バリ島でインドネシア人と推しについて語る

先ほど、悪質な客のごとくバリに対して、ひどいレビューをしてしまったので、謝罪したい。バリも思えばそれなりに楽しかったのだ。というわけで、バリ旅行の楽しかった思い出を抽出してハイライトしたいと思う。

バリのファーストインパクト

バリに行くということで、ちょっと浮き足立っていた。スマトラ島のパダンから、バリ島へ。それは、田舎から上京するのと似ている。インドネシアを訪れる観光客のほとんどは、バリを訪れる。そう、インドネシアの観光の中心は、首都ジャカルタではなくバリなのである。

バリの空港に到着。トイレを済ませ手を洗っていると、横には自分の顔ほどの大きさの、立派な太ももがあった。その主は、こんがりと焼けたオーストラリア人と見られる観光客である。

でかい・・・

かつてドバイで味わった、自分は小さなアジア人なのだという、コンプレックスが軽くフラッシュバックした。しかし、そんな生来の姿形をコンプレックスに捉えてしまうほど、私はもう未熟ではないのだ、と思い、不意打ちのジャブでふらついた精神を立て直す。

これがバリかあ・・・

何せスマトラ島ではジャングルにいたせいか、全く外国人観光客を見ていない。かくして、このこんがり焼けた太ももが、バリ旅行のファーストインパクトであった。

空港から市内へ向かっている途中、スクーターの運転手たちが、みなヘルメットを着用していることも驚きであった。何せスマトラ島の田舎からやってきたのだ。田舎では、みなノーヘルだから、これがインドネシアのスタンダードだと思っていた。

やっぱり、バリは違うなあ・・・都会だなあ。洗練されているなあ・・・

車の外を見やると、スクーターに乗っている観光客がいた。注目すべきは、太ももに蓄えたセルライトの量である。

見たこともない膨大なセルライトと、それを惜しみなく公に公開しているというすがすがしさ。

これがバリのセカンドインパクトである。

ワンコパラダイスなバリ

ムスリム人口が多い他の島に比べ、バリはバリヒンドゥー教を信仰している人が多い。その結果何が起きるのか。ワンコの出現である。町中はもちろんのこと、観光客で賑わうレストランにも、普通にワンコがいる。

ウブドのレストランにいたワンコ。可愛らしいパグだが、私のサンダルを強奪し、取り返そうとすると、ウーと唸り声をあげた。よって、ここに晒しておく。

ムスリム界隈であれば、ワンコはなんの理由もなくしばかれることがあるが、ここでは、犬が何をしようとも誰も文句を言わない。狭い歩道を通せんぼしようが、バイクにマーキングしようが、基本的に許容している。そうした放任主義の結果なのだろうか。どう考えても、自分のことを人間だと思っているワンコが発生している。

こうしたバリでは、もはやワンコがアイコンと化していた。その証拠に、土産品にもなっていたし、タトゥーショップでは、タトゥーのデザインとして、ちゃっかり居着いていた。

ワンコの顔ぶれもさまざまで、どう考えても土着ではない洋風の顔をしたワンコもいる。島外から持ち込まれたり、バリ在住のエクスパットが置いていったのだろうか。

一見するとワンコパラダイスのように見えるが、バリでは食用のために捕獲されたり、毒殺されたりと、動物愛護団体が物申しそうな状況があるのも事実である。

観光客が来ないローカルスポット

バリの道路はどこも渋滞がひどい。一方で、セミニャックやチャングーなどの観光スポットに行けば、全く人気がない。いったい、あのジモティーの大群はいったいどこにいるのだ?自然な疑問である。

泊まっている宿の管理人に聞くと、セミニャックの中心地からバイクで20分ほどの場所にある、バドゥングマーケット(Badung Market)を勧められた。

ローカルのかほりがする・・・!

バリの観光地は、まるでディズニーランドのように人工的な観光地のなりをしている。しかし、ここには、ジモティーが行き交い、生活感にあふれる風景が広がっていた。初めてバリで呼吸ができたようなホッとする感覚。


カラフルなバスケットと笑顔が素敵なので写真を撮らせてもらうと、「あらやだ、こんな姿撮らないでよう」と女性は照れた。


どういうわけかマーケットの売り手の多くは女性であった。


カラフルな南国フルーツに埋もれてスヤスヤ眠るおばさん。


眠るおばさんパート2。眠りこける人を見るとなんだかほっこりする。

“観光地”バリだが、ここはインドネシア。外国人は私の他いなかったが、人々の対応はとても気さくで温かかった。マーケットでうろついていると、物売りの婆さんが、「これ買う?」と尋ねてきた。それだけで会話は終わると思いきや、マーケットにいる間、婆さんは自分の持ち場を離れ、背後霊のように私の跡をついてくる。

ひい・・・

と思いきや、「おまえさんは何が欲しいんだ?何?ご飯が食べたい?なら、ここじゃなくて向こうにあるよ」

ただただ、親切な婆さんだった。

推しを語るインドネシア人

セミニャックからウブドへGrabで移動していた時のこと。ちょっとコーヒー飲みたくね?と運ちゃんが突如言い出した。まあ、長距離運転だし、運ちゃんも疲れたのかな?

ということで、カフェで休憩するんだろうなと思い、承諾した。しかし、連れてこられたのは、明らかに観光スポットと思われる場所だった。

運ちゃんに、状況説明を求める前に、ガイドの青年がやってきたかと思いきや、速攻で案内が始まる。

勝手にガイドして、後で料金を請求されるやつかしらん・・・そして運ちゃんは、いくらかキックバックをもらうのでしょう・・・

青年はものすごい強いワキガ臭を発していたが、バリの伝統家屋を丁寧に説明していく。なので、こちらもそんな臭いはないですよ、と済ました顔をして、熱心に説明を聞く観光客を装う。


心安らかに・・・バリの伝統家屋が残る観光スポット

バリにはジャコウネココーヒーというのがありましてね、この猫のフンからコーヒーを作るんですよ。コーヒー豆はこうやってすりつぶしてね・・・

ジャコウネコ
観光客の説明のために、たたき起こされた哀れなジャコウネコ。ちなみに高級なジャコウネコのコーヒーは、スーパーで200グラム7,000円というスーパーの売り物にしては、破格の値段で売られていた。

説明が終わり解放されるかと思いきや、次はテイスティングタイムだという。机に並べられたのは、コーヒーとお茶が合計14種類。

一人でこんなに飲めるかい

これを飲まないと次に進めない雰囲気だったので、ヘルプについたホストになったつもりで一人で飲み干すことにした。私が日本人だとわかると、青年は恥ずかしそうに「OSHI」って知ってる?と言った。

OSHI?

前のOSHIは、AKB48のXXXちゃんでした。

推しか!

AKBだけでなく、「推し」という単語もまた海を超えていたことに、驚いた。インドネシア人の口から、推して・・・

どうやら子供の時にAKBをテレビで見たらしく、それ以来日本のコンテンツにハマっているのだという。しかし、彼の最新の推しは、日本のアイドルではなく、K-POPアイドルだという。推しがいるということで、推し活もこなしている、ということにさらに驚いた。


2人で推し語りをしているうちに、おしゃれなテイスティングではなく、居酒屋の飲んべえ状態になっていた。

これ以上、運ちゃんを待たせるのも悪いと思い、キリの良いところで引き上げたが、最後まで料金を請求されることはなかった。

本当に無料だったんだ・・・

こんなバリバリの観光地で、こんなに飲んでお金取らないとかある・・・?あるのだ。そして、わざわざ旅路の途中で、ここに連れてきてくれた運ちゃんの粋な図いにも感謝である。Grabという現代の商業チックなサービスで、マッチングした乗客と運ちゃんだったが、あたたかい人間の優しさに触れた出会いだった。

再び車はウブドへ向けて走り出した。車のラジオからは、ビートルズのLet it Be。バリの優しさにふれ、危うくバリを好きになりそうになってしまった。