列車すれすれの場所で生活。スラム街ツアーで見たジャカルタの貧困

正直いうと、それほどジャカルタのスラム街に興味があったわけではない。スラム街というのは、だいたい世界どこでも似たり寄ったりだからである。それにジャカルタには失礼だが、町の至る所がすでにスラムっぽいので、わざわざツアーで見てもなあ・・・と思っていた。

集合場所のホテルに集まり、本日のガイドとご挨拶。ガイドは、青年ブランドンと、その母親アネカであった。元々は、その父親ロニーが始めたツアーだったが、昨今では病気のため代わりに彼らがガイドをしているのだという。

アネカは、上品で妖艶な雰囲気を醸し出す女性だった。話を聞くと、昔CAとして働いており、日本にも頻繁にいったことがあるという。

「あの時は成田空港に着陸するのが大変だったのよー。ほら、なんていうの暴動があって」

彼女がCAをやっていた時代に、成田空港で暴動・・・

三里塚闘争!

当時は、空港に日本ゲリラがいるとして国際的には、恐れられていたらしい。

そんな話をしながら、舞台となるスラムへ車で向かう。スラムは、観光地としても知られる旧市街、コタ地区から車で15分ほどの場所にある。その近くには、日本でも見かけないような高級住宅がずらっと並んでいた。

中には、もはや家を通り越したヴィクトリア調の城みたいな建物もあった。それをガイドや我々観光客が、「趣味が悪いねえ」などと揶揄する。家主も知らぬところで、そのセンスをディスられているとは、夢にも思っていないだろう。

ジャカルタのスラム街
ジャカルタ湾に浮かぶスラム街。スラム街の向こうには高層マンションが見える。ジャカルタの町はこうしたあべこべな作りをしており、世界で最悪の都市計画と言われることもある。

一行は、ジャカルタの格差について認識した後、目的のスラム街へ。スラム街として紹介されたエリアは、思ったほど悪くはなかった。何よりビビったのは、ジモティーたちがめちゃくちゃフレンドリーということである。

通常、この手の場所に入ると、警戒と敵意のある眼差しを向けられることが多い。写真を取ろうものなら、怒られたり、罵倒されることもある。しかし、ここではどうしたことか、そうした気配は全くない。むしろ、「やっほー」と言わんばかりに、キッズも大人もみな笑顔を向けてくるではないか。なんならスラムの一角には、おしゃれなガーデニングエリアもある。


スラム街の入り口で、ガイドのブランドンから説明を聞く参加者たち。


スラム街の公衆トイレ&シャワー。1回の利用につき3,000ルピーを支払う。スラム街の住民たちは、主にゴミ収集や仕分けにより、現金収入を得ている。


スラム街はやたらとハエが多かったが、通りにごみは少なく、下水の臭いなどもなかった。全体的には小綺麗な印象。


イスラーム教の礼拝所も完備。


テレビがある民家もちらほら。しかし中は薄暗い。


公共の水場である井戸の近くにあったおしゃれなガーデニングエリア。

こんな明るいスラム街があるのか。東南アジア特有の明るさなのか、長年ここでツアーを行なっているガイドたちとの信頼関係ゆえかもしれない。というわけで、スラム街といえどもそこまで深刻さを感じることはなかった。

ただ次に案内された場所の方が、事態は深刻に見えた。そこはもはやスラム街ですらなく、ホームレスの人々が集う線路だった。我々が滞在していた数十分の間にも、電車が数本通っていた。電車と彼らの距離は1メートルにも満たない。目の前スレスレで電車が通っていくのだ。


線路上のホームレスたち

人々の顔には、笑顔はおろか、生気すらない。我々のような異邦人がウロウロしていても、興味なさげである。ただそこに座って、時が過ぎるのを待つように見えた。ここで、アネカが配給を始める。その辺にいるキッズや大人たちに、次々とスナックを配布していく。

こうしたホームレスたちは、警察などに見つかると、施設送りになるのだという。普通に考えれば、施設の方が食事もあるだろうし、安心して暮らせるのではないか。しかし、実際には施設の暮らしは、自由がない悲惨な生活だそうで、路上の方がまだマシだということらしい。

そして人通りが多い路上でホームレスをすると警察に見つかるので、こうした線路に身を潜めているとのことであった。

ツアーはこれで終わりかと思いきや、次に我々が向かったのは豆腐工場であった。スラム街と豆腐工場の関連性がいまいちわからないが、とりあえずついていくしかない。そこでは、揚げ豆腐とテンペを作っていた。異国の地でいただく、厚揚げ豆腐とは不思議なものである。


出来立てほやほやの揚げ豆腐


なぜか上半身裸でテンペを作るおっさん。


豆腐工場の近くに住んでいた家族。見知らぬ人間がカメラを向けて、こんなに美しい笑顔ができるとは。

なぜだろう。スラム街ツアーといっても、そこまでズーンとくるもではなかった。私自身がこうした情景に慣れてしまったからだろうか。それとも、インドネシア人の明るさゆえに、悲惨さがかき消されてしまったからだろうか。

ジャカルタのスラム街ツアー
私が今回参加したのは、Jakarta Hidden Tourが主催しているツアー。トリップアドバイザーやロンリー・プラネットなどでも紹介されており、旅行者からの評価は高い。ツアー時間は3時間程度で、参加費用は大人1人あたり60ドル。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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