インドネシアの富士山!?スマトラ島最高峰クリンチ山に登る

世界にはまだあまり人が登っていない山がごまんとある。スマトラ島のクリンチ山もその1つだ。富士山よりも標高はやや高く、スマトラ島最高峰なのだが、外国人観光客にはあまり見向きもされていない。

その理由は、アクセスが悪すぎるという単純明快な理由である。最寄りの国際空港があるパダンからは、車で片道8時間。これが一番簡単なアクセス方法なのである。車に乗ってしまったら、時はすでに遅し。もう引き返せない。

明るい田舎

しかし、これが意外と楽しい旅路でもある。延々と田舎風景が続くかと思いきや、インドネシアの田舎は、田舎なようで田舎ではないのである。何せその人口の多さと、平均年齢の若さゆえに、田舎でも平気で若者たちがめちゃくちゃおり、活気に溢れている。

なんだこの田舎・・・

若者が多いだけで、こんなに田舎って活気づくものなのか。それは、先行きが暗い過疎化した田舎ではなく、むしろ明るい田舎なのであった。こんな田舎ならぜひ住みたいものである。


ブキティンギからクリンチへの旅路。高地を走っているので、夏の軽井沢のように涼しく爽やか。


南国らしい景色にひたすら癒される。

インドネシアはイスラームの国なので、ワンコなどいないと思っていたが、実は田舎で暮らす人々は、田畑を荒らす猪対策のためにワンコを飼っているケースが多い。


輸送されている番犬用のワンコ


輸送中のワンコその2


輸送中のワンコその3

退屈しそうな旅路かと思われたが、田舎ならではの珍風景などエンタメ性の高い道のりであった。

インドネシアの富士山

目の前に広がるクリンチ山は、圧倒的でどこかセンチメンタルな気分にさせる。山の裾野には、広大な茶畑が広がっている。ちなみに行きしがらの町では、みかんの栽培が盛んなのか、みかんをぶら下げている民家が多くみられた。


農地に囲まれたクリンチ山。周辺ではお茶だけでなく、唐辛子やコーヒーなども栽培。この村では村民の多くが農業に従事している。


村には公共の交通機関がないので、小学生ぐらいのちびっ子ですらスクーターで移動。もちろんノーヘル。

う〜さ〜ぎ、お〜いし、か〜のや〜ま〜

突如として、脳内で「ふるさと」が勝手に再生される。異国にいるというのに、この妙な既視感。そう、クリンチ山は日本人にとって、どこかほっと落ち着ける故郷のような風景を提供しているのである。

クリンチ側も若干それを意識しているのか、ガイドから渡されたパンフレットを見ると、「私たちは日本の富士山よりも高いのれす!」という、妙に対抗意識を燃やした説明文が書かれていた。

活火山に登るということ

インドネシアの山は、そのほとんどが活火山といってもいいぐらい、その数は多い。クリンチ山も例外ではなく、定期的に噴火が起こっており、直近では2年前に起こっている。

そのほかにも、パダン近くのメラピ山に登ろうと思っていたのだが、登る数ヶ月前に噴火が起こり、半年以上経った今でも近辺の山を含め閉鎖されている。

噴火が起こっていなくても、常時小さな噴火は起こっているようで、クリンチ山にしても早朝ではなく、昼間に登頂できないか?と聞いたら、体によろしくないガスの量が、昼間の時間帯に増えるので、やめた方がいいと言われた。

というわけで、インドネシアの活火山に登る際には、ガイドがいた方が安心である。単に道案内というわけでなく、彼らはそうした噴火情報や起こった時の対策まで心得ているので、いざとなったときに助けを求めることができるのだ。

山で日本の性産業について語る

かくしてクリンチ登山が始まったわけだが。とにかく入山料が高い。1日で150,000ルピー(約1,500円)もチャージされるのである。ちなみに週末だとさらに高くなる。

入山料の高さにビビりながらも、まずはジャングルを分け入って入る。フォーメーションの構成としては、私一人に対し、ガイドとポーターが一人ずつという3名で登る。ポーターさんは、勝俣州和にそっくりで、違うのはその長身のプロポーションと、本人と異なり大変無口であるということである。

彼は、普段は農家をしており、時々ポーターをやっているのだという。ものすごい健脚で、15分ぐらいするとすでに姿が見えなくなってしまった。

よって、私とガイドのリッキーでノロノロと歩いていく。ひとしきり話したあと、

「あのう。嫌だったら答えなくていいんだけど、日本について質問があるんだ」

「おう。なんでもこいや」

「日本のAVって、あれって現実でもあんな感じなのう??」

よくぞ聞いてくれた、という感じである。

そう、日本のAVはもはや日本のカルチャーの一部といっても過言ではない。そう、日本人が考える以上に、世界的にはアニメや漫画にならび、日本の性産業は結構有名なのである。

よって、私は持論を大いに展開した。それに、日本人をやっていると、この手の質問はよくあるのである。「なんで日本のAVにはモザイクがかかっているのか」「日本にはいろんな性サービスがあるというが本当か」などなど。国際交流を図る上で、日本の性産業における基礎知識は、必須と言えよう。

誰もいない山

話がだいぶそれたので、山に戻ろう。平日のせいか、我々以外には登山客はいない。もはや貸切登山なのかと思ってしまうほど、誰もいないので、逆になんだか怖くなる。

ようやく第一登山客を発見したのは、登山を始めてから山の中腹に差し掛かった数時間後のことであった。しかし、それは下山客だった。


ランチ休憩。リッキーから、お茶工場で働いている友人からもらったという地元産の茶葉で作ったお茶をいただいた。クリンチの茶畑で生産しているお茶は、すべて輸出用なのだという。


登山中には、猿やリスなどいろいろな動物との出会いも。

リッキーはインドネシア人にしては、珍しくタバコを吸わない人だった。私はヘビースモーカー(紙タバコではない)なので、吸いながら登れるという東南アジアの山ほど、楽しいものはない。

すでにクリンチ山に登ったという友人から聞いていたが、中盤からの道のりは相当なものだった。ジャングル気質であるせいか、そこかしこに根っこがある上、片足幅しかない道もザラである。


こうした登り道が延々と続く。

それに、登っている登山客の姿を今だに見ていない。もしや、山を登っているのは、我々だけなのではないか。結局、3,350メートル地点にあるキャンプ地に着くまでに、他の登山客に出会うことはなかった。

キャンプで一泊し、夜が明ける前に我々は山頂へと向かった。途中には、この山で行方不明になったという登山客の慰霊碑として、石が積み上げられていた。細かい石に足を取られ、滑りそうになりながら、山頂へ辿り着いた。


山頂で日の出を迎える


山頂から見える山の多さに圧倒される。さすが火山大国である。


クリンチのもう1つのハイキングスポットであるトゥジュ山。トゥジュはインドネシア語で7を意味し、湖を囲うようにして7つの山頂がある。

山頂のすぐ真下は、巨大な蟻地獄のようになっており、下からはもうもうと小さな噴火が起こってい流のか、煙が立ち昇っていた。

頂上から気になるものを発見。あれはなんだ?とリッキーに聞くと、石を積み上げ、会社の名前や個人名を作り、山頂から記念に眺めるために作られたのだという。なんという遊び心だろうか。最後のクライマックスで必死だというのに、わざわざ寄り道をして、石で文字を作るなんて・・・


山頂からキャンプ地に戻り朝食。壮大な景色を見ながら食べる至極のナシゴレン。

インドネシア人流の登山

さっさとキャンプ地から引き上げ、昼過ぎにはジャングル道に戻ってきたのだが、ここでようやく大勢の地元の登山客に出くわすことになった。

昼過ぎだというのに、まだこの地点にいて大丈夫なのか?というぐらい山頂に向かうペースとしてはゆっくりである。登山客の多くは、私よりずいぶん若い世代だった。

日本で登山といえば、年配の人が多くやっているイメージがある。しかし、日本の平均年齢が約50歳なのに対し、ここインドネシアでは30歳。ヤング登山者の方が圧倒的に多いのである。

休憩地点で彼らの様子を見ていると、だいたい6人ぐらいのグループで、キャッキャしながら、おしゃべりをしたり、飯をつついている。頑張って登ろう、みたいな気概は特に見当たらない。

この瞬間、私はハッとした。

こやつら、純粋に山を楽しんでいる・・・

そう。登山といえば、自分との挑戦。いかに山頂まで頑張って登るか、というスポーツ的に捉える人も少なくなくない。私もその一人で、通常であれば2日かけて登るところを、フランスのトレイルランナーが半日で登ったという話を聞き、予定を詰めれば1日で行けるのではないか、と考えていたぐらいである。

そう、インドネシア人の登山は、日本人からするとゆるゆる登山なのかもしれない。しかし、彼らは山にいるその瞬間を楽しんでいるのだ。

私のように、下山がきつすぎて、

「早く終わってくれえ・・・もう山など登るか」

といったように、自分を追い詰めるあまり毒を吐き散らし、登山を修行にしてしまうことなどないのだ。

バリ島のアグン山でも実感するのだが、インドネシアの登山は、山を登る人間にとって、根本的なものを教えてくれたような気がしてならない。

クリンチ山登山について

クリンチ山は1泊2日で登るのが一般的。ただし、最寄りの都市であるパダン、ブキティンギから片道6~8時間かかるので、合計4日ほどかかる。ちなみにパダン空港には、ATMはあるがSIMカードは売っていないので、パダン空港から入国する場合には、事前にeSIMなどを買っておく方がいい。

観光客がほとんど来ないということで、ガイドを探すのにも苦労したが、今回私がお世話になったのが、Wild Sumatraという会社。パダン、ブキティンギからの送迎も手配してくれる。クリンチ付近では、登山の他にコーヒー工場の見学などもできるので、時間に余裕があれば、そちらもおすすめ。