ベルリンにいると、荒波のように毎日何かが起こる。物理的に何かが起こらなくても、何かを見ただけで精神的に揺さぶられることもある。これも時間が経つにつれ、何も感じなくなっていくのだろう。よって、何も感じなくなる日まで、1月に続き日記形式で1ヶ月の出来事を記しておくことにした。
2月1日(土)
1月は外出しすぎて、やるべきことを全くやっていなかったので、うちなる自分に向き合うことを決意。ドイツ語をちゃんと勉強しよう。
2月2日(日)
佐藤優のお悩み相談コーナーで、随分前に送った私の投稿が取り上げられていた。驚きのあまり、夜中なのに一人で「うおー」と叫んでいた。同時に、全国に私の恥が知れ渡ったかと思うと、さらに恥ずかしくなった。
2月3日(月)
朝7時半にすでに空が明るくなっている。まるで春の到来を見たような気がした。学校の帰り道でも、ただ空を撮っているだけの人々の遭遇。みな、日照時間が1時間伸びただけでも嬉しいらしい。
語学学校では、アメリカ人のヘザーが授業中に編み物をしていた。先生はスルー。なぜなら編み物を授業中にしてはならぬ、という明文はないから。
2月4日(水)
新しい家の契約書が届いた。契約書の中に、「1日5~10分は窓を開けて換気すること、これがドイツ流。部屋の温度は暖房で20度に保つこと」などと書いてある。なんでこんなに細かいのだ?
今の家の契約書を見直したら、「食洗機に鍋やフライパンを入れるなだとか、洗濯機は1ヶ月に1回掃除すること」などと、やたらと細かいことが書いてあった。
2月6日(木)
ネットショップで注文した荷物を受け取るため、1日中自宅待機。学校を休む。一度チャンスを逃せば、荷物が島流しになるのがドイツ流。細かい時間指定などもちろんできない。ドイツでの荷物受け取りは一大行事。
そう考えると日本の物流システムはすごい。ネットでポチればノーストレスで、荷物を届けてくれるんだもの。けれども、それが誰かを犠牲にして成り立っているシステムだとすれば、荷物の受け取り手が、多少の不便やストレスを請け負うことは、それなりにフェアなシステムであるようにも思う。
2月7日(金)
日本のアマゾンで注文した商品が届いた。税金と送料を合わせて、余分に5,000円ぐらいしたが、EUのネットショップで買うよりも、圧倒的に確実で早い。というか日本が早すぎるのか。
2月9日(日)
朝、近所の公園へ行くと、そこには2種類の人間しかいなかった。ランニングしている人間と、犬と散歩している人間。もちろんノーリード。自由だ。散歩の調子が乗ってきたので、歩いたことのない道を歩くゲームを始めた。2体の慰安婦像に遭遇。日本大使館が「撤去してくれえ」と懇願していた例の像であるが、今だ鎮座している。慰安婦像の手元には、誰かが置いた花束が添えられていた。途端に政治的な嫌な散歩になる。
ベルリンの慰安婦像
2月10日(月)
IDカードの住所を修正するため移民局へ。「住所を直すためだけに来たの?」と言われる。ドイツでは日本と同じく、人にやってもらった方が手続きはスムーズな気がする。デジタル化しようと頑張っているけど、それは不完全で機能しないことの方が多いので、結局アナログの方が確実で早いという悲しいオチ。
2月11日(火)
インビザラインの検査で歯医者へ。レントゲン室には、7色に光るミラーボールが設置されており、まるでクラブ。BGMはもちろんテクノ。テクノ歯医者などベルリンにしかないだろう。ストライキの日なので、気づいたら1.6万歩も歩いていた。
2月11日(火)
先月の寒中水泳イベントで会えなかった、イスラエル人の友達にメールをしてみた。速攻で返事が来る。近況を電話で話すと、何やら彼は環境活動家になっていた。なるほど、ベルリンにいると、そっちの方向性に走るのもあるのか。
2月12日(水)
とんだ寒波襲来。本当は外に出たくないが、なけなしの気力で日サロに行き、日光を20分、18ユーロで買取。日サロに行くと、数時間ほど寒さを感じなくなるラッキータイムが出現するのだが、この日はあまりにも寒すぎて30分で終了。
寒すぎて頭がぼーっとする。体は「もう冬眠しようよ」と言っている。寒い。でも春が近づいてきている。地球の自転と公転に思いを馳せる。YouTubeで宇宙の動画を見ながら、太陽系で最も寒い天王星のことを考える。寒すぎると、シラフなのに意識が宇宙までぶっ飛んでしまうらしい。
2月13日(木)
ベルリン国際映画祭が始まる。
ドイツ語の授業が頭に入らず、先生の性格診断を行う。この先生は、どんな状況下でも淡々と授業を実践する。サイコパスなのか、AIでも搭載されているのか。周りの環境に全く左右されないのがすごい。私といえば、ドーパミンやエストロゲン、ベルリンの魑魅魍魎たちに、いちいち揺さぶられるというのに。
2月14日(金)
バレンタインデー。
クラスメイトたちと各国のバレンタインデー状況について語る。チョコがメインアイテムになるのは、韓国や台湾も同じらしいが、友チョコなるものは、やはり日本独自のものらしい。
ヨーロッパではやたらと、ディナーデートだの、セクシーランジェリー、花などがはやしたてられている。チョコなんぞお出ましではない。そしてドイツの独身者は、日本のクリススマスと同様、独り身同士で肩を寄せ合ってやけ酒をかわすらしい。
2月15日(土)
電車でチュパチュパと、ただならぬ液体音が聞こえた。やべえ液体をぶっかけられると思ったが、単純にカップルが唾液の交換会を行なっていただけだった。同日、路上でも、生物学的な女性2名が、唾液の交換会を行なっていた。自由だ。
選挙が近いこともあってか、町中には選挙に関するラクガキやステッカーが増えてきた。特に目についたのが、「Fuck AfD」という極右政党に反対するもの。選挙に関する個人の叫びを模造紙に書いて、貼り出す民家も。ベルリンの街はとにかくいろんな言葉に溢れている。
個人の叫びを書いた張り紙。
パタゴニアのショップですら、自社製品の販促を放棄し「選挙に行こう!」と呼びかけている。
「Fuck AfD」と落書きされた、あわれなシェアサイクル
2月16日(日)
ドイツ選挙投票日の一週間前。
チームキットカットの売人もどき(裏切り、依存からの解脱。絶望から這い上がるまでの31日奮闘記を参照)が、挨拶がわりにののちゃん動画を送りつけてきた。毎回、変な動画を送りつけてくるので、こいつはラリってるのではないかと思う。ののちゃん動画の後には、「AfD(ドイツの極右政党)が今度の選挙で勝ったら、お前たち移民は終わりだかんな」と言う。やっぱりラリってるんじゃないか。
2月17日(月)
クラスメイトのエルサドルバドル出身のグスターボ夫妻が、私のビザについて聞いてきた。あと2ヶ月で彼らの学生ビザは切れるらしい。2人の子供を持つ上、次のビザが決まってないとは。こんな状況でなぜそんな陽気でいられるのか。これも南米の陽気さゆえか。
2月18日(火)
夜、韓国人クラスメイト、ギュホからの連絡。「明日タバコを持ってきてくれないか」という。普通の紙タバコの話かと思いきや、私が自作した手巻きタバコのことだった。ギュホは、味の違いがわかる人間らしく、以前にDIYしたタバコをお試しであげたら、紙タバコと手巻きタバコの味の違いをすぐに嗅ぎ分けたらしい。というわけで、夜な夜なタバコの製造を行う。
2月19日(水)
学校帰りの電車で、小銭稼ぎのミュージシャンが乗り込んでくる。真横でジェームス・ブラントの「You’re Beautifl」を熱唱。肝心のサビの声が、鳥の声並みに小さいので、もっと大きくしてくれよ、と思ったがそんな注文をつけるほどの度胸はない。というわけで、感動と引き換えに、小銭を渡す。
2月20日-21日(木、金)
大規模な48時間耐久ストライキ。またか。今月に入って2度目である。日本の祝日並みに、ストライキをしている。
インビザラインの請求書がようやく郵送で届いた。1回目の検診から1ヶ月以上経っている。総額なんと780ユーロ。たった3回の検診で10万近くて・・・高すぎね?
2月23日(日)
ドイツ選挙の投票日。
投票日のせいか、人通りが極端に少ない。何せ今回は、投票率84%という脅威の数値。しかし、天気は良いので、人々は浮かれている。気温が高くなると、どんどん人々がテラス席に出てくる。テラス席の占有率は、一種の温度計みたいなものか。
投票済みの友達が家にやってきて、ビールを飲みながら選挙ライブ映像を観戦。サッカー観戦並みになぜか盛り上がる。
「AfDの党首って極右政党なのに、レズビアンでスイスに住んでるけど、アリなの?」と聞いたら「スイスはドイツのすぐ隣だろ。そんなちっちゃなことは関係ねえ」と一蹴された。
2月24日(月)
語学学校をドロップアウトする。代わりにタンデムを始める。お相手は三島由紀夫のファン。ポーランド語、ドイツ語、英語で三島を読んだという猛者。三島作品を語れる仲間ができて、ドイツ語のモチベが爆上がり。クラブ衣装を買いに行く。
2月25日(火)
クラブ衣装の最終調整。必要なアイテムを買い足す。古着屋やゴス、フェティッシュショップなどをくまなく回った結果、東南アジア感満載のチープなショップで、お目当てのアイテムをゲット。古着屋に、任天堂64が置いてあったので、プレイしてみたが、機能しなかった。単なる飾りだった。
2月26日(水)
2月最大のXデー。セッククラブ「キットカット」へ。強制退場、負傷などを経て無事帰還。この日を境に新たな扉を開けてしまった。
2月27日(木)
打ち上げと称し、イタリアンレストランに行く。イタリア人の店員が無駄にマッチョで元気だった。食事後、家でネットフリックスで『グリセルダ』を鑑賞。本場のコロンビア人による解説付きで、コロンビアの麻薬業界への知識が深まる。
2月28日(金)
ナチュラルハイのせいか、夜な夜な起きてたせいか、まともに眠れなくなる。まだあの一夜が忘れられない。私の誕生日が近いというと、売人もどきが「誕生日にローマで結婚式をしよう」と言った。やっぱりこいつはラリっているに違いない。ロマンス詐欺だと思い、私は震えた。