読む前は「UAEの刑務所に入っていた日本人の体験記」というそんな稀な経験もあるのね、と思って手に取った本。
だが、読めば読むほどこの拘置所に入るというのは、もしかしたら自分にも起こりうるのかもしれない、というドバイの裏の顔とドバイで外人として働くことの恐ろしさを突きつけられたのである。
と同時に、まさにメディアが書き立てる金持ちのエミラティの元で「外国人労働者」として働くという、貴重な体験記。それが「地獄のドバイ」という本である。
ドバイにいたって、人口の3割ほどしかいないUAE人と働くことなんてめったにないし(会社や業種にもよるが)、いわゆる 低賃金で働く「外国人労働者」という世界も、隣り合っているようで、決して交わることはない世界なのだ。
ちなみに表題にも本にもドバイの拘置所、という風に書いてあるが、筆者がいたのはアブダビの拘置所である。筆者も書いているが、アブダビにした途端食いつきが悪くなるのであえてドバイにした、という同じ理由でここでも一応ドバイといっている。
筆者が、ドバイにやってきたのはドバイで寿司職人になるという、アメリカンドリームならぬドバイドリームを叶えるためだった。ドバイでいっちょ成功しようという野望とともに、ドバイにやってきて就活を始めるのである。しかし、ことごとく断られ就活の期間のための1ヶ月の費用も底をつきてしまった。
この点については、日本であれ海外であれちゃんと就職先を見つけてから動くべきだと思う。この筆者のみならず、とりあえず観光ビザでドバイにやってきて、就活をするが結局みつからず自国に帰ることに、といった人も多いのである。
実際に私の部屋は、「夏草や兵どもが夢の跡」のごとく前の住人(フランス人)が、就活をしていたが、結局見つからずに帰ったため空き部屋となったという。
本書の目玉は拘置所での生活かもしれないが、「外国人労働者」への扱いについての視点や意味もなく国に振り回されることへの怒りが非常に共感できる。かくいう私も結核を疑われ、労働者キャンプに送られるという、「他国からのゲスト」扱いされる日本人に対してあるまじき扱いを受けたことがある。
いかにも日本人はえらく、他のアジア諸国は地位が低いみたいな言い方をしているが、こうした下衆な発想をするのも格差・競争社会のドバイで生きるにあたって芽生えてしまった悪の考えである。
それほどドバイで働くというのは、「差別なんかしちゃいけない」とか「他国をバカにしちゃいけません」というようなきれいごとを澄まし顔で、かますことすら難しいのである。
怒りの部分に対しては、石油で勝手に潤って成金になって、偉そうにしているが、この国を支えているのは「外国人労働者」なんだぞという部分(筆者の意を少し悪口風に書いてしまいました。すみません)。
これは全くもってその通り。ドバイにいると、「やってもらって当たり前」「面倒ごとは他人で済ませる」といった感覚を持っている人が多い。
なんというか、他人に対しての、尊敬や感謝、思慮というのがないのだ。いきなり石油で金持ちになっちゃったもんだから、「努力」とか「一生懸命」なんて必要ないのである。
というわけで、ドバイの裏の顔を知るには非常にオススメの一冊。というかこれを読んで、ドバイのリアリティを1人でも多くの人に知ってもらいたいと思う。