パキスタンで日本のお土産を渡してみた

パキスタン渡航前、クラスメイトに何かお土産を持っていった方がいいだろうな、と思った。

見知らぬ国の人にお土産をあげるのは、色々と考える。考えすぎた結果、「もういいや、面倒じゃ」と思ってしまう。

しかし、お土産というのは人間関係の潤滑油になることをドバイで学んだ。そう、お土産は単なるモノではなく、時としてプロモーション、セルフブランディングにもつながる重要な戦略ともなる。

というわけで、これまでの経験から特に反応が良かったブルボンのお菓子を買ってみた。内訳は以下の通りである。

・アルフォート特大パック(空港のコンビニで買った)
・ルーベラ
・ルマンド

は?

日本人なら思うだろう。

これのどこがお土産なんだと。

しかし、それは世界でも稀なる高度なお土産文化とスキルを持った日本人の発想である。ドバイで50カ国以上の外国人同僚に、日本土産を配り続けた結果わかったことがある。

外国人が驚愕&ガチで喜んだ!日本のお菓子お土産6選

そう、「白い恋人」や「東京バナナ」など、日本人向けのお土産は必ずしもウケるわけではないのだ。むしろ喜ばれるのは、チョコやクッキーといったシンプルなお菓子である。日本人にとってはなんの特別感もないが、そうした低価格のお菓子でさえも、世界レベルで言えば、異様にハイレベルなお菓子に仕上がっているからである。

よって100円ほどの板チョコでも、外国人同僚の輪に放り込むと「何これー!?すごいうまい!」などという、歓声が湧き上がるのである。自分が手がけたCMがヒットした、某代理店コピーライターのような気分である。

しかし、このレベルにたどり着くまでには、かなりの時間と失敗があった。幼少期の頃住んでいたインドネシアで、現地のキッズと交流しましょうという会があった。お互いの国のお菓子を交換して食べよう、というコーナーがあったのだが、私はそこで生涯にわたるトラウマを抱えた。

私が得意げに取り出したのは、せんべいだった。

私の家では甘いスイーツよりも、しょっぱいお菓子が流通していた。子どもながらに、せんべいは美味しいものだと、信じて疑わなかった。

私は世にも美味しいせんべいを、現地のキッズとシェアしているのだ、と。

しかし、現実は残酷だった。

現地キッズは、せんべいが気に食わなかったらしい。せんべいは無残にも、現地キッズにゴミとして弄ばれていた。「こんなんいらねーよー」「お前が食えよーおえー」みたいな、感じのやり取りを目の当たりにしてしまったのである。

私はハッとして周りを見渡した。和やかなグループの中にあるのは、ポッキーやクッキーといった子どもらしいお菓子じゃないか。

かつての自分に肩をたたいて教えてやりたい。

「せんべいというのはな、硬いし、色も地味だし。海外では一般的ではない食べ物なんだ。だから彼らの口に合わないのは当然なんだ。特に海外の人は、食に対して保守的なんだ。それは人間の本能だから、責めちゃいけない。相手を喜ばそうと思ったら、相手が何を求めているのか、相手の生活環境を知ることも大事なんだ」

思いこみと習慣というのは恐ろしい。

当時の私は、幼少期から家で与えられたせんべいを食べることによって、せんべいを世界共通で美味しいものだと思い込んでいた。しかし、それは私の世界の中で、美味しい食べ物であって、世界共通の美味しさではないのだ。

日本は世界で一番食べ物が美味しいという人もいる。しかし、幼少期から日本食を食べていた日本人にとって、自国で食べる母国料理が美味しいのは当然のことである。一方で、生魚を食べる習慣がない人や、食に関して宗教的戒律がある人からすれば、食べられる日本食は限られる。結局、人間何が美味しいかというと、食べ慣れたものなんじゃないか、と思う。

先のお菓子を渡した結果どうなったか。また今回は試験的に「パイの実」も加えてみた。幾何学模様を描いたりする授業があるので、6角形の形をしたパイの実はウケるんじゃないか、と予想したわけである。

見慣れないお菓子のパッケージをじーっと見つめるクラスメイト。

「これ、何入ってるの?原材料は?」

想定内の質問である。イスラーム教徒は、宗教的戒律があるため、ポークエキスや動物性油脂が入ったものは、要注意である。日本人ならよほどの限り見ることはないが、イスラーム教徒にお菓子を渡す際には、必ず原材料を確認するようにしている。海外ではベジタリアンの人も多いため、動物性のものが入っていないことも確認する。

上記の問いに対しては、「大丈夫、ハラールだよお」と返す。

製造者ではないので100%定かではないが、イスラームの戒律の場合は、知らずに禁じられたものを口にした場合は、特例としてその罪が免除されるのである。あとは神のみぞ知るである。

ひとしきりお菓子の説明(この時、パッケージにお菓子の中身が表示されていると、レクチャーしやすいし、向こうも安心する)をすると、ようやく手がつけられた。ちなみに相手がヨーロッパや北米出身だと、この手間がはぶける。

「うまっ!」

安堵の瞬間である。そして持参したお菓子は、1日で完売した。しかし、パイの実に関しては、パッケージに描かれている陽気なリスがあだになったのか、誰も手をつけることなく、数日間放置され続けた。

鳩サブレーでも同様のことがあった。鳩の形をした不気味なクッキー。誰も手をつけようとしなかった。しかし、一度味見をすると、「うまいお菓子だ!」と評判になり、瞬く間に売れた。ただ、クッキーが鳩の形をしていることに、触れるものは一人としていなかった。そこが鳩サブレーのポイントなのに。

そう。日本人にとっては、馴染みがある可愛らしいキャラクターが、海外では不気味なものとして捉えられることもあるのだ。

キャラものはイロモノ。王道はやはりシンプルに。また1つ学んだ私は、売れ残ったパイの実を人知れず回収した。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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