アラブ首長国連邦(UAE)でアンチ・物乞い法案が可決された。
これにより、UAE国内で物乞いをした場合には、現地通貨5,000ディラハム(日本円にして約15万円)もしくは、最大で3ヶ月の禁固刑が課される。
さらに乞食を組織化し、集団で物乞いを行った場合には、6ヶ月以上の禁固刑、もしくは10万ディラハム(約300万円)の罰金が課される。物乞いを雇った場合にも同様である。
物乞いが「ビジネス」になる理由
ん?ちょっと待て。単独行動の乞食ならわかるが、組織化した乞食とは一体どういうことなのか?
その問いに答える前に、少々イスラム教について知る必要がある。
UAEはイスラム教の国であり、イスラム教徒には5つの義務がある。日本国憲法で定められた国民の3大義務ならぬ、イスラム教徒の5大義務である。その1つに、「喜捨(ザカート)」と呼ばれるものがある。
ザカートは、年収の2.5%以上(もちろん一定の年収を満たさない人は免除)を寄付することであるが、その寄付先の一つが貧しい人だったり、物乞いだったりする。
イスラム教徒からすれば義務であるから、本当の物乞いだろうかは知ったこっちゃない。ただ義務を果たせばいいのである。
しかし、それをいいことに発生したのが、プロ乞食ないしは、組織化した乞食集団である。特にオイルマネーで潤っている湾岸諸国のイスラム教徒は、乞食からすれば格好のカモだ。
それに考えてみてほしい。非合法な連中が組織化をする時。そこにはつねに金が絡んでいる。物乞いはビジネスになるほど、稼げるというのが背景にある。
ホストの月収を凌ぐプロ乞食の実力とは?
ちなみにどれだけ乞食が儲かるのか?ドバイでは2016年に月収にして270,000ディラハム(約810万円)を荒稼ぎしていた「プロ乞食」が逮捕したことが報じられた。
もはや歌舞伎町の売れっ子ホストの月収を凌ぎそうな勢いである。単独の「プロ乞食」でこのレベルなのだから、組織すればもっとすごいことになる。
吉本興業に所属するイラン人芸人、エマミ・シュン・サラミの著書、「イラン人は面白すぎる!」からもプロ乞食伝説をご紹介したい。
首都テヘランには月収14万円近く稼いでいる物乞いがざらにいる。これは、イランのサラリーマンの最低賃金の5倍にあたる額だ。そして、通行人から喜捨をせびり、1日1万円以上、つまり月収30万円以上も稼ぐカリスマまでいるというのだ!
日本だと、募金箱に1円しか入れなくても「ご協力ありがとうございました!」と深々と頭を下げられるが、イランでは物乞いに小銭をあげようものなら、「なめるなっ!」とばかりに突き返され、説教されることまである。
エマミ・シュン・サラミ「イラン人は面白すぎる」より
物乞いのベストシーズン、ラマダン
この法案が可決された時期にも注目いただきたい。法案が可決されたのは、ラマダンのほぼ1ヶ月前である。
とりわけ善行が奨励され、人々の宗教心が高まるラマダン(断食月)には、頻繁にそうした寄付が行われる。そんなわけでラマダンは、乞食にとっては稼ぎ時のベストシーズンなのだ。
過去にもクウェートやサウジアラビアといった湾岸諸国では、このベストシーズンを狙って国へやってきた乞食が逮捕されたケースがある。
そうした乞食を封じ込めるために可決されたのが、アンチ・物乞い法案である。今年のUAEでのラマダンの光景は一変するかもしれない。