ジムで出会った優しい人

マレーシアで筋トレを始めて以来、定期的にジムに通っている。当初の目的はマドンナになることだった。「マドンナを目指してるんですう」とバキバキのマドンナの写真を見せたら、パーソナルトレーナーは苦笑していた。

しかしそれから1年以上続いているので、どうやら筋トレと私は相性が良いらしい。よって筋トレはもはや私の中では、食事や排泄と同じように、やらないとどうも具合が悪くなってしまう、生活の必須要素にまで昇格している。

というわけでベルリンでも早々にジム通いを始めた。路上にはあれだけでかい人々がいるのだから、さぞかしジムも、いかつい輩で溢れているだろうとビビっていた。ヨーロッパのジムは、怖いに違いない・・・

マレーシアでエニタイムフィットネスの見学に行った時、ガチ勢しかおらず、ビビった私は入り口だけで退散。対応してくれたスタッフも怖かった。よってそれ以降は、自宅のコンドミニアムにある小さなジムに引きこもり、ほそぼそと筋トレをしていたという経緯がある。私はムキムキが怖いのである。

しかし、実際は想像と違っていた。ムキムキがほぼいないのである。本格的なトレーニング器具は豊富に揃っているが、どちらかというと健康ランドのようなほのぼのとした空気が漂っている。

それよりも驚くべきは、利用者の幅広さである。おじいちゃんやおばあちゃんがいるかと思いきや、ゲイカップルが仲睦まじく筋トレしたり、なんだか微笑ましい光景である。時々、アラブ系やフランス系の高校生グループがわいわいトレーニングしており、ドイツというよりアフリカの元フランス植民地みたいなこともある。一番の衝撃は、10歳ぐらいのちびっ子が、一人で筋トレに勤しんでいた時である。

ひえっ

そんな幼い頃から筋トレをやっていていいものなのか・・・

などと下世話な心配をしてしまうほどである。

ほのぼのとしたジムなので、ムキムキに怯えることなどない。

というわけで、ある日初めてやるメニューをやってみたのだが、器具の設定とフォームがうまくいかない。もたついていると、隣でトレーニングをしていた生物学的男性が、「これはこうやってやるんだよ」と教えてくれるではないか。まるでパーソナルトレーナー。

そのムキムキ男性は、なぜか袖がビリビリに破れたシャツを着ていた。まるで野獣である。

「きみい、ドイツ語わかる・・?」

私がはて?という顔をしたので、男性は諦めてそのままドイツ語で何か言っていた。

そして、一連のトレーニングをレクチャーしてくれた後、彼は「じゃ」と言って去って言った。

なんていい人なんだ・・・!

ベルリンでは、こうした人の優しさに触れることが時々ある。