夢か現か・・・アラビア半島の桃源郷で見た幻想的世界

自分の目の前に広がる光景は何なのか。

落ち着いて考えよう。2時間前には砂漠都市ドバイにいた。あたりは砂漠か高層ビルしかない。そして私は今同じくアラビア半島の一角、サラーラという都市にいる。

砂漠の半島に緑が広がる不思議な光景

当然ここも砂漠でしょう・・・と思いきやこれである。


ここは一体・・・?

あたり一面の緑。まるで「もののけ姫」のエンディングでタタリ神がもたらした緑のごとく、あたりは一面緑に囲まれていた。なんなんだここは・・・?と言わずにはいられない。

そう、これがアラビア半島の不思議な土地、サラーラの正体である。

サラーラはオマーンの第2の都市。この地域にだけは、毎年モンスーン(季節風)が吹く。ドバイやその他の湾岸諸国の都市がもっとも気温が上がるのが7月から8月にかけてだ。その間は日中の気温が40度になるのもざらである。私が勝手に「中東のデスバレー」と呼んでいるクウェートは日中は50度近くにもなる。湾岸で一番暑い場所なのだ。

一方でサラーラはモンスーンによりこの時期がもっとも雨量が多くなる。気温は日中でも30度前後と過ごしやすい。現地では「カリーフ」シーズンと呼ばれ、この時期には近隣の湾岸諸国から多くの避暑客が集まる。


サラーラ滞在中も常に小雨が降っており、山中付近は霧に覆われていた

砂漠のイメージが強いアラビア半島は一様に雨なんか降らないだろう・・・と思いきや、サイクロンまでお出ましになることもあるのだ。2018年の5月には巨大サイクロンが発生し、イエメンとオマーンの国境付近を直撃した。

空港に迎えにやってきた陽気なドライバーは、大洪水状態に陥った街の動画を見せてくれた。4駆動車がぷっかりと水に浮かび、建物は半分水につかっている。これが中東の光景だとは誰も思いもよらないだろう。

「あの時はみんな大変だったんだぜ。全部、水に浸かっちまってな。なにせ放牧しているやつもこの辺にはいるからな。自分とこのラクダや羊をみんな山に避難させるのに必死でよ」といったエピソードも話してくれた。

ちなみにソマリアのプントランドも同様の現象が見られる。乾季にはカラッカラの砂漠地帯になっているが、雨季にはとんでもない量の雨が降り大型サイクロンが直撃したこともかつてあった。オマーンとプントランドの気候や土地はどことなく雰囲気が似ているのだ。この辺については拙著「ソマリアを旅する: アフリカの角の果てへ」を読んでいただきたい。

アラビア半島の桃源郷を発見

避暑客が多く集まるスポットの1つがアイン・アスム(Ayn Athum)。まさかここに来て滝を拝むとは思いも寄らなかった。湾岸諸国から集まったアラブたちが、大人も含めみなきゃっきゃしている。丈の長い民族衣装が、泥だらけになってもおかまいなしである。



民族衣装のアバヤが濡れてもおかまいなしに子どもを巻き込んではしゃぐアラブママ


滝の近くにはカエルやおたまじゃくし、トンボなど日本の里山を思わせる生物たちがいた。

滝に続きサラーラの人気のスポットが、「ワディ・タラバット(Wadi Darabat)」。何この世界?もはやアラビア半島の桃源郷とでも言おうか。


カリーフシーズンにだけ現れるアラビア半島の桃源郷


桃源郷に魅了されて呆然とたちくす男

緑といい、水の量といい。同じサラーラでもこのカリーフシーズンにしかお目にかかれない。案内人のオマーン人いわく、「今年はサイクロンもあったし、雨量がかなり多かったんだよね。例年はこれほどの水はないんだけども・・・」と話してくれた。


レア度が高いラクダの行水光景。ラクダ好きにはたまらない。ラクダたちも心なしか嬉しそうである

緑にはしゃぐ砂漠のアラブ人たち

それにしてもこのカリーフに集まる人たち。車のナンバーを見る限り、オマーン国内が7割、アブダビ、ドバイから2割、サウジが1割といったところだ。エクスパットと呼ばれる湾岸に住む外国人はほとんどおらず、そのほとんどが地元のアラブ人たちであった。

オマーンの子どもたちは、よほど興奮しているのか車の天窓や横窓から体を半身乗り出している。車から身を乗り出すやつなんて、ヒッピーかパリピぐらいだと思いきや、オマーンの子どもたちも相当である。

オマーン人の車を見やるとかなりの確率で5人ぐらいの子どもがすし詰めで乗っている。オマーン人家庭はとにかく子どもが多いらしい。それに移動は基本みな家族単位だ。1人とか2人で行動している人はほぼ皆無だった。


川辺で自撮りとともにピクニックを楽しむアラブ男子たち

単に景色を見るだけじゃ楽しくない。ということで、頻繁に目撃したのがピクニックをする家族連れの姿である。以前イラン人のことをピクニックマニアだと書いた覚えがある。ピクニックする場所と時間さえあれば、常にピクニックをしてやろうという魂胆を持つ人々だからである。

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しかしここにもいるじゃないか。どこでもかしこでもピクニックするアラブ人たちが。おそらくピクニックというのは、家族が外出した時にもっとも手軽にできるレジャーなのだろう。老若男女関係なく楽しめる。家族単位で行動するアラブ人家族とピクニックはどうやら相性がいいらしい。

それに湾岸に住むアラブ人にとっては、ホンモノの緑は日常的に目にするものではない。普段は人工のヤシの木や芝生といった白々しく作れらた緑を見るぐらいである。それが今や、ホンモノの緑が目の前にたんとあるのだ。興奮しないわけにはいかないだろう。

かくいう私もその一人だったわけで。満ち溢れる緑に興奮していたのだが、はたと考えるとこの程度の緑は東京の奥多摩にもあったなあと。

自然が多い日本で暮らす日本人にとっては、当たり前の緑。しかし、そんな場所から離れて高層ビルと砂漠という体に悪そうな場所でしばし暮らしていると、「緑への感度」が半端なく高くなる。そうした事実を差し引いたとしても、ワディ・ダラバットが作り出す幻想的世界観は特異なものであろう。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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