以下同列なので、メンバーの紹介はここまでにしよう。


イラク兵士の車に群がるメンバーたち


機関銃が取り付けられた改造車で記念撮影をとるメンバー。ミリタリー系の車は、特に男性陣にとってツボらしい

いずれにしろ私をのぞくメンバーたちは、イラクという国に対してピンポイントで興味があるわけではなかった。あくまで、いろんな場所に行ってみたい!の延長線上にイラクがあったのである。

というか、すでにいろんなところにいったので、もはやめぼしい場所といえばイラク、といった感覚だろうか。

一見すると多種多様なメンバーだが、メンバー間には奇妙な共通点が存在した。

平均年齢55歳なのだが、結婚しているのは、ウィリアム伯爵のみであった。正確にいえば、離婚して、現在は彼女・彼氏と付き合っているというステータスの人が多かった。

ん・・・?

彼らに自分の未来像をみたような気がした。

アメリカから参加したアラフィフのイザベラはこんなことを言っていた。

「積極的に相手を探そうとか思わないのよね。まあ、自然な流れでいればいいけど。そんなことよりも、やりたいことがたくさんあってさあ。今年のクリスマスは、チリに天文観察イベントに行く予定なんだよね」

注)チリには、世界一星がきれいに見えることで有名なアタカマ砂漠がある。

リンジーは、アフガニスタン旅行で出会った男性とお付き合いを始めたものの、結局このようにして旅行をしまくっているので、なかなか落ち着いた関係になるのは、難しいのよね、とぼやいていた。

隣にいたドイツ出身のライナーも続けた。

「クリスマスは、田舎の親父んとこ帰るけど、年末はアイボリー・コーストに行く予定。彼女?彼女は一緒に来ないけど、来年インドに一緒に行く予定」

なんか、爽快だ。

やりたいことがたくさんある人は、常に動き回っている。そして、やりたいことを全力でやる。

同志といったらおこがましいかもしれないが、それでも世界を動き回る彼らと、一瞬でも時間を共にできたことに感謝したい。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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