マレーシアの不思議な店員その4

今回は不思議でもなんでもない、行きつけの店のおっちゃんの話である。

店といっても、日本人が想像するような店ではなくて、路上でココナッツジュースを販売している販売所である。

近所には、2つのココナッツジュース販売所がある。その距離は、たった数メートルしか離れていない。一応両方の店に顔を出したが、現在の販売所のおっちゃんの方が面白いという理由で、そちらにしか通っていない。

もう1つ理由がある。もう一方の店では、ココナッツしか扱っていないが、おっちゃんの店では、マンゴージュースやサトウキビジュースの取り扱いがあるからである。ビジネスもよほど強みがある商品でなければ、多角化した方がお客は集まりやすい。

初めこそ、「あれまあ、外人が来たよ」と言わんばかりに物珍しく扱われたが、それ以降は単なる常連客という地位を確立している。

おっちゃんは、日本のラウドネスというバンドがお気にのようで、私がそんなの知らんがな、というと、「え!?日本人なのに知らんのかい」。こういったやりとりができるのが心地よい。

“行きつけの店”を持ったり、”常連客”になるといった憧れというのがある。しかし、ほとんど外食しない人間にとっては、これは至難の業である。ここにきてようやく、行きつけの店を獲得できたことの嬉しさといったら。まあ、店というより販売所なのだけれども。

常連客になると、色々と気づくことがある。

ある日には、なぜかエプロンを着ておっちゃんが仕事をしていて、可愛らしいなあと微笑ましく思ったり、ある時には、見たことがないペット用のケージが置かれていた。

なんだこれ・・・?

と思って中を覗き込むと、世にも可愛らしい謎の動物が、こちらを見ているではないか。シュガーグライダーというらしい。あとで調べてみたらフクロモモンガであった。

失礼ながら、おっちゃんはそんなペットを愛でるという感覚があるとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。ジャングルで拾ってきたのかと思いきや、ちゃっかりアニマルセンターで購入したのだという。

餌箱を除くと、何やら白い布団みたいなものが畳まれている。

もしやこれって・・・

あー、そうだよ。ココナッツだよ。他にもフルーツとかをあげてるんだ。

へーモモンガってココナッツ食べるんだ・・・

おっちゃんの店に通う理由は他にもある。他の常連客にも通ずるように、ホッとするからだ。仕事柄、パソコンをカタカタやらなければいけない。扱うのはChatGPTやAIなど、やれ実態のないインターネット上の事象である。仕事に入り込みすぎると、ネット上の虚像ばかりを追うことになる。

そこで失礼ながらAIもChatGPTも関係なさそうな世界で生きているおっちゃんの店に入り込むと、地に足をつけられたような気がする。少し大袈裟にいえば、本来の人間のあるべき姿に触れたような気分になる。

そして我々に共通しているのは、個人事業主だということである。こうして妙な親近感を抱きながら、ココナッツジュースのために足しげく通っていることは、おっちゃんも知る由はないだろう。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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