アゼルバイジャンの首都バクー、第2のドバイ説は本当か?

アゼルバイジャンを、チラチラと気にしていたもう1つの理由。それが、アゼルバイジャンの枕詞「第2のドバイ」である。

ドバイほどつまならい場所が、この世に2つもあってたまるものか、ということで、実際に見に行ってみた。

結論から言おう。

アゼルバイジャンは第2のドバイではない。というか、アゼルバイジャンに失礼だろ、といいたい。第2のドバイというから、あざとい高層ビルが立ち並んでいる、味気ない町をイメージしていた。

けれども、首都バクーの町は、それはもうミルフィーユのごとく、歴史が幾層にも重なってできた町であった。

いや、どの国も歴史の積み重ねというものはあるが、バクーではそれがはっきりと可視化されている。

世俗国家となり、もはや過去のものとなりつつあるイスラーム。この地にもかつて、イスラームが普及したことを示す、モスクやアラビア語が刻まれた墓石が街中にはひっそりとある。


アラビア語が彫られたモスクの入り口


博物館となったモスク。本来の目的を失って、たたずむモスクの空間は不思議だ

かつてロシアやソ連の統治下にあったことを示す、巨大で無機質な建物群。


ソ連時代の名残であるバクー政庁

1911年に建てられたオペラハウス。今でもオペラを楽しむことができる。

そして、近年の油田発掘により、オイルマネーで作られた高層ビルや、世界的建築家による先鋭的な作品。

中でも、イラク出身のザハ・ハディド氏がデザインを手がけた「ヘイダル・アリエフ・センター」は有名。笑いが止まらないほどの金がなければ、こんな建物をわざわざ作らないだろう。


見る方向によって建物の形が全く異なる「ヘイダル・アリエフ・センター」


光の当たり具合によって、建物がピンクに見えるという、実用性に欠ける仕掛けつきの「バクー・会議センター」

人も違う。外国人が8割で自国民が60万人程度のドバイに対し、アゼルバイジャンの人口は、1,000万人でほぼ自国民が占める。

ちなみにドバイは都市に過ぎず、UAE国全体の人口は約1,000万人。この半数以上は国外からやってきた外国人である。

だからどうした?と思われるかもしれないが、国として存続する場合、自国民の多さは以外と重要なのである。なにより、自国民が少ないと軍事力が強化できない。国民が少ないと、国のアイデンティティともなる歴史や文化を、支えることも難しいのだ。

国際政治学者の高橋和夫氏は、中東で国と呼べるのは、イラン、トルコ、エジプトの3カ国しかないとのたまう。クウェートやバーレーン、UAEなどの湾岸諸国は「生焼けの国もどき」でしかないという。

アゼルバイジャンは観光地としても魅力がある。歴史的なスポットに恵まれおり、自然も豊かで冬にはスキー、夏にはハイキングが楽しめる。それを目当てに、ドバイから訪れる観光客も多い。湿度が高くなる夏を除けば、ほぼ年中観光に適した場所だ。

一方ドバイには、観光客の度肝を抜くアトラクション的スポットはあるが、リアルな歴史スポットは少ない。どれも、ここ最近になって、”作られた”歴史ばかりである。観光ができるのも11月から4月頃と限られており、それ以外の時期にドバイを訪れるのは、過酷な行為ですらある。

「第2のドバイ」というのは、おそらく最近発見された油田により、オイルマネーでアゼルバイジャンが急成長を遂げていることからきているのだろう。

しかし、ドバイは石油で成長したわけではない。あくまでも、貿易や金融である。くわしくは、別の記事を参照いただきたい。

ドバイ経済を回すのは石油にあらず!知られざるドバイ急成長の秘密

ただ、いかにもオイルマネーの象徴みたいな、ギラついた高層ビルがあるのは同じだし、完成したら世界一の高さになる「アゼルバイジャン・タワー」も建設中である。ドバイの後釜を狙っていると言われても、まあ仕方がない。

総じて見れば、20、30年後にはドバイの勢いが、アゼルバイジャンにあってもおかしくはない。中東の繁栄地も金融という分野だけで見れば、レバノンのベイルート、バーレーン、ドバイと時代ごとに変化している。

よってアゼルバイジャンは第2のドバイなんて言われる筋合いはなく、独自のアイデンティティを持った国として、今後も成長していきそうである。

アゼルバイジャンについてもっと知るなら

アゼルバイジャンだけを取り上げた旅行本はまだない。そんな中、アゼルバイジャンを知るのに役立つのがこの一冊。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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