海外に出ると、日本ってつくづく何でも食べる国民なんだなと思うようになった。
タコやイカが動いているままの状態でまな板で調理される動画や、踊り食いの動画とともに「日本って生きた魚をそのまま食べるの?」などと聞かれる。
その眼差しは、我々がアマゾンの奥地に住む人々が虫を焼いて食べる様子を見るごとく、「こんなものを食べるの?」とでもいいたげである。
日本人の食への飽くなき探究心
世界で食されている寿司だって、みんなが好きなわけでない。生魚を食べる習慣がない人の方が世界には多いのだ。
その一方で、我々といったら生魚はもちろん、生卵も馬刺しなどの生肉も食べる。さらには、一体誰がこんなものを食べようと思ったのだろう?といようなものもある。わざわざ豆を腐らして食べたり、そっとしておけばいいのに、いたいけな貝から身をほじくりだして、「うんめっ」といいながら食べたりもする。さらには毒を持った魚までにも手をかけて、命がけで食べることもある。
冷静に考えてみよう。
これは尋常ではない。
日本ではそれが当たり前なので誰も指摘はしないが、「うへへへ」と言いながら貝をほじくってまで食にありつこうとする様は相当やばい光景なのではないか。そこまでしなくても、食べ物はたんまりとあるというのに。
時には、「日本では生卵が食べられるのに、海外では食べれないんだってさ。プププ」という人もいる。日本でできること、食べられることが海外ではできない=海外はしょぼい。日本すげえ、という流れで語られることがしばしばあるが、違うのだ。
我々が特殊すぎるのだ。一体日本の外で誰が生卵なんかを食べたいと思うのだ。日本人は自分たちが世界の例外もしくは特殊な嗜好の持ち主であることを一刻も早く自覚すべきであろう。
レバノン人が寿司を受け入れる理由は・・・?
そんなわけで、生ものを好んで食べるのは物好きの日本ぐらいしかいないだろう・・・と思い込んでいたのだが、実はアラブ料理にも「生もの」があったのだ。しかも羊肉。主にレバノンやシリアあたりで食べられる料理で「クッベ・ナーイエ」と呼ばれている。
ベイルートで食べ歩きツアーに参加していた時のこと。アジア人がほとんどいないのにやたらと寿司屋が目につく。そんなに寿司好きが多いのかね?と思い、案内人のレバノン人に聞いてみた。
その答えが、先ほどの「クッベ・ナーイエ」だっというわけだ。つまり、彼らにも、生ものを食べる文化があるので、さほど生魚を使った寿司に抵抗がないというのが案内人の説明である。
酒のつまみにも合う!?アラブ風バーニャカウダ?
羊の生肉・・・どんなんだろう?ということで、ドバイにあるレバノン料理屋にかけこんだ。アラブ料理の中でも、特に洗練されているということでレバノン料理はダントツの人気料理。それゆえに、市内には多くのレバノン料理屋があるのだが、一方でこの「クッベ・ナーイエ」を食べられる店は少ない。
そんな貴重な「生もの」を提供する店でお目当の品を注文。赤肉のペーストに刻んだパセリとブルゴルと呼ばれる小麦が大胆に添えられた皿が運ばれてきた。生肉のお供は、たまねぎ、ハーブ、ラディッシュといった生野菜の面々である。
羊の生肉のお出ましだい
ブルゴルとパセリを混ぜ、その上からオリーブをかける。まずはそのままでいただく。まったくクサみはない。食べやすい。生野菜をつけて食べれば、この感覚どこかで味わったことがある。そうだ、バーニャカウダだ。最近まったく飲んでない酒が、わざわざ登場するほど酒のつまみにも合う味である。
パン(ホブス)に挟んでもうまし。クラッカーにぬっても合うだろう
私は生肉が結構好きでユッケやら馬刺しをみると飛びつく人間である。幼少期の頃はあまりにも生肉が好きすぎて、母親の料理を手伝っている時にハンバーグや餃子のたねをシレッと指ですくい取り、味見をしたりすることがあった。
あれが結構うまいのである。しかし、母親に見つかり「バカっ!そんなことはやめなさい!病気になるわよ!」と叱られたものである。「美味しいじゃんかよ。食べてみなよ」と私が誘っても、母は頑なであった。
それがどうしたことだろう。あの時こっそり食べていたこねた生肉が、今では目の前に大量にあり合法的に食べられるのだ。どれだけ食べても誰にも怒られることはない。心ゆくまで生肉を堪能できるのだ。そして堂々と「合法で安全な料理なんだよ」と母にもすすめることができる。
そんなわけで、ハンバーグのたねが好き(そんな人いるのか?)という人にもぜひおすすめしたい一品である。
ちなみに持ち帰りはできるのか?と聞くと、「生ものなのでできまへん!」という回答。さらに翌日はお腹がぐるぐると鳴って変調をきたしていた。生肉の代償。それでもあの味は病みつきになる。