スピリチュアル系ガイドたちと登るバリ島の最高峰アグン山

がっかりバリ旅行などと名付けてしまったが、そもそもバリに来た理由は、登山であった。山にさえ登れば良いのである。

アグン山の標高は3,014メートル。バリ島では一番高い山である。ウブドやデンパサールあたりからもアクセスがよく、半日ほどで登れてしまう山である。

半日で登れるのだから、早朝開始ツアーがあっても良い気がするのだが、アグン山ツアーは基本的になぜか深夜発になっている。そう、これもすべては、山頂時に日の出を見るためなのだ。

おいおい。登山する奴が全員、山頂で日の出を見たいと思うなよ。そう、私は根っからのアンチ日の出主義者なのである。キリマンジャロにいった時も、日の出のためだけに深夜に起きるのが嫌だったので、仲間には日の出を見送って確実に登頂しようよ、吹聴するのであった

その根源は、日の出を見るためだけに、夜行生物のごとく夜中に登山をするのが、苦痛という理由である。それに、日の出は地球上で毎日起こっているのだ。ただ人間が見ていないだけで、何万、何億という間、太陽はそれを続けていたのだ。山頂で見たからといって、特別感激されても、太陽は困るだろう・・・というロマンもクソもない感受性の持ち主である。

南十字星への後悔

というわけで、夜の11時頃にウブドの宿を出発し、深夜に山の入り口に到着。昼間の喧騒のバリとは一転、あたりは暗くシンとしている。一方で空を見上げると、

なんということでしょう・・・

見たこともない星座が各種。もはや登山をやめて天文観察で一夜を明かしたいぐらいである。ちなみに、のちに知ったことだが、バリでは南十字星が見れる時期だったのだ。

普通の登山と違い、この山はジモティーの信仰対象にもなっている霊峰。ということで、バリ島で最大にして最も神聖とされるブサキ寺院の入り口で、ガイドたちは祈りを捧げる。

バリ島ではよく見かけるお祈りセット。登山の時でもお祈りセットは欠かせない。

奇妙な登山スタイル

観光地バリだというのに、アグン登山にほとんど観光客がやってこないのだという。私が行った時は、15名ほどの観光客がいたが、ガイドによれば前日には数人だったという。そして、やはり夜中に登山をしているローカル登山客は全くいない。

それもそうだ。人々はバリに癒しとリラックスを求めてやってくるのだから、わざわざ過酷な登山というアクティビティをする人間など変態に違いない。

日本人もほとんどこないということで、「へえ、日本人なのう」と珍しがられる始末である。

アグン山は、これまで登った山とはその登山スタイルが大きく異なった。まずやたらと休憩が多い。30分に1回ぐらいは休憩している。

その結果何が起こるかというと、他の登山グループも加わり、団子状態で登るのである。これが結構楽しい。みんなでワイワイ、登頂という1つの目標に向かって登るのだ。

しかも途中で、時間が余り過ぎているためか、登山中にキャンプファイヤーをする始末である。その周りでは、ガイドたちがカップラーメンなどを食べている。連れてこられた登山客も、「え?」という顔をしている。登山なのにリラックスしすぎている・・・


登山中のキャンプファイヤーは意外と楽しい


夜中に働くガイドたちはカップラーメンを夜食で食べる。これがとても美味そうなのだ。

そう、あとで確信するのだが、どう考えても早くスタートしすぎたのだ。4時間ほどで登れるところを、6時間ぐらいかけて登っているようなイメージ。

けれども、それがインドネシア流の登山なのだと思う。スマトラ島のクリンチ山でも感じたが、インドネシア人の登山ポリシーは(おそらく)楽しく、ゆるゆる登ることなのだ。

タイムを競うとか、辛い登山を乗り越えて頂上から景色をご褒美とする、といったものではない。とにかく、一歩一歩が楽しくあることが重要なのである。


休憩の合間に仮眠をとるガイド。そこかしこで眠りこけるガイドがいるので、まるで遺体が転がっているようでもある。

そして地元のガイドたちは、結構スピ系なのである。何かにかけて、お祈りの効果や神様の具合を気にしていたりする。

途中で雨がぱらついてきた時には、ガイドの一人が「ああ〜祈りが不十分だったんだあ」などと本気でのたまっている。

山だから、雨は降るよ。当たり前じゃん。

側から見れば、単なる自然現象なのだが、万物に神が宿ると考える信仰を持つジモティーだとそうした解釈になるらしい。それは、何か悪いことが起こると、天罰だの、自分が行いが悪かったなどとする、日本人の特性によく似ている。

意外な出会い

キャンプファイヤー中に、3人組の日本人と出会った。登山に来る観光客はほとんどいないというし、その中でもレアな日本人である。相当の変わり者集団に違いないと思っていたが、そんなことはなかった。

むしろ同志であった。彼らは日本を拠点にしながらも、仕事がフルリモートなので、時々こうして一緒に旅をしているのだという。

「アグン山に登るために、必死に仕事を終わらせて早く寝よう、って話してたんですけど。結局みんなで話し込んじゃって。ほとんど寝ないで来ちゃいましたよ」

「いやーふらりと旅に出たくなって。こないだ仕事をやめて、2ヶ月ぐらい南米を旅してたんですよ」

「社長がバックパッカーをやってて、社員も旅を推奨されてるんです。サハラ砂漠で現地集合してみんなで飲むこともあるんですよお」

なんか伸び伸びして自由だ。今の日本に対しては、悲観的なイメージしかなかったが、こんなに自由に生きている若者たちもいるじゃないか。

山頂での悲劇

暗闇の中、まるでフナムシのように岩にへばりつきながら、登った先に”頂上”はあった。しかし、日の出までにはまだ時間があるということで、登頂時には何が何だがよくわからない。しかし、太陽が昇るにつれその全貌が明らかとなっていく。


アグン山からは、ロンボック島で一番高いリンジャニ山が見える

そして、頂上についてからもガイドたちは、お香を焚き、せっせとお祈りセットをセッティングしていく。山頂でもお祈りとは・・・

「ちょっと、あんたたちそこから降りなさい!!!」

すごい剣幕で女性のガイドが、山頂にある岩に登ろうとしたヨーロッパ系の登山客に、わめいていた。

「それは神聖な岩だから、登っちゃダメなの!」

一神教の国からすれば、岩に神が宿るという信仰は、理解し難いものだろう。逆に言えば、多神教やアニミズムを信仰する人間が、神が1つしかないってどういうこと?と理解に苦しむことと同様だ。

しかし、山を神と崇める山岳信仰なるものが存在する日本から来た人間にとっては、スッと受け入れることができてしまう。

ガイド曰く、この手で評判が悪いのが、ロシア人観光客だ。2023年にロシア人観光客が、下半身を晒して頂上でパシャリ。その写真がSNSでバズり、地元民の怒りをかった。その観光客は、国外追放されてしまったという。

ちなみにCNNによれば、2023年にバリから追放された中でも最も多いのがロシア人だという。実際に我々が下山している最中にも、ロシア人グループたちが、ガイドなしでせっせと登っていた。どう見ても、クラブから直行した?と言わんばかりの、シティスタイルである。

「頂上まであとどれぐらーい?ええ。そんなにあるのう」

「ほらな、だからロシア人観光客はあんまり好きじゃないんだ」

ガイドは小声でつぶやき、肩をすくめた。

他の登山客が、日の出にうっとりしている横で、周りをよく見渡すと、私はよろしくない真実に気づいてしまった。

まさか・・・嘘だろ・・・

頂上にあってはならない・・・

決して見てはならないもの・・・

そう。さらに高い”山頂”があるではないか。

そう、山頂だと思っていた場所は、山頂ではなかったのだ。

やられた・・・

これじゃあ、登頂したと言えないじゃないか。

ガイドに聞くと、「あそこに辿り着くには、もっと時間がかかるし、ルートもここよりもっと過酷だよ」

ガイドする側からすれば、そりゃ楽な方がいいに決まっている。

事前の調べでは、おぼろげにルートが2つあることは何となく知っていたが、ルートが違っても同じ”山頂”に着くものだと思っていた。これは確認しなかった私が悪いのだが・・・

皆が楽しげにセルフィーをやったり、山頂で朝食をいただいているなど、優雅な光景を見ながら、ただ私一人だけが、本当の山頂に登れなかったことに愕然としていた。


登る時は、ひたすら暗闇なので、下山になって初めて、こんなところを登っていたということが分かる。

とはいえ、もはや本当の山頂を目指すために、この山を再訪することはもうないだろう。悲観的になりながらも、一風変わったインドネシア流登山ができたことに満足である。

アグン山登山まとめ

日の出を目指して登るならガイド付きのツアーに参加するのがおすすめ。真っ暗で何も見えないため。特に頂上付近は、岩登りがある。ガイドなしで登っている人もいたが、ジャングル以降は道がわかりづらくくなる。ヘッドランプは必須だが、ツアーの場合大体貸してくれる。私は持参したがライトが弱く、結局ガイドに借りた。

Dartha Mount Agung Trekkingという会社は観光客からも評価が高い。山頂は2つあるので、コースを選ぶときは要注意。ツアー費用は、一人参加の場合、送迎付きで190万〜250万ルピアほど。ツアーでは、チョコやお茶などの軽食がついているが、がっつり朝食を食べたい場合は、持参した方がよい。

工程は、ジャングル1.5時間ほど、残りは滑りやすい岩場が続く。頂上付近はかなり冷え込むので、少々厚めのジャッケットや上着があると良い(私は寒さに耐えきれず、一番に下山を始めた)。また、岩場を登るときに手袋があるとベター。

ツアーだと大体22~23時ぐらいに迎えが来て、深夜0時から登山がスタート。下山は早くて朝の9時ごろ。昼前後には、宿まで送ってくれる。

ちなみにバトゥール山も登山スポットとして観光客に人気。しかし、アグン山で一緒になった観光客が言うには、「あれは山ではなく道だ」とのこと。途中までスクーターで行けてしまう上、観光客で混み合っていたらしい。気軽に行くのであれば、良いと思うが、ガチでハイキングをしたい人はスキップしても良いかも?