ベルリン3月日記。退去トラブルで発狂寸前、朝からクラブ、異国で一人で暮らす苦悩

ベルリンに移住して5ヶ月が経過。季節は冬から春へ。同じ景色も季節が違えば、ガラリと変わると言うことで、まだまだ生活はフレッシュさに満ちあふれている。

3月1日(土)
ネットで買った革靴ブーツが馴染んでようやく履けるようになった。絶望的に痛すぎるので手放すしかないと思ったが、今ではデイリーシューズになりつつある。それと同時に、あれだけしんどかったベルリン生活も徐々に馴染みつつある。何事も小さな取り組みの積み重ねらしい。駅で電車を待っていたら、ロマの女にたかられる。持ち帰りの食べ残しをあげたら、満足したようで去っていった。

3月2日(日)
「Breakfast*」で出会ったドイツ人とカフェで朝食をとる。こうした出会いは1回きりであれ、ドイツ人の知り合いがいない私にとっては、重要な情報供給源となっている。初対面なのに政治の話とか深い話をしてくれるが、話がどんどん哲学的になり始めて、最終的にはソクラテスの対話と化し、会話についていけなくなる。

ベルリンは、一見すると気が合いそうな人との出会いにあふれているが、同時にそうした人が多いのも問題である。他の国であればそうした機会が少ないため、友達レベルに発展するが、ベルリンだとそんな機会はごまんと発生するので、ちょっと気が合うだけでは友達には発展しない、というのが個人的な見解。

*赤の他人と朝食と食べ、1日を楽しく始めようという趣旨のソーシャルマッチングアプリ

3月4日(火)
近所の地中海レストランの前で、おばちゃん2人組が「ババガナーシュ*」と連呼している。中東ではよく聞いていた固有名詞だが、ドイツ語の発音だとなぜか新鮮に聞こえる。ババガナーシュと春の気配が混じり合って、心地よい日だった。

*焼きなすを使った中東では定番の料理

3月6日(木)
国際女性デーまであと2日。慰安婦像の前を偶然通りかかったら、女性デー仕様ということで、花で美しく飾られていた。まめな人がいるもんだ。

国際女性デー仕様の慰安婦像
国際女性デー仕様の慰安婦像。


通常時の慰安婦像。

3月7日(金)
日中の気温がついに10度を超えた。明らかに路上の人々は浮かれていた。女性デーが近いせいかやたらと花屋に人がたかっており、花を抱えている女性が異常に多かった。心なしか、気温が高くなると人々の顔も緩みがちになるようで、他人の犬を見てにこやかな顔をする人が増えたような気がする。


芝生でのんびりする人々の多さが、春の到来を告げている。冬は誰もいない。金曜の午後だというのにこの人の量。基本的に金曜は早めに仕事を切り上げる人が多い。近くではミュージシャンが「みんなー!どの政党に投票したかい?俺は左翼党だー!AfDに投票したやつはいねーかー?」などと、音楽と関係ない発言をかましていた。

3月8日(土)
国際女性デー。
日曜はスーパーが全て閉まるので買い出しに行こうとしたら、土曜も全ての店が閉まっていた。なぜ?調べてみると、ドイツ国内でベルリンだけは、国際女性デーを祝日にしているとのこと。不意の2連休はきついぜ。案の定、ベルリンのあちこちでフェミたちによるデモが開催されていた。

3月9日(日)
朝から友人とカフェに行った。テラス席もとい小汚い路上に置かれたテーブル席に座って気づいたが、ヴィーガンの店だった。ラザニアとパンケーキを注文したが、料理のうますぎることよ。どちらも食べたことがあるはずの料理なのに、ヴィーガンの息がかかると新種の食べ物になるらしい。ヴィーガン料理は、肉類などを使わない分、美味さを演出するために、並々ならぬ努力が施されているに違いない、という仮説を弾き出す。そして、ベルリンにはヴィーガンレストランも多い。それ以来、ヴィーガンでもないのにヴィーガン料理にハマりだす。

アイスクリーム屋には行列。ドイツ人はアイスクリームが好物らしく、冬でもアイスを食ベている。日差しは暖かいが、まだ寒い。しかしドイツ人たちはお構いなしに、冷たい風があたる路上で飯を食い、アイスを食い、オープンカーを乗り回し、春をすでに満喫しつつあった。ドイツ人の強靭さに面食らった。

3月10日(月)〜3月16日(日)
一瞬やってきた春のイントロに浮かれて、薄着をした*せいか、数年ぶりに風邪をひいた。単なる風邪ではない。こんなに長い風邪は、人生で一度あるかないかのレベル。誕生日がやってきたが、1日中鼻をかんで終わるという、人生史上最もつまらない日に終わった。

風邪だというのに、家の退去日が1ヶ月後に迫ったので、管理会社から退去時にやることリストと称して、とんでもない長文の脅迫メールが送られてくる。ベッドシーツは90度で洗濯しろだの、蜘蛛の巣や汚れは全部落とせだの細かすぎて、風邪が長引いた。ドイツが怖くなる。

*冬は基本的に生存を優先し、ファッション性を捨て雪だるまになるしかない。気温が高くなる=おしゃれを楽しめる自由が与えられる。

3月16日(日)
病み上がりだが、退去時までにやること*が多すぎるので、早速掃除に取り掛かる。ドイツでは、なぜか掃除用品だけはやたらと安い。そしてどうやらドイツ人は、掃除スキルがめちゃくちゃ高い模様。清潔な国出身の私としては、そのスキルとプライドが試される場面である。バスルームの掃除とマットレスのシミ取りだけで、6時間経過。カルキ**がなかなか取れず苦戦。カルキのない世界に行きたい。マットレスはシミ取り剤で余計にシミが増えた。なんだったんだこの時間は。

*ドイツでは基本的に、退去時に借主がペンキを塗って壁を綺麗にしたり、しっかりと掃除をしておく必要がある。汚れをそのままにしておくと、入居時に預けておいたデポジット(家賃の1.5~3ヶ月分が目安)からがっつりと掃除料金を引き抜かれる。デポジットを全額返してもらうために、筆者は必死である。
**ドイツの水は硬水でカルキが含まれている。定期的にしっかりカルキを落とさないと、白く石化し落とすのに一苦労。

3月18日(火)
見た目だけは完全に春だ。目覚めると空はすっかり明るい。窓から森が見えた。ストックホルムの友達の家でみた景色と完全に一致。この家に住んで5ヶ月になるのに今までは暗くて気づかなかったらしい。春になるとすべてが違って、新鮮に見えるという不思議。完全に春の陽気だが、風だけはまだ突き刺すように寒い。しかし、鳥はのんきにさえずっている。BGMと体感温度が明らかにあっていない。

3月19日(水)
BVGによる48時間耐久ストライキ始まる。
インビザラインのマウスピースができたので、テクノ歯医者へ。よく見たら口をゆすぐコップが黒だった。ベルリンは何もかも黒にしないと気が済まないらしい。マウスピースをつけると、そこは地獄の始まりだった。インビザラインを気軽に始めたことを後悔する。

仕事関係のミートアップに参加。英語で開催されるので、やはりベルリンは英語フレンドリーな都市なのだと思う。いつもは家で引きこもって仕事をしているので、リアルで同業者に会うのはなんとも新鮮。仕事のモチベがこの日を境に爆上がりする。男女平等に厳しいドイツのせいか、参加者の男女比率もほぼ半々。日本だと圧倒的に男性が多い業界なんだがな。そして、参加者の手には安定のビール。ビール飲みながら、仕事の話を聞くて・・・と思ったが、ドイツではビールと水は同類なのである。

3月20日(木)
引き落としができてなかったらしい。ドイツ語のため催促メールを見逃していた。くそう。当初よりも請求額の値段が上がっているが、支払いが遅れたからだろうか。慌てて送金する。スーパーに行っても、とある果物の値段が分からない*。5ヶ月経っても日常で分からないことが多過ぎて、モヤつきストレスになる。
退去リストに、切れた電球は全て変えろとあったので、電球を付け替えてみたが、まぶしすぎる。日本人でさえ眩しいのに、ヨーロッパ人にはいわんや**である。墓穴を掘ってしまった。

*ドイツのスーパーでは野菜や果物は量り売りのものが多く、好きな分量をとって、量りで計算し値段のついたバーコードを発行する仕組みになっている。ものによっては、量りに登録してないものもあるので、困惑する。
**ヨーロッパ人の目はアジア人よりも光を多く吸収するらしく、ドイツの家の照明は基本的に日本の家に比べると暗い。そして、白熱ではなくオレンジっぽい色の照明が好まれている。

3月21日(金)
新居のやり取りもなんだか面倒になってきた。当初は光熱費など全て家賃に含まれていると言っていたのに、ネットは別で契約してくれ*と言われる。テレビ受信料の支払い住所の変更など、引越しをするにあたり、やることが多すぎるぜ。しかもドイツ語オンリーなので、よくわからない。

シミ取りをしようとして余計にシミが増えたマットレス。手の施しようがなく、新しいものを買った方が早いのでは?と思ったが、とどまった。なぜならドイツ人は、古いものをひたすら修理して使い回し、ゴミを出さない精神で生きている。それゆえに、私も古い、汚いといってやたらと新しいものを買うことが少なくなってきた。一方で、掃除や修理に余計に時間がかかる。しかし、ドイツ人たちは、それすらDIYだのと言って楽しんでやっている模様。

*ドイツでは違法ダウンロードサイトで映画などを見ると、高額罰金が発生する。オーナーがそれを避けるために、自分でネットを契約してくれと言い始めたため。

3月22日(土)
ワルシャワ通り駅にいったら、大規模なデモをやっていた。駅はポリスによっていくつかの出口が封鎖されるており、ただのデモではないことが素人にも分かった。ネオナチ数十名が町を練り歩くデモらしいが、それを迎え撃つ左派勢力の数が圧倒的に多い。そして黒ファッション率がめちゃくちゃ高い。「ファッションは政治的なメッセージにもなる」といっていたベルリンのスタイリストの言葉が、ここでつながる。デモ会場では爆音のテクノミュージック。ベルリンの人にテクノは欠かせないらしい。ベルリンの町は、いまだにファシストやナチスといった言葉に溢れており、それらに対して断固反対すると言う強い空気がある。


左側の群衆が左派勢力。道路を練り歩くネオナチと左派の抗争を抑えるため、ポリスが2メートル間隔で配置されている。かなりの数のポリスが動員されている模様。そして結局、ネオナチの行進は予定よりも短い距離で中断した。


デモに集う人々。並々ならぬ熱気に圧倒される。

3月23日(日)
ひたすら掃除をして1日が終わる。デポジット全額回収のために、もはや掃除が副業になっている。

3月24日(月)
イースターが近いらしい。ドイツにしては珍しく、町は可愛らしいうさぎグッズであふれかえっている。ドイツ人にとって通常、かわいさは不要なものらしく、路上で見かけるかわいいものといえば、犬しかいない。しかし、イースターまではまだ1ヶ月近くある。クリスマスと同様、早くからグッズを展開しすぎて、当日にはすでに飽きてるパターンだな。


かわいいと呼べる、うさぎキャラグッズが勢揃い

不気味な可動式のウサギ人形。これが可愛さを求めないドイツのスタンダード。しかし、ドイツキッズたちは、きゃっきゃと言いながら、この人形の前で記念写真をとっていた。

3月25日(火)
掃除も佳境を迎えつつあり、家とジムを往復するだけの毎日になっている。ドイツの家の掃除は、やることが多すぎる。気づいたら、公園には満開の桜。パキスタンのフンザの光景を思い出す。同時に、桜といえば日本ではなく、フンザになっていたことに自分でビビる。日本の桜を見たのは、もう何十年前のことだったか。


ジムの入り口から見える桜。掃除で忙しすぎて桜シーズンを逃しそうな勢いだ。

家の窓から見える木をぼんやりと眺めていたら、先日の窓掃除で回収し忘れていたホコリ取りシートを、近所のリスが丸めて、どこかへ持ち帰っていった。ドイツではリスもエコに取り組んでいるらしい。巣の足しにでもするのだろうか。


例のリス

3月26日(水)
BVGによる48時間耐久ストライキ始まる。
ドラッグストアの化粧コーナーをうろついていたら、ハンチング帽を被ったかなりのおじいちゃんが、化粧品の見定めをしていた。誰かにプレゼント?それとも別の用途で使うのかしらん?もしやドラァグクイーンのおじいちゃん*?それとも、クラブ用のメイクアップ*?

*ベルリンでは年齢関係なくナイトクラブに行く。そしてLGBTQカルチャーも盛ん。

3月27日(木)
引っ越しのため荷物をまとめ始める。来た時は特大スーツケース1つとキャリーバッグ1つだったのに、すでにそれに収まり切らない3倍以上の荷物になっていた。途方に暮れる。いらないものはとりあえず、路上に放置*しておこう。

*ベルリンでは、いらないものをご自由にどうぞと言って、家の前の段ボール箱に放置しておく習慣がある。本や食器などが多いが、マットレスや家具などもある。一度、倉木麻衣などJ-POPの古いCDが大量に路上に放置されていたのを目撃したことがある。そして1週間もすると、それらは忽然と姿を消している。粗大ゴミの申し込みいらずである。ちなみにビール瓶もその一環で、路上にビール瓶を放置することは、ホームレスへの”寄付”とベルリンの人々は考えている(ビール瓶をリサイクルボックスに入れるとお金がもらえるため)。

3月28日(金)
ひっ。郵便ポストを開けたら、またドイツ語の郵便が入っていた。見てもよく分からないので、郵便が届くたびにヒヤヒヤする。そして、重要なことこそ郵便で送ってくるので、絶対見逃せないというプレッシャーがある。郵便を受け取るたびに、Google翻訳で解読しなければならない。解読しても、訳がわからない時は、絶望的である。

3月29日(土)
ディビッド・ボウイが住んでいた家を見学。近くの憩いの場では、黒いヒジャーブとアバヤを着た女性たちが、所在なさげに座っていた。どうやらここは、中東系の人が多いエリアらしい。道を一本曲がると、おしゃれなカフェでくつろぐ、欧米の観光客やジモティーたちであふれかえっている。アバヤの女性は見当たらない。道一本でこんなに違う世界観が繰り広げられているとは。

町を歩いていたら、見知らぬドイツ人おばさんに声をかけられた。おばさんはアナーキスト兼アーティストとのこと。「日本で日本食を食べたら、ベルリンの日本食が食べられないわよねっ」という日本人が言うセリフを言うあたり、相当な日本好きらしい。知り合いがいるという近くのバーにしけこみ、「このエリアに来ることがあったら連絡して」と、電話番号と名前を書いた紙切れを渡された。

3月30日(日)
朝10時からセックスクラブ「キットカット」に行く*。勢いづいてクラブをハシゴしようと、世界トップクラスのクラブと言われるベルグハイン**に行く。

*連日の掃除と仕事で、引きこもり生活が続き、「今月はベルリンを満喫していない」という結論に至ったため。
**
ベルリンのクラブの中でも入場するのが特に困難と言われるクラブ。イーロン・マスクも入ろうとしたが、イーロンは結局入らなかった(入場を断られたのでは?と言う見方もある)。