イスラム教徒女性の服装に関するなぜにお答え!ベールの種類、肌を隠す理由とは?

なぜイスラーム教の女性は、スカーフで髪を隠しているのか。中には顔も隠して、黒い物体と化している人までいる。同じイスラームなのになぜ格好が違うのか。イスラーム教徒の女性に服装の決まりはあるのか?

そんな疑問についてお答え。

イスラム教徒の女性はなぜ肌を隠す?

とりわけ大きなインパクトを与えるのが、全身すっぽりと覆うブルカや、目だけを出し全身を覆うニカーブスタイル。ファッションのダイバーシティを推進する日本からしても、こんなスタイルは衝撃的である。

しかし日本人を困惑させるのは、みな同じイスラム教徒の女性なはずなのに、どうしてニカーブだのブルカだのスタイルが異なるのかということだろう。

そもそもイスラム教の聖典コーランに書かれているのは「両手と顔以外の美しい部分を隠せ」ということである。目だけを見せなければいけないだとか、服装の色は黒指定で、といったルールは書かれていない。

というわけで、同じイスラーム教徒の女性であっても、世界を見渡すとその服装はずいぶんと違う。黒い布をすっぽりとかぶる人から、髪の毛をスカーフで覆うだけであとは、日本人とほとんど変わらないファッションをしていたりもする。


アジア、中東、アフリカのイスラーム教徒の女性たち。同じイスラーム教徒でもファッションは色々。

服装の特徴は?

基本的にイスラーム教徒の女性の服装に求められるのは、慎ましやかなファッションであるということだ。英語でいう所の「モデストファッション( modest fashion)」である。

モデストファッションとは、肌の露出を過度にせず、体の線がぴっちりと出ることがないファッションのこと。日本で言うところの体型カバーコーデである。

日本では日焼けしたくない!体型を隠したい!という願望から、体型カバーコーデが生まれたのに対し、イスラーム教では、女性の美しい部分を隠すためにモデストファッションが生まれた。

目的とは違えど、最終的に肌や体の線を隠すという点では同じようなファッションに着地しているのは、興味深い。

スカーフの種類によって名前も異なる

服装は違えども、ムスリム女性の多くに共通しているのが、髪を隠すことである。ひとえに髪の毛を隠すスカーフといっても、スタイルは様々。

イスラーム教徒女性服装_ヒジャーブの色々ニカブからブルカまで
イスラーム教の女性が身に着けるベールのスタイル

ブルカ

ブルカ

全身を覆うベール。目の部分だけは網目状になっている。アフガニスタンやパキスタンの一部地域で見られる。髪や顔だけでなく、全身をすっぽりと覆うタイプ。

ニカーブ

ニカーブ

目をのぞく体全体を覆うベール。ニカーブは黒色で、アバヤと呼ばれる黒いロングワンピースと合わせて着る。サウジアラビアやイエメンやソマリアの保守的な層に見られるスタイル。ベールの上から、黒子のように目を覆う薄いフェイスカバーを一緒につけることもある。後ろで紐を結ぶスタイルになっている。

チャドル

チャドル
大きめの布をかぶり、体をすっぽり覆うタイプ。イメージとしては、主にイランや一部のイラク女性たちが着ている。こちらも、カラーは黒。チャドルの布は長い上に大きい。歩きにくいのだ。よって、手で布をつかみながら歩かなければならない。

カイマー

カイマー
頭から肩、胸下までをすっぽりと覆うタイプ。ヒジャーブやアルアミラに比べると、スカーフで覆う部分が多い。小学生が長袖を頭からかぶって顔だけを出すスタイルに酷似している。頭にすっぽりとハマるので、くずれにくいスタイル。

アル・アミラ

アルアミラ
ヘアバンドとスカーフを使い2重に髪を覆う。前髪をかっちりととめるヘアバンドをチラ見せしつつ、スカーフで全体を覆う。他のスタイルと比べて違うのは、2枚の布を使うこと。

ヘアバンドで前髪をしっかりと押さえるので、スタイルがくずれにくい。ヘアバンドとスカーフは違う色のものを選んで、おしゃれを楽しむことも。

ヒジャーブ

ヒジャーブ
髪の毛と首をスカーフで覆うスタイル。エジプトをはじめとする多くイスラーム諸国で見かける。

スカーフはコットンやポリエステルなど素材はいろいろ。色や柄にもバリエーションがある。さらりとした手触りの布を巻きつけているだけなので、くずれやすい。安全ピンやマチ針で固定し、くずれにくくする人もいる。

シェイラ

シェイラ
長いスカーフをゆるく巻きつけるスタイル。首や髪の毛は一応隠れているが、あくまでもラフに覆っている程度。

いつからベールをつけるのか?

聖典コーランにより、慎ましやかな服装が規定されたが、”いつから”とは書かれていない。よって、ベールをかぶり始めるのに、公式な年齢やタイミンングは定められていない。そのため、地域や家庭、各々の考え方によって、つけ始める年齢はバラバラとなっている。

初潮を迎え、体が女性らしくなる頃につける人もいれば、早ければ7歳頃からつけ始める人もいる。

地域によってはフェイスマスクも

種類があるのは、ベールだけではない。地域によっては、スカーフに加え独特な形をしたフェイスマスクをつける女性もいる。

ムスリム女性_フェイスカバー
左からイランのゲシュム島、ホルムズ島、UAEの女性

特にイランやUAE、オマーンといったペルシャ湾岸の地域では、金色やカラフルな色をしたマスクを身につけている女性を見かける。ただ多くは、年配の女性であり、伝統的なものとして若い世代にはあまり受け継がれていない模様。

ムスリムであっても、髪の毛を隠さない人もいる。トルコやレバノンといった世俗的な国ほど多い。一方で、自分は隠したくないけど、家族や社会のプレッシャーによりヒジャーブをつけなければ、という人もいる。後述するように、国の法律や政策で、ヒジャーブ着用が義務付けられている場合もある。

以下はピューリサーチが公表したデータ。テーマは「ムスリム女性としてふさわしい格好は?」というもの。国によって適切と考えている服装が違うのが分かる。

イスラーム教徒の女性の格好_適切なのはどれ
ピューリサーチより引用

例えば、サウジやパキスタンではニカーブが適切と考えている人が多数派で、スカーフなしでもOK派はずっと少ない。一方で、レバノンでは半数近くの人々がスカーフなしでもOKと考えている。

全体的に見れば、髪の毛と首をきっちりと隠すアルアミラ派が圧倒的な支持を得ている。

イスラーム教徒の女性といっても、一概に一括りにできるものではない。地域や国、世代、信仰度、家族や親戚との関係などによって、ずいぶんと異なるのだ。

イスラーム教の女性にはオシャレの自由がない?

髪の毛も隠さなければいけないし、肌を露出しないよう着る服装も限られる・・・イスラーム教徒の女性は、オシャレが自由にできなくて可哀想と思うかもしれない。

我々から見ると”制約”があるように思えるが、彼女たちは彼女たちなりにオシャレを楽しんでいる。

髪の毛を覆っている分、化粧やアイメイクに力を入れてみたり、H&MやZARAといったファストファッションから、高級ブランド品だって身に着ける。

髪の毛や肌は隠すけど、その中で最大限のおしゃれを追求するムスリムインスタグラマーたちも多くいる。日本で人気を集めているインドネシア出身の@aufatokyoもその一人だ。


日本で活躍するインスタグラマー@aufatokyo。写真は@aufatokyoアカウントより引用

制約があるからといって、ファッションの自由度がないとは言い難い。むしろ、そこには隠す美しさを見出す人もいる。

一方で、こんな見方をする人もいる。

そもそもイスラームの女性が、慎ましやかなモデストファッションをするのは、むやみやたらと男性の目を引かないようにするためである。髪の毛や肌を隠しても、メイクをしたりオシャレをすることで、結局注目を浴びることになっているじゃないか。

オシャレで世間の注目を浴びるムスリム女性に対して、「あいつはムスリムとしてなってない」、「軽々しい女だ」という冷ややかな視線を浴びせる人もいる。

イスラーム社会でオシャレをすることは、それほど簡単なことではないのである。逆に言えば、地域や社会によっては、服装の自由がないとも言えよう。

法律でヒジャーブ着用が義務付けられている国

ファッションの自由が許されある場所もあれば、国によってはヒジャーブやニカーブの着用が、義務付けられている場所もある。

イランでは、法律により女性はみな髪の毛を隠さなければならない。イスラーム教徒ではない外国人女性もだ。イラン女性を見ていると、信仰心ゆえにヒジャーブをつけているというより、若干やらされている感がある。

かつてイランからドバイへ行く飛行機へ乗った時のこと。飛行機が離陸すると、イラン人女性たちが、次々とスカーフをはぎとっていくではないか。

「は〜、マジでやってらんないわよ」と言わんばかりである。ドバイへ到着する頃には、ほとんどの女性が「どちらさん?」と聞きたくるぐらいに、別人へと変わっているのであった。

そう、法律だからスカーフをかぶっていたのである。そんな法律もクソもない国外へ言ってしまえば、スカーフを身に着ける必要はない。信仰心ゆえに、隠さねば・・・というより法律ゆえにスカーフをかぶらされている人もいる。

イランではかつてヒジャーブ着用の義務はなかった。むしろ、アメリカやヨーロッパのように女性たちは、好きな服を自由に身にまとっていた。

ところが、1979年にイスラーム革命が起こり、イラン国内で近代化を進めていたレザー・シャーによる親米政権が倒れた。代わって現れたのが、宗教的な指導者であるアヤトラ・ホメイニである。それまで親米だったイランは、革命後にガチガチの反米へと転じる。

宗教的な指導者がリーダーとなって以来、イラン国内では宗教色が強くなる。「ムスリムの女性なら、ちゃんとした格好せんとあかんで」ということで、女性たちもカラフルで眩しい衣装から、真っ黒な布切れで体を覆うようになるのである。


イスラーム革命前後のイラン女性たち。左が革命前、右が革命後。イスラーム革命はある意味ファッション革命でもある。

厳格なイスラーム路線をとっていたサウジアラビアでは、女性はアバヤと呼ばれる黒い長袖ロングスカートに、ニカーブの着用が義務付けられていた。これらを着用しないと、勧善懲悪委員会こと宗教ポリスに注意されるという、世にも奇妙な国であった。

イスラーム教徒ではない外国人でも、これに従わなければならなかった。今では、服装の規制もゆるくなったが、相変わらずサウジの女性たちは、真っ黒な布で全身を覆っている。

ちなみにサウジの女性たちは、サウジ国外へ行ってもこの格好を続けている人が多い。

はたから見ると、同じような黒い物体にしか見えない。目しか見えないので、誰が誰だかわからない。サウジの伝統的な服装は、女性らしさだけでなく、完全に個性まで殺してしまった。

有名ブランドもムスリムファッションに注目

ムスリムの人口は世界で16億人。4人に1人がムスリムという時代だ。そんなムスリムの需要を狙ってか、名の知れたブランドたちも、続々とムスリムファッションに参入している。

ユニクロは、かつて英国出身のデザイナーであるハナ・タジマとコラボしたムスリムファッションのアイテムを展開したし、D&Gによるアバヤコレクションも注目を集めている。


D&Gのアバヤコレクション。写真はBazaar Arabiaより引用

スポーツブランドのナイキは、スポーツ用のヒジャーブをはじめとし、積極的にムスリム女性向けのスポーツアイテムを売り出している。


ナイキのムスリム女性向けアイテムコレクション。ドバイモールのナイキショップにて。イスラーム社会では「女性は家にいるもの」という考えを持っている人も多く、女性がスポーツをするのは一般的ではない地域もある。

通常だと、アパレルショップでは暑い夏に長袖や長ズボンなどは販売していない。けれども、ムスリムの女性は、肌を隠すために夏でも長袖やロングスカートなどを身に着ける。その点を考慮して、モデストファッションコーナーを作り、通年で長袖などを販売するブランドもある。

ベールをつけていた日本人?

ムスリム人口が10万人(うちほとんどが外国人ムスリム)ほどしかいない日本では、ムスリムファッションはちょっと遠い話のように聞こえる。けれども、かつて日本にもヒジャーブスタイルがあった。

それがこれ。


ムスリム女性のヒジャブ姿にそっくり

肌の露出もおさえ、髪の毛も隠している。まさにイスラーム教徒のモデストファッションではないか。しかし、これはヒジャーブではなく御高祖頭巾(おこそずきん)と呼ばれるもの。江戸時代から大正にかけて、防寒グッズとして用いられた。現代でいうマフラーみたいなもんである。

京都にある貸し着物店では、ムスリム観光客向けに、ヒジャーブつきの着物を貸し出すようになった。アジアからのムスリム観光客が増えていることが背景だ。


ヒジャーブをつけた着物姿のムスリム女性たち。写真はPR Timesより引用

もともと着物は、モデストファッションである。肌も露出しないし、体の線も出ない。そこへヒジャーブをつけることで、あらま不思議。日本の伝統衣装も、ムスリムファッションになってしまうのである。

ひとえにイスラム教徒の女性のファッションといっても、さまざま。イスラム教徒だからといって、制服のように特定の服装を着なければいけないわけではない。

ただ、あるのは「美しい部分は隠すように」というコーランの教えを様々な形で体現したもの。

なんていったってイスラーム教徒の人口は16億人。人の数だけ服装もまた多様なのだ。

マンガでゆるく読めるイスラーム

普通の日本人がムスリム女性と暮らしてみたらどうなる?「次にくるマンガ大賞」や「このマンガがすごい!」などでも取り上げられた話題のフィクション漫画「サトコとナダ」。

イスラム教やムスリムのなぜ?が分かる、対談形式のマンガだから分かりやすい!ムスリムの日常や中東料理、モスク、ファッションといったカルチャーまで。イスラーム入門本はこれで決まり!

ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門
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サイゾー

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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