リアルドナドナの世界。“ヤギの競り“市場、ニズワスークに行ってみた

オマーンの見所の1つといえば、ニズワスークである。

オマーンの首都、マスカットから車で約2時間ほど走らせた場所にあるのがニズワ。そのスークで、毎週金曜日の朝にだけ開かれるのが、名物の「ヤギの競り」である。

オマーンの面積は日本の85%だが、人口はたったの400万人ばかしである。つまりは、どこへ行っても日本の田舎ばりに人が少ない。

しかし、金曜日の朝限定ということもあってか、その時ばかりは、ニズワスーク一帯は、週末の表参道ばりの人口密度になっていた。

ヤギの品評会!?

ヤギの競りといっても、中東でよく見るスークの光景じゃないの?などと期待もしていなかった。売るものが、野菜や魚からヤギに変わっただけの話である。

それに、アフリカのソマリランドでも同様にラクダやヤギが売り買いされる家畜マーケットを見たこともある。


本日競りにかけられるヤギの搬送車

このようにニズワスークに対する期待値は、かなり低かったのだが、私の見積もりは甘かった。

なにこれ!?

そこには今までに見たことのない光景が広がっていたのである。円状になった石畳の周りを人が囲み、観衆の間を人間に連れられたヤギたちがドンドコ練り歩いていくのである。

その光景はまさしく犬の品評会であった。


ワンコのごとく縄で引っ張られ観衆の前を歩くヤギたち

違いといえば、ワンコたちが自らサッサと滞りなく歩くのに対し、ヤギたちはまっすぐに歩かないので、時には観衆に突っ込むヤギをなだめつつ、人間がヤギを先導していく姿だった。


子ヤギは歩けないので、抱きかかえられて競りに登場。子ヤギも容赦なく競りに出されるのが特徴

リアルガチでヤギを買う人々

単なる観衆の一部と見えたオマーン人の男たちは、真剣な眼差しでヤギを見定める。めぼしそうなヤギを見つけては、ヤギの口を開け歯をチェックし、お腹を触り、肛門あたりをチェックする。


ヤギの尻尾をあげて、肛門チェックをするオマーン人(右)

「50リヤル!」まず売り手の男が値段をとばす。続いて、「40リヤル!」と売り手からの交渉が始まる。

ここで交渉が決まれば、晴れてヤギは退場。交渉が決裂すれば、ヤギは引き続きぐるぐると周り続けるのである。


競りに参加していた地元の人。競りを前に興奮気味である。


競り落とされたヤギ(右)と子ヤギと地元の子どもという旅行写真の”絶好の獲物”にたかる観光客たち

地元の住人曰く、山で飼われているヤギの方が、街で飼われているヤギよりも高額で取引されるという。山出身のヤギは、草だけを食べているので余計な不純物を食べていないという。

ヤギの値段はそうしたヤギの出自、体の状態、重さによって決まる。神戸牛や松坂牛といったブランド牛がいるように、ヤギもいろいろな事情で区別されるらしい。家畜たちも大変な世界に生きている。

便利な世界から遠く離れて

ちなみに競り落とされたヤギはどうなるのか。ほとんどのヤギはその日のうちにお肉になるのだという。オマーンに限らず、中東地域においては自分たちでヤギや羊を屠ることが珍しくない。

早朝にスークに出かけて、食料を調達。正午の金曜礼拝を終え、ヤギを一頭屠り、それを大勢の家族と一緒に食べる。金曜礼拝があり、屠るのにも時間がかかる。それらを考えるとなぜニズワスークが、金曜日の朝にだけ開かれるのかが納得いく。

それとともになぜイスラーム圏では、店は金曜日の朝には閉まり、午後3時あたりから、開店し始めるのかといった謎も解ける。

近くて遠い存在だったアラビア半島の人々の暮らし。24時間営業のスーパーやコンビニにあふれ、いつなんどきでも食事ができる東京。生活サイクルも人によって大きく違う。

そんな環境からは、想像もつかない彼らの暮らしの一端に、ここにきてようやくわずかながら触れることができたような気がした。

 

オマーン旅行前に読んでおきたい本

旅行先としてはまだマイナーなのか、オマーンだけを特集した旅行本はないが、地球の歩き方には、まとまった情報が掲載されている。細々と紹介されているわりには、各地の情報がきちんと網羅されているので、役に立った。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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