私は根っからのインドア派で、アウトドアとは全く縁もゆかりもない生活を送っていた。それがどっこい。思いつきで2週間後にキリマンジャロに登ることになった。これが人生初の本格的な登山となる。
初めての登山。しかも、国外のタンザニア。登山という未知の世界。不安だらけだった。必死にネットの情報をかき集めて準備したのを覚えている。
そんなわけで、キリマンジャロ登山を考えている人(特に初心者)に向けて、キリマンジャロ登山を前に知りたかった項目をまとめてみた。
キリマンジャロってどんな山?
キリマンジャロ登山を決めた時、私のキリマンジャロに対する知識はコーヒーだけだった。しかし、この山について知っておくべきことは多くある。
何よりキリマンジャロ山が有名なのは、アフリカ大陸最高峰だからである。標高は5,895メートル。頂上付近には、氷河が残っている。ヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』という題名にもなったほどだ。
ヘミングウェイは、作家という顔の他に、アフリカで野生動物をハンティングするという狩猟の趣味も持っていた。今でいう、トロフィーハンティングというやつだろう。先の小説に書かれているのも、アフリカへ狩猟旅行へやってくる人々の話だ。
命の価格リストに衝撃。娯楽の狩猟「トロフィーハンティング」の世界
キリマンジャロは単なる木が生い茂る山かと思っていたが、熱帯雨林や火星のような岩山が続く荒地、高山砂漠、北極圏といったように異なる景色を見せる。ジャイアントセネシオのようにキリマンジャロにしか自制しない不思議な形をした植物もある。
下記は、キリマンジャロの様々な自然を紹介した動画。これを見ると、キリマンジャロという山のイメージが明確になる。
登るだけでなく、サイクリングで登頂したり、クレーターでキャンプ、パラグライダーなど様々な観光アクティビティが用意されている。
登山経験がない初心者でも大丈夫?
キリマンジャロ山は、高度な登山技術を必要とせず、初心者がチャレンジ(≠登頂できる)しやすい山だと言われている。実際、登山経験ゼロの私も登頂できた。
私の感覚だと、登山というよりもハイキングに近い。5キロほどの登山リュックを背負って、ひたすら歩く感じである。体調や体力にもよるので、一概には言えないが、初心者でも十分登頂はできると言えよう。
登山のシーズンは?
キリマンジャロの登山ベストシーズンは乾季である7~10月、1、2月である。6月や12月も登れなくはないが、雨季がちょうど終わったシーズンなので、山のコンディションはそれほどよろしくない。
私は雨季である3月に登ったが、登れないことはない。けれども、正直雨が降る中での登山は大変。景色も見通しが良いわけではないし、雨が降ると足元も悪く、寒くなる。ただ、人が少ないという利点はある。シーズン中は、人気ルートは大名行列のように行列ができることもしばしばだ。
4、5月は雨季で完全に山がクローズする。
キリマンジャロの登山シーズンは?
月 | 気温 | 降水量 | 混雑具合 |
1月 | 暖かい | やや降る | かなり混雑 |
2月 | 暖かい | やや降る | かなり混雑 |
3月 | 快適 | かなり降る | 空いている |
4月 | 快適 | かなり降る | 空いている |
5月 | 快適 | かなり降る | 空いている |
6月 | 涼しい | やや降る | やや混雑 |
7月 | 涼しい | やや降る | かなり混雑 |
8月 | 涼しい | ほぼ降らない | かなり混雑 |
9月 | 快適 | ほぼ降らない | かなり混雑 |
10月 | 快適 | ほぼ降らない | やや混雑 |
11月 | 快適 | かなり降る | 空いている |
12月 | 快適 | やや降る | やや混雑 |
* 黄色のハイライト=快適に登れる登山シーズン
*薄い黄色のハイライト=登れるが雨季終わりなので、コンディションはよろしくない
* Ultimate Kilimanjaroの表を元に作成
観光ビザとイエローカード
タンザニアの観光ビザは、空港でアライバルビザが取得可能。観光ビザの料金は50ドル。ビザは3ヶ月有効。
タンザニアへ入国する場合、黄熱病予防注射の証明書であるイエローカードの提示が必要になる。黄熱病の発生率が低い国(日本も含まれる)から直接入国する場合は、提示の必要はない。
私はソマリアから訪れたのでイエローカードを持って行った。しかし、ザンジバルでもキリマンジャロ山麓の町にあるモシ空港でも、イエローカードはノールックであった。
タンザニアはマラリア感染のリスクもある。キリマンジャロは高地なので蚊はいないが、ザンジバルやダルエスサラームに行く場合は、マラリア予防薬のタブレットを持って行くのもありだろう。
またタンザニアは、ビニール袋の持ち込みが一切禁止されている。見つかった場合は、罰金もあるので要注意。ジップロックはOK。とはいえ、こちらもノーチェックであった。
どのツアー会社を選ぶ?
キリマンジャロ山は単独で登ることはできない。必ずツアーを申し込み、ガイドやポーターと共に登らなければいけない。
ツアー会社やガイドの質は、登頂の成否にも関わるので慎重に選びたい。下手したら命にも関わる山という場所だ。費用をケチって山で嫌な思いをするのも避けたいところである。
また一緒に登るポーターたちの仕事はかなり過酷なものである。中にはブラック企業並の労働環境でポーターたちを働かせているツアー会社もある。
よって、KPAP(キリマンジャロポーターズ・アソシエーション・プロジェクト)やKITAO(キリマンジャロツアー協会)といったキリマンジャロのNPO団体が出している、ホワイトツアー会社一覧に載っている会社かどうかも、選ぶポイントとして押さえておきたい。
私の場合は、値段よりも質重視で行きたかったので、とりあえずトリップアドバイザーで評価が高い上位5位ぐらいのツアー会社に連絡を取った。実際に登った登山客の口コミほど心強いものはない。
ツアー会社は、決まった日時で登山ツアーを組んでいるが、サイトに掲載していない日時でも対応してくれる。上位のツアー会社に連絡を取ったせいかもしれないが、返信は自動返信メール並みに早かった。希望の日時を連絡すると、ルートの詳細やツアー費用など登山に必要な情報が一気に送られてくる。
以下は私が連絡を取ったツアー会社。どれも素早い対応で、登山客の評価も高いツアー会社だ。
トップ・クライマーズ・エクスペディション (Top Climbers Expedition )
そのほかのツアー会社やレビューはトリップアドバイザーでチェックできる。
私が選んだのは「トップ・クライマーズ・エクスペディション」という会社。キリマンジャロ登山ツアーでは、一番評価が高かった会社だ。他の会社も同様に良さげだったが、登りたいルートと日数が合致したのでこちらの会社を選んだ。
他のツアー会社を利用したわけではないので比較はできないが、トップクライマーズに関しては、不満は1つもなく、満足感しかないというのが、私の意見である。
もしオプションでサファリツアーなどを考えている場合は、他のツアーの充実度もチェックしておくといいだろう。キリマンジャロツアーと合わせて予約することで、割引も期待できるからだ。この辺は会社によってかなりバラツキがある。
日本人登山客のブログを見ていると「キリクライマーズ」というツアー会社がよく出てくる。一応調べたが、日本人登山客も含めて「ここはやめた方がいい!」というレビューがとにかく多かったので見送った。
どのルートを選ぶべき?
次に考えるのが、ルートと日程。キリマンジャロには5つほどのルートがある。
マチャメルート
キリマンジャロでもっとも人気のルート。別名はウィスキールート。6~7日ほどで登れ、アップダウンがあるので高地順応にも最適。キリマンジャロの5つの異なる景色を楽しめるのも特徴。
マラングルート
キリマンジャロではもっとも古く、整備されたルート。別名コカコーラルートとも呼ばれている。宿泊はテントではなく、山小屋になる。最短5日から登れるので、なるべく費用をおさえて登りたい登山客にも人気(日数が長くなるほど、ツアー料金も高くなる)。
マラングルートは、キリマンジャロで唯一登りと下りのルートが同じなので、道がかなり混雑する。また、5日で登る場合、高地に順応する期間が短く、登頂率は50%以下だと言われている。登るとしたら6日の方がいい。
レモショルート
西側から登るルートで、キリマンジャロの中では比較的新しいルート。景色も美しく、高地に順応する時間も十分取れる。6日で登れるが、8日で登るのが理想。登頂率が高いのも特徴。
ロンガイルート
ケニアとの国境に近い北部から登る唯一のルート。キリマンジャロのいろんな景色が楽しめるという訳ではないが、人が少ないルートを登りたい人や雨季に登る(北部だと雨季でも雨が少ない)人に選ばれている。
ノーザン・サーキットルート
最短で9日からの日程で、もっとも歩く距離が長いルート。途中まではレモショルートと同じで西側から登り始めるが、頂上へ行く際には、北部からぐるりと回ってウフルピークへ行く。
このルートを辿るのはノーザン・サーキットのみであり、距離も最長なので登山客は少なく、ルートは空いている。高地順応に十分な時間がかけられることから、もっとも登頂率が高いルートの1つ。
ウンブウェルート
キリマンジャロの中では、もっとも険しいルートで難しいルートと言われている。ゆえに、ルートは比較的空いているが、それでも急勾配を登っていくので、高地順応のための時間がほとんど取れず、登頂率も低い。
といわれても、私のような登山経験がない人間にとって、何を基準に選べばいいかは全くわからない。
とりあえず長い物には巻かれろ精神で行くのならば、人気度で選ぶのもありだろう。登山客にもっとも人気なのが「マチャメルート」、ついで「マラングルート」である。キリマンジャロツアーを扱う日本の旅行代理店や、日本人登山客のブログを見ると、だいたいいずれかのルートが選ばれている。
キリマンジャロの登山客 ルート別の割合
マチャメルート: 45%
マラングルート: 40%
レモショルート: 8%
ロンガイルート: 5%
シラルート: 1%
ノーザン・サーキットルート: 1%以下
ウンブウェルート:1%以下
ただ人気のルートの難点は、ハイシーズンだとかなり道が混んでいたり、日数が短いゆえに登頂率が低いこともある。私がルートを選ぶ際の基準にしたのが、登頂率である。
せっかく登るのだったら、登頂したいというのが人情である。人気だったり、初心者が登りやすいルートだからといって、登頂率が高いという訳ではない。
むしろ逆のケースもある。体調やシーズン、ガイドなどによって登頂率は変わるので一概には言えないが、基本的には期間が長いほど登頂率も高くなる。高地に順応するための時間が十分に取れるからだ。また、日数が長いと1日で登る距離も短くて済む。
私が選んだのはレモショルートである。雨季だったので、景色は素晴らしいとは言い難かったが、それでも人は少なかったし、登頂もできたのでよかったと思う。
というわけで、以下のような点も考慮して選びたい。
ルート | 最短日数 | 理想の日数 | 眺望 | 難易度 | 混雑度 |
マチャメルート | 6 | 7 | 素晴らしい | 難しい | 混んでいる |
マラングルート | 5 | 6 | 良い | 普通 | 混んでいる |
レモショルート | 6 | 8 | 素晴らしい | 難しい | やや混んでいる |
ロンガイルート | 6 | 7 | かなり良い | 普通 | やや空いている |
ノーザンサーキット | 9 | 9 | 素晴らしい | 難しい | 空いている |
ウンブウェルート | 5 | 7 | 素晴らしい | 鬼ムズ | 空いている |
*上記の表はUltimate Kilimanjaroの表を元に作成
最寄りの町は?
キリマンジャロ登山の最寄りの町となるのが、モシもしくはアルーシャである。モシは規模も小さく、こじんまりとした町である。ダルエスサラームやザンジバルとは違ったのんびりとした雰囲気である。
モシの中心地から少し離れたところ。キリマンジャロ山が見える。街中はゴミが少なく、緑が多い。
一方でアルーシャは人口40万人以上が住む大都市。大都会ゆえにホテルなども充実している。街から5キロほど離れた北部には、タンザニアで2番目に高いメルー山がある。
空路でキリマンジャロにくる場合、観光客が利用するのがキリマンジャロ空港である。アルーシャとモシのちょうど中間地点にある。空港から各街へは車でおよそ1時間ほどの距離だ。アルーシャとモシは80キロほど離れている。
アルーシャとモシはケニアの国境にも近いので、陸路のバスで移動することも可能。
キリマンジャロ登山にかかる費用は?
ルートや日数によって変わるが、登山ツアーの料金は1人あたり1,400~2,000ドルが相場。うち約半分がキリマンジャロ国立公園の入山料へと消える。
キリマンジャロ国立公園入山料
レスキュー代:20ドル
入山料(登山客):70ドル / 1日
入山料(ガイド&ポーター):約2ドル / 1日
キャンプ代:50ドル / 1日 (マラングルートの場合は1日60ドル)
これに18%のVAT(消費税みたいなもん)が加算される。
例えば5泊6日マチャメルートの日程だと、以下のようになる
マチャメルート(5泊6日)でかかる入山料の例
レスキュー代 : 20ドル
入山料:420ドル ( 70ドル × 6日分)
入山料:48ドル ( 8ドル × 6日分。ポーター4人分を支払った場合)
キャンプ代:250ドル (50ドル × 5日分)
VAT 18% :132ドル
合計 :870ドル
さらに、ポーターやガイドたちへの基本的な給料が1日80ドル~150ドル、食費が1日10~20ドル(スッタフ分も含めて)などがかかる。
会社によっても異なるが、私が利用したトップクライマーズのツアー料金には以下のものが含まれていた。
・入山料
・登山前後のモシでのホテル宿泊費(2泊分)
・空港までの送迎
・ポーターやガイドの給料
・登山中の食事
・テントとマットレスなど登山用具
といったように、基本的に山でのキャンプ生活で必要なものが含まれている。
チップや登山道具のレンタル料は別だ。登山道具はだいたい200ドルあれば、何も持っていなくても登山に必要な道具がフルでそろう。チップは後述する。
以下は私が実際に使った費用である。
キリマンジャロ登山でかかった費用
登山ツアー料金(6泊7日):1,900ドル
登山道具一式レンタル:200ドル
ポータブルトイレレンタル:25ドル
チップ:350ドル
合計:2,475ドル
支払いはすべて米ドルで、事前に30%、残りを現地で支払うシステム。モシでクレジットカードを使うと、5%の手数料がかかるので、現金で支払った方がよい。
またタンザニアのATMは、引き出し額のマックスが400,000シリング(約1.8万円)な上、引き出し手数料が毎回400~700円ぐらいかかる。よって、キリマンジャロ登山をする場合は、十分な現金をドルで持ち込むべし。
登山道具を持ってない!
キリマンジャロは、極端に言えば着の身着のままやってきても、登ることはできる。登山に必要な道具はすべてレンタルが可能だからだ。私はサングラスや帽子、防寒具、登山リュック、登山靴まで、何から何まで持っていなかったので、すべて借りた。
ただレンタル用品なので、チャックが壊れていたり、必ずしも質がいい登山ブランドのものとは限らない。借りる前にチェックしておいた方がよいだろう。あえていうならば、登山リュックや登山靴、サングラスぐらいは、登山以外でも使えるし、体のフィット性が問われるので買っても悪くないかなと思った。
持ち物・服装は?
下記に詳細をまとめたので、こちらをチェック。
[kanren id=”14260″]
高山病の薬は持っていくべき?
高山病の症状や程度は人によって異なるが、吐き気、頭痛、めまい、眠気といった症状が現れる。
高山病対策の薬としては、ダイアモックス(医師の処方が必要)がある。しかし、ダイアモックスを飲んだからといって症状が出ないわけではない。あくまで症状を和らげる程度だ。
可能なら、持っていくことをおすすめする。やはり高山病の症状は少ないに越したことはない。
初めは「ダイアモックスなしでもいけるっしょ♪」と思っていたが、吐き気、頭痛、めまいのトリプルアタックに負けて、同行していたメンバーに泣きつき、ダイアモックスを分けてもらった。
ダイアモックスの副作用としては、頻繁にトイレに行きたくなる。が、高山病を患いながら山を登ることを考えたら、断然マシであった。
高山病の対策はどうする?
初めてのマトモな登山ということもあってか、高山病が一体どういうものなのか。高山病にかかったらどうしようなどと、登山前は高山病の恐怖におののいていた。
よく言われるのは、登山前日や登山中にお酒を飲まないということ。山麓の町モシでは、キリマンジャロビールやワインがわんさか売っているので、誘惑に負けないようにしなければならない。
登山中は、ガイドの指示に従ってゆっくり歩き、水をこまめに飲む。目安として1日2~3リットル飲む。これだけでも高山病対策になる。
チップの相場は?
チップは、キリマンジャロ登山をするにおいて重要なトピックなので、別記事にまとめた。
キリマンジャロ登山のチップの相場は?なぜ払う?知っておきたいチップの考え方
初心者が登る際の準備は?
初心者でもチャレンジできる山とは言え、何もしないより、準備ぐらいはした方はいい。体力があった方が、登山もずっと楽になると思う。
私がツアー会社に事前に言われたのは、5キロぐらいは走れる体力があった方がいいとのことであった。
私はその頃ハーフマラソンぐらいの距離を走っていたので、キリマンジャロ登山は体力的にはそれほど辛いものではなかった。
理想は事前に富士山やそれなりの山に登ってみることだろう。それが無理ならば、5キロほどのリックを背負って坂道や丘を歩くだけでも練習になると思う。
私はリュックすら持っていなかったので、とりあえずスーパーのエコバッグに、カメラだとかペットボトルを入れ、それを背負いジムのウォーキングマシンで1時間ほど歩いていた。はたから見れば、登山には程遠い格好だが、登山という感覚を掴むにはアリだったと思う。
キリマンジャロ登山前に情報を集めていて思ったのは、ツアー会社やサイトによって、言っていることが結構違うなあということだ。
情報は多いに越したことはない
例えばマラングやマチャメルートをオススメする会社がある一方で、登頂率が高いレモショやノーザン・サーキットルートを推す会社もある。
シーズンや日程、ルートによってもキリマンジャロ登山の経験は異なるので、なるべく多くのサイトをみて情報収拾につとめたい。