前代未聞。7時間もかかった驚異のパキスタン出国

コロナにより、国によって入国措置が異なるのは、今や常識となりつつある。しかし、パキスタンからUAEへのフライト利用者に対する措置は、もはや新手のイジメとも言えるような措置が課せられいた。

6時間前に空港に召集命令

航空会社のHPを見ると、「パキスタンからUAEへのフライト利用者はフライト時間の6時間前に空港にこいや!」と書かれていた。

は?

としか言いようがない。パキスタンからUAEに行く場合、トランジットも含め48時間以内の陰性証明書に加え、空港で6時間以内に受けた陰性証明がいるというのである。

ネットで探しても、6時間前に空港に行ったとか、空港でPCR検査を受けたという情報は出てこない。

ガセなんじゃないの?

パキスタン人には失礼極まりないが、町中の様子からして人々が大人しく6時間前に空港へ行くとは思えなかった。私が勝手にSMクラブと呼んでいるあのイスラエルの空港でさえ3時間前である。

6時間かあ・・・カラチ空港では無料Wi-Fiが使えない。一応あるが、パキスタンの電話番号を登録しないと利用できない仕組みになっているため、外国人にはWi-Fiがないのと同じである。とはいえ、飛行機に乗り遅れたら元も子もないので、6時間前に行くことにした。

空港に入るまでに4時間

空港に入ろうとすると「あっちでPCR検査を受けてから来な!」と追い返される。この時点では空港に入る資格がないらしい。言われたPCR検査場にやってきたものの、そこにいたのは魑魅魍魎の群衆であった。深夜の時間帯にかけてUAE行きの便が4つもあるらしく、チケットを握りしめた乗客が押し合いへし合いしている。

ひえっ

度々パキスタン人には申し訳ないが、人の多さよりもパキスタン人たちが本当に6時間前にきていることにびびった。人の多さにもはや入場制限がかけられており、コロナうんぬんというよりも、みな空港に入るための紙切れをゲットするのに必死である。

しかもこのPCR検査はタダではなく、5,000ルピー(3,000円)もするのである。検査を終えると、「2時間後に結果を取りに来な!」と言われる。あたりを見渡すと空港外には、通常の空港であればいるはずのない大勢の人々が滞留している。床に布を引いてスーツケースの上でパソコンをカタカタやったり、お祈りをしたり、キッズが走り回ったり。人々は思い思いに過ごしている。

検査を受けるのに2時間、検査待ちに2時間。空港内に入れたのは、空港到着から4時間後のことであった(その間でかいスーツケースをずっと連れ回している)。近くて遠い道のりであった。また、空港内へ入る審査も厳しく、すべての書類を逐一チェックするため空港に入るのも時間がかかる。

空港で緊急事態発生

空港に入って一安心・・・と思いきや、ドキドキハラハラなパキスタン劇場は続く。チェックインカウンターで手続きをしていた時のこと。

うあああああああ

カウンターから出てきたのは、ゴキブリだった。僭越ながら私はゴキブリが苦手である。パキスタンでの目撃情報はかなり多いため、気を張っていた。滞在中は一切見かけることはなかったが、気を抜いた瞬間にこれである。

ゴキブリがこちらへ向かってくる。

思わず声を出してのけぞり、後ずさりする。ゴキブリの方も、「うああああ、出るとこ間違えたあああああ」と言わんばかりに、後ずさりし戻っていった。

私とゴキブリの行動が、見事にシンクロした瞬間だった。

さて次は出国審査である。これはどの国もスタンプを押して、「はい、さいなら」という至極シンプルな所作である。

が!

審査官の美女メーンは、一向にスタンプを押す気配がない。その上パスポートを放置し、隣の審査官と何やら話し込んでいる。その間に隣のレーンでは5人ぐらいが出国を終えているではないか。運悪く私の後ろに並んだ乗客からは、ため息が聞こえる。

美女メーンによる放置プレイ。SMプレイはベングリオン空港だけで十分である。

なんとか出国を終えた。もうドキドキハラハラなアトラクションなどないだろう、と思ったが、私の読みが甘かった。

免税店があるなあ、と思った瞬間、客引きが始まった。私が日本人だとわかると、すぐさま知っている日本語の単語をふりまいてくる。「ヤスイヨ!」「スゴイネ!」。

通常「日本人?」と聞かれたら、私はカザフスタン人と答えるようにしている。すると相手は「ひえっ?」とひるむのである。こちらとしても、ブラジル人やフランス人というよりかは、日本人と顔がよく似ているカザフスタン人の皮をかぶることで、相手を騙しているという後ろめたさから解放されるのである。

しかし、予期せぬアトラクション続きで、つい真面目に答えてしまったがこれである。

どんなに買う気がなくとも「いらねい!買わねい!」と、はっきり言えない性分である。故に私が編み出したのは、めちゃくちゃ安い値段をつきつける、という術である。

これにより、自分は買う気なんだけれどもね、という態度を見せつつも、法外な値段提示により売買の交渉が決裂するため、相手側のやる気を消沈させることができるのである。あわよくば、店主はさっさと店から出ていって欲しい空気すら醸し出すだろう。

度重なる味わい深い空港アトラクションのおかげで、フライトが1時間遅延したことなど、何も感じなくなっていた。むしろ、「やはりな」という想定の範囲ですらある。短期間でありながらも、パキスタン滞在により、受け流しの能力が高まった気もしなくはない。パキスタンは人間を成長させる。

飛行機搭乗まで3時間待ち

あとはひたすら搭乗まで3時間、待つだけである。もう、アトラクションはないだろう。そう思った。丑三つ時だというのに、1時間ぐらい電話でひたすら喋り続ける隣の客など、もはやどうでもよい。各所でいびきをかきながら寝る野郎たちも、ひたすら受け流そう。

後は心を無にして、飛行機に乗るだけである。それだけでいい。

搭乗開始。

後は乗るだけ。後は乗るだけ。後は乗るだけ。

しかし気づいてしまった。世にも奇妙な光景に。これは受け流せない。搭乗手続きのため70人ぐらい並ぶ客の列。1度目は何気なく見やる。もしやと思い2度見やる。まさかと思い3度見やる。本当に?と思い4度見やる。ガチじゃないか、と5度見やる。

ナニコレ珍百景のBGMが頭に流れ始める。

そこにいたのは、自分以外に並ぶ乗客が全員メンズという珍風景であった。

丑三つ時の珍景。

パキスタンでは予期せぬことが起こる。何が起こってもいいよう心の準備をしとけ。ガイドブックに書かれていた言葉だ。

パキスタンを発つその瞬間まで、それは本当だった。

謎の機内サービス

利用したのはエア・アラビアというUAEの航空会社である。機内では、特定の客にだけ機内食を配るという特殊なサービスを提供していた。オンラインで予約した客にだけ機内食がつくのだという。

このご時世ネット予約が当たり前だと思っていたが、機内を見る限り機内食にありついていたのは、数える程度しかいなかった。しかし、機内食が配られる客も、「○○さあん?」と乗務員より名前がさらされることになる。このサービスなんとかならんかね。

飛行時間はたったの2時間。一方で出国にかかった時間は7時間であった。眠さで思考停止していたが、UAEに到着した瞬間、ようやく思い出した。

なぜ同じ時間帯にUAEへの便が4つもあったのか。なぜ乗客の99%がメンズだったのか。彼らはみなUAEへの出稼ぎ労働者だったのだ。機内の空気は、通常の旅客機とは違った。出稼ぎ労働者が大半を占める機内は、現代の蟹工船みたいな空気になる。出稼ぎ大国のフィリピンUAE間のフライトもそうだった。

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シャルジャ空港には人があふれていた。先ほどのパキスタン人乗客らが、長い行列を作り再び空港に入るために荷物検査を受けている。これも他の空港ではまず見ない光景。ちょっとやりすぎやしないか。

ドバイ万博中ともあって、UAEは基本的には多くの観光客が気軽に入れるような措置をとっている。一方で、こうした出稼ぎ国からの乗客には、6時間前の空港PCR検査など、もはやUAEに行く気が失せるような措置を設定している。果たしてそれは、純粋なコロナ対策のためだったのだろうか。

もちろん彼らの住環境を考えれば、クラスターが発生しやすいからという理由なのかもしれない。しかしコロナ対策のためだったとはいえ、ちょっとやりすぎなような気もした。出稼ぎ国の人間だから、これぐらいやったって構わないだろう、という意図すら見えかねない。非人道的という言葉が、のどからでかかった。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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