「いやあ、日本では食べるものがなくて困ったよ。それでも日本観光は楽しかったけどね」
最近、日本へ旅行したという私の同僚の言葉だ。
外国人観光客が日本旅行で楽しみにしていること
この言葉を聞いて、多くの日本人は首をかしげるにちがいない。
こんなに美味しいものがそろっている日本で、食べるものがないってどういうこと?と。
これは、世界の片隅にたたずむ貧しい国の話ではない。経済大国ニッポンでの話である。
そして、彼がお金がない貧乏旅行者というわけでも、アレルギー持ちということでもない。
日本にやってくる外国人観光客が楽しみにしていること。観光庁の発表によれば、「日本食を食べること」がダントツトップになっている。
観光庁の「訪日外国人の消費動向」より引用
そう。全体的にみると多くの観光客は、日本食を楽しみに日本へやってくる。
これには、多くの日本人も納得だろう。「どや、日本食うまいやろ。鮮度といい、繊細さといい。世界でこれほどうまい食があるのは、日本ぐらいや」と、鼻高々である。
セレブ向け!?日本グルメツアー
冒頭の彼とは別に、日本へ旅行をしたカナダ、イギリス、アメリカといった国の同僚たちは、確かに食を楽しみにしているらしかった。ただ、以下のような顛末もあったが。
東京で働いていた私でも、知らないような名店を念入りに下調べしていたのである。
さらに、外国人観光客向けの東京グルメツアーも盛況だ。
世界各地でグルメツアーを開催している「ハングリー・ツーリスト(The Hungry Tourist)」という会社がある。ツアー先は、スペイン、トルコ、香港、タイ、中国、イスラエルといった世界の美食国家である。
中でも東京グルメツアーは人気らしく、1週間のツアーで80万円!!!近く(もちろん航空券は含まない)もするのに、すでにほぼ1年先のツアーまで、予約で埋まっているのである。
ツアー内容は、高級な鉄板焼きや寿司屋をめぐるもので、日本人の私ですら知りもしなければ、行ったこともない場所ばかりである。
下手したら、私は一生これらを口にすることはないだろう。それぐらいのレベルである。
食難民になった外国人観光客の正体
では、冒頭の彼はなぜあのようなことを行ったのか。それは、彼がイスラーム教徒だからである。
イスラーム教徒は、規定にのっとった「ハラール」と呼ばれる食事しか口にすることができない。
イスラム教徒の食事を徹底解説。ハラールフード&禁止された食品一覧
こういってしまうと、アレルギーやベジタリアンなどと同じく、食べられるものがかなり制限されている、と感じる人が多いらしい。
けれども、違うのだ。
確かに豚やアルコール類といったものは、口にすることはできないが、そこまで食事規定が厳しいわけではない。
基本的に、魚や牛肉、鶏肉、野菜類はたべられる。
しかし、肉に限ってはイスラーム教で決められた通りに屠殺されてない肉だと、口にすることができない。
飲食店やスーパーでそれを確かめることは、不可能に近い。よって、「日本で肉を不用意に食べるのは、やめておこう」ということになる。
使用されている調味料も心配だ。ビールやワインといったアルコール類は、簡単に見分けがつく。しかし、みりんや醤油など、少量のアルコールが含まれている場合もNGとなる。
食事に一体何が使われているのか、わからない。聞いても、言語の問題があったり、そもそもハラールてなんやねん?という状態である。
彼いわく、レストランで「イスラーム教徒なんで」と店員に伝えたところ、一番に出てきたのが、ベーコン巻きだったそうだ。
ギャグなのか、無邪気な嫌がらせなのかは、わからない。
そう。イスラーム教徒にとって、日本で食事をすることは、ハラハラものなのである。
冒頭の彼は、「最初の2日間は天丼だけで、残りは寿司でしのいだよ」と語った。
日本人からすると理解できない感覚だ。ちょっとぐらい他のものを食べても問題ないじゃん?と思ってしまう。
それは、台風や大雨の中、必死に公共の交通機関を使って出勤しようとしている人々に、「今日ぐらい、会社いかんでもええやん?休んじゃいなよ」と言っているようなもんである。
価値観は違うが、絶対的に従うものがお互いにある、という点では同じなのだ。
食にオープンな日本人
なんでも食べる日本人にとっては、彼のようなケースは、単なる一部のかわいそうな人々の話にすぎない、かもしれない。
けれども、日本を離れて暮らしてみると、日本人ほど食にオープンな人々はいないのではないか、と思うようになる。
世界で約16億人いるとされるイスラーム教徒。日本人口の16倍である。さらに、牛を神様とし、牛肉を食べないほかいくつかの食事規定があるヒンドゥー教徒の人口は、約10億人。さらにベジタリアンは、世界で約3.7億人ともいわれる。
日本人からすれば、みななんらかの食事規定を持っているのだ。ダイソンの掃除機のごとく、どんな食べ物のでもかまわず吸い込む日本人とは、異なる。
仮に世界でなんでも食べる国ランキングがあるとすれば、日本は中国と競り合って、トップ3には入るだろう。
それぐらい、日本から見ると世界は食に”保守的”な人々であふれている。
いや、人間というのは、そもそも食に保守的なのだ。わけのわからんものを食べて、死んだら困るから、本能的に、見知らぬものを食べないのが正解である。
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