数ヶ月ぶりに再びやってきたパキスタン。パキスタン入国はすでに以前やったので、もはや目新しいものはないかと思っていたが、やはりここはパキスタン。入国からすでにツッコミポイント満載な場所なので、書き留めておかずはいられない。
通常、入国審査を行う場所は、自国者レーンと外国パスポートレーンの2タイプに分かれている。しかし、パキスタンは一味違う。パキスタンは中国とマブダチなので、入国審査レーンには、中国パスポート専用のレーンがある。
中国パスポート保持者は、専用のレーンでさっさと入国審査を済ませてしまう。それを外国パスポートレーンに並ぶ人々は恨めしそうに見やるのである。入国審査はやたらと時間がかかり、30分ほど待つことになった。私が終わる頃には、あんなにいた人は完全に消え去っていた。私の前には、韓国のビジネスマン4人組がいた。中国への圧倒的なVIP待遇を前に、日韓はただあっけにとられるだけだった。
ちなみにカラチ空港の場合だと、プリントアウトしたビザに、承認スタンプを押してもらわなければならない。これは中国専用レーンにて行われる。その後、外国パスポートレーンに並ぶ。入国には、このひと手間が必要なのだ。
待っている間、暇なので頭上の方に張り付いているモニター画面を見やる。通常、空港で出回っている動画というのは、その国のいいところをアピールする動画である。要は観光客向けのPR動画だ。
しかし、目の前の画面に映し出されていたのは、どう見ても18禁の暴力的な映像であった。遺体や血まみれの市民が映っている。なにやらカシミールをめぐる市民運動VS軍隊をとらえたドキュメンタリー映像らしく、やたらと市民が軍隊にしばかれているのである。
一体どんな国が、入国審査で自国民がしばかれている映像を流すのだろうか。
南無。
ありがたいことに空港には、エアビーのホストが迎えに来てくれていた。一般的な空港の出迎えスタイルは、ゲストの名前が書かれた紙を持って出迎えるというものである。
しかしホストは事前に、「車椅子に乗っている母親を連れて行くから、それが目印な☆」というのである。
ひえっ
車椅子の母親つきで登場するとは、一体・・・
入国審査に時間がかかって大変でしたよ〜と世間話をかますと、「まだまだパキスタンの序盤だよ」と、ホストはニヤッと言った。
カラチ空港
のちに話を聞くと、先の理由が判明した。70歳近くと見られる初老のホストは、ルーマニア人女性と結婚しておりルーマニアに住んでいたが、母親を介護するためパキスタンで暮らしているのだという。93歳だという母親には、24時間つきっきりでなくてはならないという。
入国から15分も経たずに、老老介護という手に余る問題を突きつけられた。
家に着くと、「魚料理を作っておいたよ☆」とホストが立派な魚料理を披露してくれた。
「カラチは魚が有名だからね。日本人が好きなマグロもたくさんあるけど、カラチの人々は食べないから値段が安いんだ」という。
一旦ホストと別れて、次の所用に取り掛からねばならなかった。学校のクラスメイトが家にやってくるのである。
彼女は心配性なのか、やたらと私の動向を心配してくれた。エアビーのホストが空港に迎えにくるというと、「エアビーのホストには気をつけたほうがええで」という。彼女に限らず、パキスタン人のクラスメイトたちには、エアビーは危険なものという意識が共有されていた。欧米や日本であれば、諸手を挙げて安全だと信じこめるサービスが、ここパキスタンともなると事情が変わるらしい。
分からなくもない。ウーバーに関しても、同じところがあった。世界共通のサービスなのに、なぜかパキスタンエッセンスが加わった、やや違うものになっているのである。名前はウーバーだが、サービスはウーベーなのである。
「空港に着いたら、Wi-Fiがないだろうから、ホストの電話から電話してや。あと住所も教えて。後で様子見に来るから」という。というわけで、私はホストの個人情報を彼女に横流しする羽目になった。
すでに前回の渡航で、パキスタン人のホスピタリティは異常に高いということを学んだ。彼女のスタイルは、果たしてホスピタリティの高さゆえなのか、単純にそういう人なのか、というのは計りかねている。
付け加えると、彼女とは私はそれほど付き合いが長く、深いわけでもない。我々は単なるクラスメイトである。日本であれば、天気の話でもして立ち去る仲なのだ。しかし、パキスタンを訪れる外国人=ゲストという後光が、ジモティーたちをホスピタリティの鬼にさせてしまうきらいがあるようだ。
家で一息つく間も無く、彼女とその姉がやってきた。家で大量に作ったというビリヤニと、カラチ名物ベーカーリー店「ユニオン・ベーカリー」の品を携えて。
「家賃いくらなの?」などひとしきり世間話を済ますと、彼女たちは去っていた。机には、カラチ名物の魚料理とビリヤニ、ベカーリーが残された。初日には十分すぎるご馳走だった。