ウクライナ侵攻に反対しないパキスタン

ウクライナ侵攻以来、世界はロシア、プーチンへのバッシングと反戦ムードにあふれている。どう考えても悪いのはロシア。人々はそれを信じて疑わない。

しかし、パキスタンをみるとそうでもないのだ。

ウクライナ侵攻が始まった当日。侵攻から数時間後に、パキスタン首相とプーチンが会談をしていたのである。しかも議題は、ウクライナ侵攻のことではなく、ガスパイプラインの話である。しかも、予定は1時間だったのに3時間も話し込んでいるのである。

ひえっ!?

主婦か。

侵攻を始めて数時間後なのだから、プーチンもそれなりに忙しいのでは?だのに、パキスタンという、ロシアにとってはそれほど重要でなさそうな国の首相と会談しているではないか。

プーチンは暇なのか?

プーチンはさておき、パキスタンは国連総会でのロシア制裁決議に関しても、棄権している。日本では、欧米メディアの報道をそのまま横流している上、アメリカの同盟国でもあるので、ロシア制裁に賛成して当たり前!というのが、主な意見である。悪いのはロシアなのだから、罰することが正義なのだ。誰もがそう思っている。

一方で、ロシア制裁に反対している国もそこそこいるが、日本や欧米メディアではほとんどスルーされている。

なぜパキスタンは、ウクライナ侵攻に反対しないのか。

パキスタン首相の激おこスピーチがパキスタン国内で話題になっている。

日本を含む欧米諸国に「パキスタン、お前も当然ロシア制裁に賛成だよな?」という圧力をかけられたと言う前提で、

「俺は、おめえらの”奴隷”じゃねえんだYo!なんでも言うことを聞くと思ったら大間違いだ!」

と言う趣旨の発言をしたらしい。

なんとも強気の発言である。

ちなみにパキスタン首相のイムラン・カーンはプーチンとタメな上、もともとクリケット選手でワールドカップにも出場している。その容貌は、映画ランボーに出てくるシルベスター・スタローンみたいである。

パキスタンは切実なのだろう。

自国の存亡という分かりやすい名目のため、ロシアの機嫌を損ねるわけにはいかない。一方で、日本を含めヨーロッパやアメリカは、ロシアに制裁を加えたとて、自分の国に大きな打撃があるわけではない。だから、”戦争は悪”という美しいイデオロギーのみに従って、ロシアを叩けばいいのである。

正直、個人的にも驚いている。ウクライナ侵攻をめぐる人々の過剰な反応に。これまでにも規模の大きな紛争は中東でも何度も起こってきたのに、これほどのムーブメントにはならなかった。

むしろ、遠い国で起こっていることだから、よくわからない、と人々は無関心を決め込んでいた。それに、イスラーム?悪の権化でしょ?欧米の敵でしょ?と言わんばかりに、関心は薄かった。

おそらくこれは、欧米メディアが、自分たちと同じ姿形をしたヨーロピアンな人々が痛めつけられているという点にフォーカスした報道をしているからだろう。そしてSNSから発信される欧米インフルエンサーの声は、”正義の声”として、世界の果てまでくまなく届く。

決して、欧米メディアが悪い、ということを言いたいわけではないのだ。

戦争報道は、いつも強者の声が大きく聞こえてしまうということ。そして、強者の声を人々が正義だと信じてしまうことにある。悪者は必ずしも極悪人ではない。かわいそうな人々は必ずしも全員がかわいそうというわけではない。

イスラエル・パレスチナ紛争で、世界中は、”かわいそうな”パレスチナに同情した。多くの支援金も送った。しかし、パレスチナでは一部の政治家がそうした資金を私腹を肥やすのに使っていた。

“かわいそうな”パレスチナを演じるほど、得をするパレスチナ人もいた。実際に私が大学生の時に、お金を払って参加した、パレスチナ難民キャンプボランティアの参加費が、そうした用途に使われていたのでは、という噂を耳にした。

パレスチナを”いじめる”イスラエルにも、事情はあった。町中でいつ起こるかわからない自爆テロにより、安心した生活は保証されなくなった。家族をテロで失い、戦地でトラウマを抱える若い兵士もいた。

結局のところ、戦争報道に感情は揺さぶられても、正しさなど存在しないのだ。我々市民ができるのは、両者の立場に立って、じっくりと耳を傾けることである。

パキスタンは、日本にとって向こう側の世界である。中国とやたらと仲が良く、中国人が大歓迎される国である。おそらく世界でもこうした国は少数派だ。パキスタンという新中派の国にいると、日本がいかに欧米寄りなのかが分かる。

とはいえ、パキスタンが主張するのはあくまで中立の立場である。カーン首相いわく、「パキスタンはロシアとも、中国とも、アメリカとも友達」なのだと。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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