UAEやオマーンを旅した人は気づくかもしれない。あちこちで香るあのオリエンタルな匂いはなんなのだろうと。
それは時に乳香であり、沈香であったりする。いずれも日本の生活にはあまり馴染みがない。そんな乳香&沈香について、その魅力とともにアラブ流の楽しみ方をご紹介しよう。
世界70%の沈香を消費する香りマニアな人々
日本にも「香道」と呼ばれる香りを楽しむ文化が存在するが、アラビア半島ではもっと身近な形で楽しまれている。それゆえに、道端を歩いていても沈香や乳香の香りと出くわす機会が多い。
UAEやオマーンといった国々があるアラビア半島でよく焚かれているのが「沈香」。現地では「ウード」と呼ばれている。香木を香炭にのせて焚いて、その煙で部屋や洋服に香りづけをする。
こんな風に洋服に香りを焚きつけるのがアラブ流
香水として使われるのも一般的だ。D&G、トム・フォード、グッチといった高級ブランドも「ウード」入りの香水を販売している。この地域では男性も女性も香水をシュッシュとやるのがお好きなようで、日本とは違い、香水は年中売れ筋商品なのである。
一方で乳香は、沈香に比べると出くわす機会が少ない。しかし乳香の産地といわれる、オマーンのサラーラでは、今でも人々の家やスークではよく焚かれている。かつては金と同額で取引されていたとも言われ、古代エジプト時代からその香りは人類を魅了してきたのである。
けれども現代のアラビア半島では「沈香」人気の方が高いよう。そのせいもあってか、希少価値が高いといわれている世界の沈香の70%はアラブ諸国に輸出されているという。そんな「沈香」好きがこうじてか、ドバイのスーパーでは「沈香」の香りの柔軟剤も販売されている。
沈香オイルの香りがする柔軟剤。一度使ったらやめられない。
こう見てみると、いかにアラブ人たちの「香りマニア」ぶりが分かるだろう。
乳香&沈香を焚くのに必要な道具
そんなアラビア半島の人がいかに乳香&沈香を日常生活で楽しんでいるのか。
必要なものは、日本の香道で使われる道具にもよく似ている。そして、基本的には乳香も沈香も同じ道具、やり方で楽しむことができる。
乳香&沈香を楽しむ一式セット。白乳の粒が乳香、黒い木のチップが沈香
必要なもの
1.香炉(UAEではマブカラ、オマーンではマジマーと呼ばれている)
2.香炭
3.沈香もしくは乳香
3.大きめのピンセット(日本でいう火箸。なくてもOK)
4.トーチバーナー(なければキッチンコンロでOK)
アラビア半島の国であれば、スーパーやスークなどであればいずれも手に入るもの。香炉は日本円で約600円ほどで手に入る。沈香や乳香に関しては、質や産地によって値段は異なる。
乳香&沈香の焚き方
1. 香炭を熱する。トーチバーナーの場合は20~30秒ほど熱して、香炭がほんのりと赤みを帯びるまで熱する。熱し方が足りないと、香りが十分にあがらない。トーチバーナーがない場合は、キッチンコンロで熱するなどしてもOK。
2.香炭の上に沈香ないしは乳香をのせる。
乳香バージョン。粒が大きいのでこちらは1つでOK
沈香バージョン。沈香の場合は2~3の木片を乗せるだけで十分。
たった2ステップで完了。あとは煙とともに香りが上がるのを待つだけである。ちなみに焼香時間は10分ほどとそれほど長くない。
完全に香炭が燃え切ったあとは、沈香や乳香も含め綺麗に香炭を取り除く。ここで燃えかすなんかが残っていると、次に香りを焚くときに混ざってしまうからだ。
神々しい香りを放つ乳香の魅力
乳香にしろ沈香にしろ、上記の方法で焚くとかなり煙が上がる。特に乳香に関しては火事か!と思うぐらい辺りが白煙に包まれる。
けれども安心されたい。むしろそうした立ち込める白煙こそが、異世界へと誘うような神秘的な空間を生み出すのだ。
乳香は古代エジプト時代から焚かれていた。特に宗教的儀式に使われたという。そして現代のカトリック教会でも、司祭がなにやらぶらぶらさせるのを見たことがある人もいるだろう。あの振り香炉から出ている煙の正体は乳香である。
そんなわけで乳香というのは、香りのみならずその煙もまた「神々しい空間」を作り出すために必要な要素なのだ。古代エジプト人も魅了したというその香りは、現代の身近な香りに例えることも難しい。
なぜなら日本の日常生活を生きていてまず出会うことがない香りだからである。いうならば、神々しい、神の香りである。そしてその原始的な香りに「古代」すら感じてしまう。
紹介したのはいずれも、やや原始的な香りの楽しみ方だと思う。けれども、その原始的な楽しみ方ゆえに、香りもまた現代の我々にとって身近な香りとは一線を画すものなのである。