ペシャワールというのは、不思議な響きがする町である。アフガニスタン国境から近いということもあってか、治安面においての評判はあまりよろしくない。つい数週間前にも、モスクで自爆テロがあったばかりだ。
国境付近の町というのは、だいたい危険というレッテルを貼られているのだが、国の中心部にはない、不思議な魅力を持っている。エチオピアのハラールしかり、トルコ東部然りである。
ペシャワールに行かずしてパキスタンは去れん。ということでカラチからペシャワールへと向かった。
空港でガイドと落ち合うことになっていたが・・・
「あ!こっちこっちい~」
私のパスポートコピーを握りしめた人物が、コピーの写真と私を見比べながら、照合を行う。ペシャワールという響きからして、少々身構えていたのだが、ガイドを見た瞬間、気が抜けた。
ひえっ!?
コテコテの衣装でお出迎えである。
「あ、僕のことはプリンスって呼んでねい」
は?
聞き間違えかと思った。しかし、運転免許証を出しながら「ほら、プリンスって本名なんだよお」という。
パキスタンにもキラキラネームがあるのか。
飛行機が3時間も遅れたため、ペシャワールに着いたのは夕暮れ時だった。観光するには遅い時間だったためか、町へ出かけることなく、お土産や民族グッズで埋もれたプリンスの秘密の部屋?なるものへ連行される。
プリンスは、外国人観光客の間では知られたガイドらしい。「これ、見てよお。日本人観光客のもあるよー」と、過去の観光客による感想ノートみたいなものを手渡された。ふむ、確かに日本語の感想もある。
中には、プリンスが日本語を読めないのをいいことに、正直な感想を書く者もいた。
「一緒にいると疲れます」
「早口がたまに傷」
こういうとき、マイナーな言語(日本語は話者数では多いが、国外で話す人は少ない)というのは便利である。実際に、過去の戦争では少数民族の言語や方言が、暗号として使われたことはよく知られている。
ペシャワールよりもアフガニスタン国境に近い北西エリアは、パシュトゥーン人が多く住むトライバルエリア(FATA)と呼ばれる。そこはパキスタン国内でありながら、パキスタンの法律は通用しない。いわば、無法地帯エリアである。そこでは銃の密造が行われており、彼はそうした場所へも観光客を案内しているという。
「どうでっか。射撃もできるで。日本人観光客も案内したことあるよ(←やたらとこれを言う)」
「銃は・・・興味ないっすね」
射撃をするなら、もっとまともな場所でしたい。
「ペシャワールといえば!マリファナ、コカイン、アヘンなんでもそろってまっせ。コカインは特に日本人に人気でっせ~」
おいおい。大丈夫なのか。このガイドは。
そう、パキスタンはあまり知られていないが麻薬大国でもある。東南アジアのゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)は有名だ。しかし、これと並ぶ麻薬地帯として、ゴールデン・クレセント(黄金の三日月地帯)というものがある。イラン、アフガニスタン、パキスタンにかけての地帯をこう呼んでいるのだ。
ペシャワールだけでなく、パキスタン国内ではヤクブーツをやっている連中を、よく見かける。パキスタンの法律では、薬物を所持するだけでも重い罪が課されるが、実態は野放しになっているのだ。
密造も麻薬もいいから、もっと町の案内をしてくれよ・・・
と思ったが、ペシャワール1日目は、プリンスとだべる。これにて終了したのであった。
ペシャワールのホテル