人生初の職質。アラブ警察に捕まった日

悪い予感をしていた。けれども予感なので、人間それが実際に起こるまではそれがなんなのかがわからない。それが人生の面白味でもある。

ここ数年割ることのなかった、グラス類の食器を立て続けに2度も割ってしまった。こんなことがあってたまるか!と思い、何かの予兆なのではと思い検索すると、だいたいにしてモノが壊れるのは、悪いことの予兆ではなく自分の身代わりになって守ってくれるのだというのがネット検索の答えだった。

その翌日、いつものように通勤路を歩いており、魔がさしたのか数十メートル歩けば横断歩道があるのに、横着をして横断歩道がない道路を横断してしまったのである。

これはその時に限ってではなく、普段からちょいちょいしている。ドバイでは、車優先社会なので横断歩道が少なく、高速のような道路でも人は突っ走って渡るのである。

電車の駅に入ろうとすると、

「ちょっと待て」

と言われ、目をやると目の前に立っていたのは、普段は駅構内で携帯をいじりながら暇つぶしをしているアラブ(UAE人)警官である。

え?と声を上げる前に警官は続けざまに、

「IDカードを見せろ」

という。一体なんの容疑でこんな職質を受けなければならないのかと思っていると、

「いいか。お前の国にもルールってもんがあるだろ。UAEもそれは同じだ。お前は横断歩道のない道路を歩いたから、罰金として3000円を徴収する。まずは交番に行って、そこで書類を書くんだ」

とまさかの現行犯逮捕である。

血の気がサーっと引く。ここでアラブ人に口答えしようもんなら、もっと恐ろしい目にあうことをすでに身をもって経験していた私は、酸素が足りなくて口をパクパクさせている魚のように、何も言えねえ状態になっていた。

道路渡ったら罰金なんてルール知らねえし。そんな身近に犯しそうなルールならもっと周知徹底させておけよと心の中で思った。

と同時に、「交番に行っては会社に遅刻する!道路渡るだけで罰金なんてお財布に痛いわ」などと至極現実的なことも考えていた。

私が手渡したIDカードをみると、アラブ警官は

「ほう、お前日本人なのか」

というと「それがどーした?」とヤンキーのごとく下から睨みつけて言いたくなったが、黙って首を縦に振りコクリとだけ頷いた。それだけアラブ人(UAE人)は、触発して怒らせないほうが身のためなのである。

そして警官はIDカードを片手に、電話をし始める。戦々恐々である。アラビア語で「こいつ日本人だ」みたいなことを話しているが、果たしてその結果はいかに!?

もはや交番に連行されるものだと思っていた私だが、アラブ警官が

「ほらよ、行っていいぞ」

といって釈放されたのである。お咎めなしということで安堵したのもつかの間、

  1. 本当にそんなルールがあったのか?ルールマニアの日本でもねえわ。
  2. こいつ、絶対暇つぶし(警官なのに本当にいつも暇そうにしている)でそういうルールを勝手に作り上げて、逮捕ごっこしてたんじゃね?
  3. もし欧米人が同じことをしたら、あいつは同じような態度をとったのか?

という疑問が次々と頭に浮かぶ。と同時に先日割れたグラスはこのことを意味していたのだろうかとも思った。

この話をルームメイトのレバノン人にすると、

「それは日本人だからじゃね?」

という説だった。

すると、アラブ警官がしきりに「日本人」といっていたのが、なんとなく納得できる。おそらくやつは、外見で自分たちよりも格が低いフィリピーノか別の国のアジア人とでも思ったのだろう。

だからわざわざ子どもにいうように「お前の国にも制度があるだろう。うちにもあるんだ」みたいな当然のことをいったのではないか。

UAE人=金持ちというイメージが強いが、実は警官のような職についている人は、それほど教養が高くないらしい。確かにそんなそぶりであった。本人には言えなかったので、ここで毒づいてやる。

日本人だからよかったのか?は未だ分からないが、コネクション社会であり、自国とは異なるルール(特に先進国か中先進国、途上国という違いからくるもの)に則って社会が営まれる国において、外国人であることは、どんなときにでも油断をしてはならないのだ、ということを学んだ。場合によっては、自国よりも重い罪に処せられることがありうるのだ。

それ以来、また暇つぶしで逮捕されたらかなわん!ということでちゃんと横断歩道を渡るようにしている。まるで飼いならされた犬である。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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