失敗例や死亡事故から学ぶキリマンジャロ登山。ガイド歴15年ベテランガイドに聞く

キリマンジャロ登頂の翌日。全員が無事に登頂できたという安堵感がグループを包んだ。

登頂までの緊張から一気に解放されたせいか、我々は登頂前には決して聞けなかった、あんなことやこんなことを下山中、ガイドのチョンガに投げかけていた。

「登頂に失敗する人ってこれまでいたの?」
「キリマンジャロ山で人が亡くなるケースは本当にあるの?」

みんなで無事に登頂できた後だから、聞けるのだ。登頂前にはできれば考えたくないトピックである。それに誰か1人でも登頂できなかったら、下山はお通夜の雰囲気である。

しかし登頂した身分になったからこそ、他人事として失敗したケースを軽々しく聞けるのである。

そんなガイド歴15年のチョンガに聞いた話を紹介しよう。

失敗する人には共通点があった?

まずはチョンガが話してくれた、これまでに登頂できなかった人々の事例を見てみよう。彼らには、意外な共通点があるのだ。

自信家なマッチョメン

とにかく自分の筋力をアピールしたい野郎。登山中もガイドの助言を聞かず、ドヤ顔で規定以上の荷物を持ち筋力アピール。最終的に体力がつき、グループ内でマッチョメンだけが登頂できなかった。

山でもジェントルマン

地上でジェントルマンぶるのは美しい。けれども、山でのレディーファーストは禁物だ。夫婦やカップルでやってきて、男性側が女性の荷物を持ってあげるというレディーファーストぶりを見せたところ、最終的に男性は力尽きてしまい、登頂どころではなくなってしまった。

このパターンはよくあるらしく、女性だけ登頂するか、女性もあきらめて共に下山するというパターンになるらしい。

やる気満々のグループリーダー

20人ほどの登山グループをまとめるリーダーとしてやってきたが、最終的に自分だけ登頂できずに、他のメンバーは登頂できたという。

リーダーは自分が正しいと思い込み、最後までガイドの指示を聞かなかったのが要因だと思われる。そもそもキリマンジャロをよく知る現地ガイドを差し置いて、グループリーダーという役職は必要なのだろうか。

山を知らないドクター

ヨーロッパからの登山グループに同行していたのが、本国から派遣されたドクターである。ヨーロッパのツアー会社が念のために同行を依頼していたらしい。

ところが、ドクターは医学に長けていても、山登りができるとは限らない。ドクター自身が病気になって登頂できなかったケースも。その後、ツアー会社は本国からのドクター派遣をやめ、現地ガイドに任せるようになったのだとか。

写真撮りまくるマン

アフリカ大陸最高峰キリマンジャロに登っているのだから、写真は誰もが撮りたくなる。けれども、度が過ぎると元も子もなくなる。ガイドの注意を聞かずに、事あるごとに立ち止まり、写真を撮りまくってペースを乱し、登頂に失敗したという。

お気づきだろうか。失敗した例のほとんどが、男性なのである。チョンガいわく、男性は女性に比べると自信家が多いのだという。こうした自信や過信が、山を知るガイドの言葉に耳を塞ぎ、失敗してしまうというパターンである。

逆に言えば、ガイドの言うことをきちんと聞いていれば、失敗は未然に防げると言うことだ。もちろんガイドであれば誰でも言い訳ではない。次で紹介するように、中には登山客の安全を考えていないガイドもいる。だからこそ、ガイドの質に関わるツアー会社選びは重要なのだ。

山での悲しい事故

ムウェカキャンプについた時、チョンガは神妙な面持ちで、事件の話を始めた。我々が立っている、まさしくこの場で起きた事件である。

それは登頂に成功し、下山中の親子に起きた話だった。キャンプ地にたどり着いたものの、父親の具合がおかしい。しかし、ガイドはとりあえずキャンプ地で1泊して様子をみると言う判断を下した。父親の容体が急変したのは、その夜だった。翌朝には、父親は帰らぬ人となり、娘だけが残された。

チョンガの担当した登山客ではなかったが、彼はその様子を目の当たりにしたのだと言う。

そのほかにも、登頂付近で具合が悪いポーターに出くわし、チョンガは即刻の下山をすすめたが、ポーターに同行するガイドが「あと、ちょっとだから」と無理をさせたが最後。数時間後にそのポーターは亡くなってしまった。

このように登頂した後でも、容体が急変し、死につながることもあるのだ。こうした体調の見極めは、ガイドに委ねられる。

信頼できるガイドであれば、登頂できないと判断され、下山を促される。この判断は登山客の誰もが正確に行えるものではない。特に何が何でも登頂したいと思っている登山客は、ちょっと体調が悪くても無理して進もうとするだろう。

実際にそうした登山客をガイドしていたチョンガは、「登頂はあきらめた方がいい」と頂上を前にして伝えたのだと言う。登頂できなかった登山客は、その判断にひどく不満を抱いたらしいが、下山する時になって体調が悪化し、チョンガの助言に感謝したのだと言う。

体調が悪くてもとりあえず登頂させて、チップをもらおうとする悪質ガイドも中にはいるといるのだ。

キリマンジャロ登頂に大事なものは

キリマンジャロ登頂の成功要因を決めるのもは一体何なのか。チョンガいわく、以下の順番に重要なのだと言う。

1. ガイド
2. ツアー会社
3. 登山のシーズン
4. ルート

そして、ガイドの良し悪しを決めるのは、適切な登山のペースで進めているか(無理やり早く歩かせない)、水を飲むタイミングを適切に登山客に指示できているか、登山客の体調などを気遣うカスタマーケアの精神だと言う。

我々、登山客というのはイケると思ったら、ついつい早いペースで歩いてしまう。けれども、それを「ポレポレ(スワヒリ語でゆっくりという意味)やで」と制するのがガイドである。

そして、高山病対策のためにも、こまめに水を飲むことが欠かせない。高山地帯は思った以上に乾燥しており、感覚としては汗をかいてなくても、体内から多くの水分が奪われる。

当たり前のように、ガイドに言われてやってきたことが、実はとても大事なことだったのだと実感する。逆に、これらを無視すればキリマンジャロ登頂は危うくなるのである。

高山病になったから失敗した、というよりも山で適切な判断を下すガイドの指示を聞かなかったというような明確な人的ミスが、キリマンジャロでは悲劇を招くらしい。

最後に、チョンガはこんな話もしてくれた。12年ほど前、登頂後の下山中に、とある中国人が行方不明になったのだという。大規模な捜索が行われたにも関わらず、彼の行方はいまだ人知れずである。

ガイドもいて、それなりの登山客もいて、明確な道なりがあるのに、何をどうやったら行方不明なれるのか。神隠しの類だとは思いたくないが、それでも山の不気味さを感じずにはいられない。

この話を聞いた後に、手に取ってみたのが「山怪談」というマンガ。伊藤潤二の漫画が載っていたので買ったのだが、やっぱり山って不気味なところなんだなと実感。これを読んで一人で山に登ったり、キャンプするのはやめようと決心した。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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