パスポートなしで入国できる!?奇妙なオマーンの飛び地、マドゥハーに行ってみた【前編】

ある日のこと。Googleマップを眺めていたら突如として奇妙な場所が目に入った。

UAEの領土に、オマーンの飛び地がある。オマーンの飛び地があること自体は別に珍しくない。

ペルシャ湾に突き出たように位置するムサンダムは、この地域に住む人間にとっては有名なオマーンの飛び地である。中東のフィヨルドと呼ばれるだけあって、ドバイからも日帰りツアーなんかが敢行されている。

飛び地の中の飛び地?

しかし、今目にしている飛び地はどうか。こいつはただ者ではない。なぜならオマーンの飛び地のなかに、UAEの飛び地があるからだ。飛び地のなかに飛び地がある・・・?この謎のコンセプトは一体何なんだ。


マドゥハーと呼ばれるオマーンの飛び地の中に、ナフワと呼ばれるUAEの飛び地が存在する

このUAEの飛び地に入るには、オマーンにいったん入らなくてはならない。するてと、パスポートがいるのだろうか。こんな飛び地に一体何があるのだろうか。という疑問により実際に飛び地の中の飛び地へ行ってみることにした。

時刻表がないバス停

飛び地は車でしかいけない。まずはドバイからフジャイラまでバスを乗り継ぎ2時間半ほどでフジャイラと呼ばれる場所まで行く。フジャイラはUAEを形成する7つの首長国のうちの1つである。

しかし、そこは2時間半ほど前まではドバイにいたという事実を容易に打ち消してしまうほどの、辺鄙な場所であった。


フジャイラの終着点

公式に「バス停」と呼ばれる場所はなく、単なる空き地をバス停として利用しているらしかった。Googleマップにもそのバス停は「バス停」として登録されていない。ただ、地元民だけが知っている「バス停」である。

駅名は一応あるらしいのだが、どこもバス停の看板すら立っていない。だから時刻表などもない。時刻表が知りたければ、バスの運転手の口頭による回答を頼るしかない。

何もかもがきちんと整備されたドバイからやってくると、このことにひどく動揺する。しかし、周りはそれが当たり前だ、と言わんばかりに粛々と乗り降りをしている。

ちなみに乗り換えアプリもこの点において、実際の時刻と微妙に違っていたのであまり役立たなかった。ここはITよりも人づてで、正しい情報を得るのが一般的らしい。

「終着駅」の空き地でバスを降りると、待ってましたあ!と言わんばかりに、タクシーの運ちゃんに自分のタクシーへ引き入れられる。スムーズな乗り換えである。

そこから30分ほどかけて、例の飛び地へ向かう。タクシーの運ちゃんはパキスタン出身で、陽気な男だった。

「ほう、日本人かい。そういえば、このあたりにも日本人家族がいるんだ。お父さんは貿易関係の仕事に勤めているって言ったっけなあ。まあ、みんなちっちゃい目をして可愛いんだ」

世界は狭いものである。そしてタクシーの運転手というのは、世界をよく知っている。

UAEからパスポートなしでオマーンへ

ミアバという海に面した街から飛び地への一本道がある。そこを山へ向かって走ると、見えてきたのはオマーンのカブース国王の肖像画である。


こっからはオマーンだよ!カブース国王がお出迎え

普通の国であれば、国旗でもってして「わいの国じゃい」とアピールするのが一般的だろう。しかし、アラビア半島の国々は違う。必ずそこに添えられているのが、国王なり首長なりの肖像画なのである。はたから見れば、独裁国家色が漂っていることも否めない。

イスラーム教において写真や肖像画というは、あまり好まれない。なにせイスラーム教においては、アッラーという神がすべてであり、偶像崇拝が禁止されている。写真や肖像画というのはアッラーの他にも崇拝する対象を作り出す恐れがある。そんな理由からイスラーム美術ではあまり人物画や彫刻は発達しなかった。

だのに!

現実はこれである。UAEやオマーンを旅行した人なら気づくだろう。ホテルのフロントになぜおっさんの顔を掲げているのだろうか。さわやかに出迎えてくれた受付スタッフの笑顔も台無しじゃないかと。

そう、現実では、北朝鮮ばりに国家主席たちの肖像画があちこち掲げられ、ここぞとばかりに国の為政者は誰であるかを国民に訴えかけるのである。

ここは独裁国家なのだろうか・・・?とふと感じることも少なくないこの頃である。

後編

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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