ドバイでUAE料理を食べるべきなのか?

ドバイに来るからは、現地の料理を食べてみたい!と思う人もいるかもしれない。

どうしてもこの地に住んでいる人々の衣食住なりを知りたいんです!という人であればぜひ一度は食べていただきたい。けれども、「美味しい異国の料理」を期待しているという人にとっては、あえて食べる必要はないだろう。

それはちょっとひどすぎやしないかって?

「UAE料理」とはどんなもの?

あれこれ語る前に百聞は一見にしかず。とりあえず、ドバイで「UAE料理」と自称されているものがどんなものなのかを見ていただきたい。こちらは「UAE料理レストラン」で有名な「アル・ファナル」での朝食の光景だ。

お気づきだろうか。

美味しそうに見えるが、そのほとんどが茶色系統で統一されているのである。思春期の頃、母親が作ってくれた弁当が茶色一色で辱めを受けた人もいるかもしれない。茶色一色でも美味しいのだが、友達の弁当がカラフルだとお披露目するのがちょっと恥ずかしいのだ。

しかし自称「UAE料理」にはそんな恥じらいなど微塵もない。むしろ茶色一色こそが我々のオリジナリティなのだと言わんばかりである。

ふっくらとしたエミラティパンケーキこと「チェバブ」は、色味こそかけるものの、デーツシロップが入っていてコクがあり優しい味だ。パンケーキよりも個人的には好きな味である。

「ラカイマット」は、朝食というよりもちょっとしたおやつにちょうどいい。デーツシロップがかかった揚げドーナッツで、アラブ版のミスドのドーナッツポップである。一口サイズなので、ついつい食べ過ぎてしまう。

ランチやディナーでは、焼き飯に焼いた羊肉や揚げた魚をまるごとのせたビリヤニ料理が一般的だ。その豪快な味といい、量といい、かつての砂漠での大家族の暮らしを思い起こさせる手がかりとなる。


UAE人の同僚がUAE国旗記念日にちなみ、社員全員分のビリヤニを持ってきてくれた時の図

個人的には美味しいと思うのだが、旨味を感じる繊細な舌の持ち主が多い日本人にとっては、いささか大雑把な味で構成されているのがUAE料理なんじゃないかと思う。極端に言えば、日本料理で10の味を感じるとしたら、UAE料理には3つの味しかない。味が単調なのだ。それに、野菜がほとんどなく米や肉が中心なので、かなりずっしりとくる。

だから、家族や友人がきた場合にはよほどのことがない限り「UAE料理をご紹介しまっせ〜」などとは私の口からは言えないのだ。

本場のUAEでUAE料理レストランが少ない理由

「UAE料理」だけを見れば、味が悪いというわけではない。「アル・ファナル」での朝食はずいぶんと満足できるものだった。けれども、ふと顔をあげて見回すと「アル・ファナル」でなければいけない理由は特にないのだ。

なにせドバイには世界中の食が集まっている。アラブ料理の一番人気はレバノン料理だし、インドやパキスタン系が人口の半数近くを占めるため、インド料理も人気だ。おしゃれな朝食が食べたければ、NYにありそうなオシャンティカフェに行けばいい。安く美味しい店もたくさんある。

「アル・ファナル」は、食事をする場所というよりも伝統を体験するレストランだと思う。単純に味だけを考えれば、価格帯は少々お高め。競争が激しいドバイでは淘汰されてもおかしくはない。

おそらくその金額は、味ではなく「UAE料理」というブランドに対する料金なのではないかと思う。料理の素人から見ても、食材費があれだけかかるとは到底思えない。店側としても、UAEの伝統的な雰囲気が味わえるお店、というのがコンセプトである。

そんな世界の食があふれるドバイにおいて、よく言えば「素朴な味」のUAE料理は決して人々の関心を惹きつけるほど魅力がある料理ではない。人々がそれを口にする時。それは単純に「UAE料理を食べてみたい」という時だけであって、お腹を充したい、美味しいモノを食べたいという動機の結果、選ばれたものではないということだ。

UAE料理というよりも「砂漠の遊牧民メシ」

「UAE料理」という言葉にも注意だ。「UAE料理」というものでも、そのほとんどはUAEだけで食べられるものではなく、バーレーンなどの別の場所でも食べられる。

同じ料理でもバーレーンでは、「バーレーン料理」と呼ばれるし、価格もドバイに比べて3分の1以下である。だからこそ、余計にドバイのレストランで食べる時にはUAE料理というブランド名にお金を払っているのだなという気になる。

そもそもこれは中東ではよくある現象。イスラエルに住んでいた時、イスラエル人がフムスやファラフェルを「イスラエル料理」と呼んでいたのに対し、西岸地区に行けばパレスチナ人は同様のものを「パレスチナ料理」だと呼んでいた。

自国の料理として囲うのに必死だな・・・と当時は思っていたが、レバノンやシリアを含む地域では一般的に食べられているものだということを後に知った。

国をまたいで同じ料理がある。現在の中東の国々が国家として成立したのはごく最近のことであって、それまでは国境など関係なしに、近隣地域の人々は同じような料理を食べていた。国境は後付けにすぎない。

他の国と陸続きで国境を接せず、他国に支配された歴史をもたない日本人からすると、少々理解しがたいだろう。なにせ我々にとっては常に国とその国の食文化や慣習は、少なからず一致しているもので、ユニーク性があるからである。

だから、シリアにはシリア、レバノンにはレバノン、イスラエルはイスラエルの独自の食文化があるのだと期待してしまう。もちろん独自の食文化がまったくないわけではないが、ダブり料理が大半だということである。

そんなわけで、UAE料理はあくまでもアラビア半島の「砂漠の遊牧民メシ」としてとらえた方がよいかもしれない。遊牧民メシとして見ると、納得できることが多々あるのだ。

カロリーが高い甘い朝食や胃にずっしりくる米料理は、屋外で生活し移動をし続ける遊牧民の体力にはかなっているものだったのかもしれない。けれども現代ドバイでは、少々置いてけぼりをくらっているようにも見える。

UAEでは肥満はかなり深刻な問題になっているし、ドバイ在住の外国人たちも、健康に気をつかいジムにせっせといっては、ヘルシーな料理を選んで食べる。車社会なので日常的に運動をする機会が少ないのだ。そんな中で遊牧民メシのカロリーを摂取した日には、大打撃だ。

そんな感傷に浸りながら、遊牧民時代に思いを馳せる場所。それが現代におけるドバイの「UAE料理」レストランなのかもしれない。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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