とにかくありとあらゆる魚介類をパクつく日本人であるが、サメというのは、一般的な日本人の食卓にあがることがあまりない。
そんな魚介類マニアを差し置いて、サメが一般的な食卓にものぼるのがオマーンである。
オマーン名物?サメの干物、アワール
オマーンのフィッシュ・マーケットに行くと、サメが売られていた。ソマリアのモガディシュでも巨大なサメが売られていたので、この近海ではどうやらサメがよくとれるようだ。
スールの魚市場で売られていたサメ
はて。一体どのようにしてサメを食らうのか・・・と思っていたところ、「アワール」と呼ばれる乾燥したサメ肉として食べるのが一般的だという。サメ肉を直接焼いたり、煮たりして食べるわけではないらしい。
ニズワ・スークで売られていた干したサメ肉、「アワール」
アワールを売る地元の若者。大きめのパッケージ(1キロぐらい?)で6リヤル。小さなもので1リヤル。オマーン人にとってはちょっとした高級食材になっているというだけある。
サメ料理をいざ堪能
町のレストランでは、アワールを使ったメニューも見かけた。その中で食べたのが、サメスープとサメシチューである。
「サメスープは塩辛いですよ。それでも大丈夫ですか?」と念押しをされる。料理の辛さを心配されることはあっても、塩辛さを心配されるのは、初めてである。
出てきたスープを口にしてみると、塩辛さなんて大したことはない。というかバリバリのフカヒレスープじゃないか。日本人が好みそうな味である。むしろ求めていたのはこういう味である。
細切れになったアワールがスープにちょうどいい塩梅を与えている
いや、本物のフカヒレスープとは違うものの、サメを使っていることには変わりないのだ。
同時に、我々が許容できる塩辛さを、わざわざ忠告してくることが気になった。
考えてみれば、ハリージ料理と呼ばれる湾岸諸国の料理にはあまり塩辛いものがない。スイーツはともかく、ハリースやバラリートにしろ甘めの味付けが多いのだ。シンプルに焼いた魚や肉であってもご飯と一緒に食べるので、塩辛くはならないのだ。
そしてサメシチュー。トマトをベースに、こちらもアワールを細かく切ったものが入っている。まったくクセはなく、ちょうどいいアクセントになっている。
オマーンでは辛い料理は一般的ではないので、辛いのがお好きな人は、チリが入ったトマトソース(手前)を入れて調節する
ちなみにUAEやオマーンには、サメの肉をシーチキン状にしてご飯と一緒に食べる料理がある。けれども、乾燥肉として、シチューやスープに入れて食べる料理は、オマーン特有なのではないか。
サメの干物を炙ってみた
入ったレストランが良すぎたのか、両者ともめちゃくちゃうまい料理だった。あれ・・・サメってこんなに美味しい料理なの?
というわけで、スークで手に入れたアワールを炙って食べてみることにした。スルメの応用編である。
スークで買ったアワール
しかし、やはりサメ。そう甘くなかった。
若干えづきそうになるようなアンモニア臭が、ぐっと押し寄せる。このアンモニアの強さこそが、サメが食料として長期保存に向いている理由でもあるのだが。
ううっ。
こんなんじゃ炙る気にもならん。
しかも固くて、なかなか切れない。陸上でもサメは強い。
炙るとスルメのごとく香ばしい匂いがする
食べてみると肉厚があり美味しいのだが、1つ難点があった。
炙ることでアンモニア臭さは飛ぶのだが、めちゃくちゃ塩辛いのである。苦いビールと一緒に食べればベストなのだろうが、酒を飲まないイスラームの国では、せいぜいソフトドリンクやコーヒーぐらいである。
ビールなしではアワールの炙り焼きが、全然進まない。日本の居酒屋であれば、珍味の1品料理として成立するに違いないのに。そんなわけで、オマーンではシチューやスープなどに入れて調理することになったのだろう。
日本でもサメを食べる場所がある!?
サメを食べるなんて、いかにも異国料理だと思っていた。しかし、オマーンから帰ってふと我に返る。重要なことを忘れていたのだ。
日本にもサメを食べる場所がある!
しかも己の地元やないか!
そう、私の地元である広島県三次市では、サメを食べる風習が古くからあった。サメなのに、なぜか人々はそれを「ワニ」と呼んだ。ややこしい。
食料がなかったころ、日持ちするサメの肉が重宝されていたらしい。おそらくオマーンでも同様の理由で、今のアワールが誕生したのではないだろうか。
今でも三次のスーパーへ行くと、サメの刺身などが売られている。しかし残念ながら私は地元でサメを食べたことがない。
あんなに足しげくかよったのに、地元のサメをスルーして異国のサメを食らっていたとは。
けれども今では猛烈に地元でサメ料理が食べたい。次に三次に行ったら、絶対にサメ料理を食べよう。
アラビア半島にあるオマーン料理は、日本の食卓とまったく異なるものだと思っていた。米が主食なのは同じだが、パサパサとしたインディカ米だし、食べ方も違う。
しかし、調理法の違いこそあれども、己の地元と同じ食材が食べられていたとは。しかも保存がきく食料として重宝されていた、という点も同じだ。意外な共通点の発見に、オマーンの食卓がずいぶんと身近になった。
オマーン旅行前に読んでおきたい本
旅行先としてはまだマイナーなのか、オマーンだけを特集した旅行本はないが、地球の歩き方には、まとまった情報が掲載されている。細々と紹介されているわりには、各地の情報がきちんと網羅されているので、役に立った。